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『生罪の悪魔』 ─ A Devil of life sin ─  作者: リクトシヨン
五章:悪魔達
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二十一話 『神定罪』

7月17日 午後7時47分──、


『生きる事だ──、』

「……え」

『コンノレイの神定罪、それは〈生きる事〉だ』

「……」

 バラムが僕に隠していたそれは、とてもと言って良い程、残酷な物だった。

『……』

「……それって『生きる事』が『罪』って事で良いんだよな?」

『……そうだ』

「『僕が生きてれば罪』ってことで良いんだよな?」

『…………そうだ』

「フフフ……」

『……』

「アハハハハハ……!」

『僕が契約してその日にバラムが罪刑変化を何度も扱える事』『何故か使える極刑の罪刑変化』今まで疑問に思っていた事を振り返れば、気付くのは簡単な事だった。

「そっか、僕……僕……」


 涙が滲み出てくる。


「僕……生きてちゃダメなんだ……」


 神定罪が分かった嬉しさなのか、生きている事が罪と言われた悲しさなのかは分からない涙だった。


『〈コンノレイという人間が生きる事で、多くの人々が厄災や不幸、死に見舞われる〉神はレイをそう見ているらしい……』

「バラム……」

『……なんだ?』

「……今まで気になってたんだけどさ」

『もしや──、』

「『契約破棄』って、できる?」

『……可能だ』

「そっか……」

『…………』

「…………」

 僕は悩んでいて、バラムはきっと言葉が見つからなくて黙っていたんだろう。


 長い、長い、沈黙だ。


「紺野君──、」

 その沈黙に手をまず先に手を差し伸べたのは、日野さんだった。

「君の今の願いはなんだい?」

「……人を助ける事です」

「契約した時の願いは?」

「……生きる事です」


 その男は、僕の一瞬見せた心の隙間に手を入れ込んで来た。


「悪魔は、契約者の願いを叶える為に全てを尽くす。それは知っているかい?」

「……はい」

「バラムが君に『嘘』をついていた理由は、解るかい?」

「……僕が『生きる事が罪』と知れば、きっと僕が死のうとするからです」

「……だってさ──、でも、もう一つぐらい、言わなかった理由はあるんじゃないかな? バラム?」


 この男は鋭かった。あのバラムですら口を割ってしまう程だった。


『……我は、レイが好きだ』

「……」

『契約者として好きだ』

「バラム──、」


 ダメだ──、


『……だから嘘も付いた。嫌われたくは無かったのだ』

「一つ聞いて良いか──?」


 それを言ってしまったら、きっと戻れなくなる──!



