第二話 神を覚えた日-1, 2, 3 for I’m With You-・3
「というわけでわたしはこれで」
さすがに目を剥く秀明だった。
「何しに来たんですか」
「一旦驚かせようかと」
「というか、あれからドイツに帰ったのかと思いました」
「いや、みんなと山梨に行ったり一人ディズニーを楽しんだり」
「相変わらず奇想天外ですね」
(それは君もだろ?)「それがわたしのスタイルだ。じゃ、秀明。あんまり悩みすぎぬようにしたまえ色々なことをね」
無論秀隆は秀明の心を読み取ってそう言ったわけではないことは、秀明が一番わかっている。ただこのタイミングでこのように言われると、祖父のあまりにも鋭い感の良さに驚愕してしまうというのも事実だった。
もっとも、それを表に出すことはまるでない。それが生まれた時からテレパスとして生活している秀明のスタイルだ。
「それは爺さんもね」
「じゃあね〜ん」
と、秀隆は去っていった。
唖然としたままの龍介であったが、やがて気を取り直した。
「風のようですね」(又三郎だっけ)
「寅さんに憧れてるんだと」
「……でも」
ん? と、秀明は龍介に目をやった。
「いや、先輩を大事に思ってるんだなーと」
それはそうだと思う。
秀隆は、秀明のことはわからない。わかってはいない。
でも、それでも、わかろうとしてくれている。
それは秀明にとって、複雑なことではあるが——ありがたいことだった。
そして辰彦が龍介の残りの荷物を抱えてやってきた。
「えっ、柾屋先生がまた来たの?」
「でも入れ違いで帰っちゃった」
「うーん。なかなか会えないなぁ」
「会いたくなった?」
「複雑だなぁ」
「荷物ってこれで全部かい?」と、秀明は龍介に声をかけた。「本当に着るものぐらいなんだな」
「ミニマリストなんですよ彼は」と、辰彦はなぜか誇らしげに言った。
「誇らしくてやってるわけじゃなくて」(なかなか通じない)(いや通じてるのかなぁ)
(さすが我が弟)「現代的だ。時代の最先端だ」
「必要なものが必要なだけだよ」
「それは素敵なことだ」
同意する秀明に辰彦は目を輝かせた。
「そうでしょう店長さん」(話のわかる人だ)
「そうですよそうですよ」
「あのねぇ二人とも……」(本当に、困るなぁ)(先輩もからかわないでほしいなぁ)
「ところでお仕事の方はどうですか? 猫がどうとか言ってましたが」
「ああ、参りましたよ」
ここで連続的に会話をしてくれるのではないかと若干の期待をしていた秀明ではあったが、相手もプロである、瞬時に切り替えたようだった。もっとも秀明の目論見には気づいていない。
「まあ、細かいことはあれなんですが」
辰彦は瑛貴を思った。一応、尾行はしている。瑛貴の大まかなプロフィールもだいたいわかってはきたがそれを依頼主の真琴に伝えるわけにはいかない。それだけではカッツェを誘拐したとか殺したとかいったことには繋がらない。
だが今のあの子なら繋げてしまうかもしれない。それはわかる。
イメージとして怪しいというだけで、それだけで本人に突撃することはできない。証拠が掴めればいいがほとんど悪魔の証明だ。
辰彦としては長年の感覚で“瑛貴は無関係”と読んでいたが、感覚の話を彼女にしても伝わるはずもなく。
「兄貴もご飯食べてったら? 気分転換にさ」
「今日のメニューは?」
「ビーフストロガノフ」
「相変わらずおしゃれな名前の料理だ」
「ロシア料理だそうで」
「そうなんですよ店長さん。龍はロシア料理が作れるんですよ」
「もう、だからさぁ〜」
秀明はさっきの真琴たちを思い出した。
なんだか面倒なことが更に面倒なことになりそうな気配がした。