「それは──、それは『僕の神定罪が好きだ』の間違いじゃ無いのか?」


 ……。

 …………。

 ………………言ってしまった。


『……』

「生きているだけで罪を得られる。契約者の僕が好きじゃ無いのか?」

『……』

「……答えろよ」

『……』

「答えろよ! この『悪魔』!」


 僕は自分の胸の内にある心臓に怒鳴りつけた。


「前に言ってたよな?! 僕を『騙すつもりでいた』って!」

『それは──、』

「本当に騙していたんだな!」

『……ッ』

「……だったら、だったらいっそ、グラシャボラスみたいに僕を乗っ取ってくれよ……そしたらこんな悲しむ事なんて無かったのに……バラム、お前は……!」

『……すまなかった』

「お前は、最悪な事をしたんだぞ……! バラム!」

『……』


 ありったけをそのままぶつけた。

 思っていた事、気に入らない事、全部を僕はバラムに吐き出した。

 悲しさもまともに感じる事が出来なくなってしまった僕には『それだけ』しか残っていなかった。


『……レイ』

「……なんだよ」

『……すまなかった』

「……今言っても遅いよ」

『……』


 赦す事は、その時の僕には出来る筈も無かった。


「紺野君」

 日野さんが僕へ教える。

「悪魔には一つ秘密があってね──」

 バラムが教えてくれなかった、秘密を。

「悪魔には、それぞれ一つだけ、願いがあるんだ」

「……?」

「悪魔は、罪を成して契約者の願いを叶える事で、自身の願いを叶える事が出来る。勿論、それがどれだけのものでもね」

 僕は心臓に手を当てて聞いた。

「……バラムの『願い』は、何だ?」

『我の願いは──、』

 そして後悔した──、



『〈人間に()る〉事……だ…………』


 ──その願いを口にしたのを最後に、バラムは眠ってしまったのだった。


「……! バラム!」

『……』

 そのバラムの願いが、どれだけ強い物か、素晴らしい事なのか、僕は分かってしまった。

「オイ! バラム! 起きろ! まだ話は──!」

『人と生るじゃと?!』


 一方で、ビトルが驚きの声を上げる。


『よせ! バラム! それは我々〈悪魔にとっての罪〉じゃ! もしそれを成してしまえば! お主はもう! 天使だけでは無く! 悪魔にですらなれずになってしまうぞ!』

『…………』


 そうして声を荒げるビトルの声も今のバラムには聞こえていないらしい。


『何を眠っておる! バラム! 目を覚ますのじゃ!貴様は!貴様はどれだけ──!』


 一方で、声を上げるビトルの声は、そんなバラムに対して、怒る事は無く──、


『どれだけ人が好きなのだ! この戯け!」


──ただただ愛憎というものに満ちていた。


「ビトル……」

『……なんじゃ? コンノレイ?』

「……バラムが天使だった頃の話を、知っているのか?」


 僕はその様子を見て、ふと()()()をビトルへ聞きたくなってしまった。


『……知らぬのか』

「……うん」

『……ったく、己の話しすら契約者に話さぬとは……』

「ビトルが知っているなら、どうか僕に教えてくれ、バラムが悪魔になった理由を……!」

『……正確には、この戯けが天使だった頃の事は、儂には分らぬ、しかし、このバラムと言う悪魔が、どうして悪魔へ堕とされたかは、我も良く知っておる……』


 ビトルはやれやれと言わんばかりに事を僕へ教えてくれた。


『──バラム、いや、確か以前は“ドミニオン”と言ったか……その天使は〈人々の支配〉を神に託された天使だったのじゃ、しかし、奴はそれを拒んだのじゃろう……その挙句〈支配から人々を開放した〉のだ。それに怒りを覚えた神は、バラムを神界から、悪魔界へと叩き堕とし、今のバラムと呼ばれる悪魔が生まれたのじゃ』


 “ドミニオン”


  ……それがバラムの……天使だった頃の名前か。


『堕とされた天使は、堕とされた時にその名と記憶を神に奪われる。故に、バラムはその名を名乗る事も、聞き入れる事も出来ぬ。しかしあやつの記憶には、少なくとも自身が天使だった頃のそれがある。故に、我々悪魔もその事実を知っているのだ』


「バラムが天使だった事が、アイツの願いに何か関係あるのか?」


『……きっとな、しかし〈悪魔〉が〈人と生る〉のは、神から禁じられているのだ。もし、再びバラムが神の怒りを買ってしまえば、その時は──』


「……どうなるんだ」


『──無に帰される』


「……」


 バラムが言っていた。“死ねば無になる”と。

 つまり、バラムがもし自身の願いを叶えれば、バラムは死ぬと言う事だ。


「ビトル、僕は──、」


 僕は一度それを経験していた。完全では無いけれど、無になりかけていた。

 僕はそれがとてつもなく怖くて、悪魔と、バラムと契約したんだ。生き返って『自分らしく生きる』という新しい願いを掲げて、生きていた。

 そんな僕が耐える事も出来ない、死を覚悟していた僕ですら『無になる』というのは、恐ろしいと思えてくる恐怖だったのだ。けれど──、


「それでも、バラムの願いを叶えてやりたい」


 ──僕はバラムの願いを叶えたい。


『……良いかコンノレイよ〈バラムに同情するな〉とは、儂は言わぬ。しかし〈他の願いを叶える〉と言う事は〈己の願いを捨てる〉事と知っておけ』

「わかってる、けど、今度は僕がバラムの願いを叶えてあげなくちゃいけない、せめてバラムが報われる様にしてあげたい」


 嘘を付いてでも、僕の願いを叶えようとしてくれた。僕を救おうとしてくれた。例え、それが僕の神定罪が目当てだったとしても、僕はバラムへ恩返しをしてあげたい。


 今度は僕が『バラムの悪魔になってあげないといけない』んだ。


『はぁ……ったく、似た者同士よのう、お主等は』


 ビトルは呆れた様子で溜息を付く。


「……にしても、僕のこの神定罪であれば『冴木とグラシャボラスを止められる』って事で、良いんですか?」

 いっぽうで、僕は日野さんに聞く。


 この際、もう、バラムが言う『信じるな』という言葉は信じずに、契約者の人達に頼れるだけ頼る事にしたのだ。


「そうだね、君がバラムと契約を継続したまま、そうして息を吸って吐いて、今も尚生きている間にも、罪は君に与えられている筈だし、極刑並みの罪刑変化が扱えると言う事は、バラムの扱える範囲であれば、きっと紺野くんもその力を己の物に出来る筈だよ」

「だったら……その……どうか僕に──、」


 僕は頭を下げて言った。


「──僕に戦いのやり方を教えてください!」


 ビトルとシュウとの戦闘で気付いた事は、彼等は余りにも戦い慣れているという事だった。

 バラムと協力してグラシャボラスを撃退した僕達ではあったが、アレがグラシャボラスの三分の一の力だとしたら、僕達は()()()()だ。

『だったら、この戦い慣れている人達に教わり、何時かの為に備えるのが得策かつ効率的だ』と、僕は思った訳だ。


「んー、どうしよっかなー?」


 ただ──、それをこの人達が聞き入れてくれるかは、また別の話だった。


「お願いします!」

「そうだなぁー、あ! そうだ! 紺野君!」

「ハイ!」

「暫くココで働かないかい? 勿論お金も払うよ!」

「ハイ!」

「なら決まりだね! じゃあ、今から開店だからよろしく!」

「……え?」


こうして二週間前から休み無く、戦闘知識と罪刑変化の知識を教わりながら、僕はバー“イスラフィル”の新人アルバイトとして日々努力していた。

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