第84話 ケルベロス
sideジン
バンドッグ王国領 ヨークシャー国境付近
バンドッグ王国の勇者ジンは国境付近の村にやってきていた。女王プードルと会話してから1時間。最短距離でやってきたのだが・・・。
『・・・・・・っ・・・。酷い有様だ。』
ジンは思わず唇を噛む。
村は破壊し尽くされ、逃げ遅れた村人がいたるところに倒れている。倒れた村人は既に手遅れの状態だった。元凶となったモンスターは直ぐに見つかった。A級モンスターのキマイラだった。こんな小さな村でどうにかできるモンスターではない。
キマイラはどす黒い光を纏っている。
『ヨークシャーの実験体か・・・』
ジンがキマイラを見て呟く。
ジンはヨークシャーの実験のことを知っていた。
プードルに封印石のことを教えたのもジンだ。
その段階で動いていればよかったのだが、ヨークシャー王国は最初、平和利用するように見せかけていたため勇者としてジンが対処するのは難しかった。
むしろ他国には今もそのように見えてしまっている。
ジンがキマイラに近づいていく。
『・・・っ、実験の最初の段階で潰しておければこんな事も・・・。グランドスマッシュ・・・』
グランドスマッシュがキマイラを一刀両断した。
『キマイラに罪はない。操られている魔物を殺すのは気分の良いものではないな・・・』
ジンは苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。するとそこに1人の村人が現れた。
『・・・・・・勇者様。来て頂きましてありがとうございます。』
村の村長だった。詳しく話を聞くと、助かった村人は別の場所に避難しているとのこと。
ジンは村長に連れられ、村の一角の地下に作られた避難所の様なところに案内される。
『これは・・・』
そこには多くの怪我人がいた。重傷者もいる。
『直ぐに治癒魔法をかけよう。この怪我人の数は時間がかかりそうだ。重症者から順番に対応しよう。』
ジンはすぐさま治療に取りかかった。
その頃・・・
ジンがキマイラを討伐した同時刻。バンドッグ王城では黒い光を纏ったケルベロスが暴れまわっていた。
◇
ヨークシャー王国 近郊 封印石の研究所
シュナウザーの元に黒い光を纏ったケルベロスが戻ってきた。その口には気を失ったプードルが咥えられている。
『おぉ、ここまで正確に操れるとは・・・・・素晴らしい!封印石・・・ほぼ完成だ・・・。 』
シュナウザーはそう言うとケルベロスからプードルを受け取り研究施設の一室に軟禁した。
『計画通り・・・。もういいぞ・・・』
シュナウザーがケルベロスに指示をだす。するとケルベロスは元の姿に戻った。元の姿、それは九尾だった。
『ではお前はプードルを見張っていろ、私はこの封印石を完成させる。』
そう言うと、シュナウザーは封印石を手に、研究室へと入っていった。
◇
sideリン
リンはケルベロスがあたためているタマゴを確認しにきた。そのタマゴが精霊である可能性が高いと予想したためだ。
『ケルベロスさーん』
リンが小屋に入るとケルベロスはタマゴをあたためていた。
『おぉ、リン。戻ったんか。どしたん?』
ケルベロスは大事そうにタマゴをあたためながら応える。
『いや・・・ちょっとそのタマゴを見せてもらえないかなぁと思いまして・・・』
リンが言いづらそうに頼む。
『いやだ!』
ケルベロスは間髪いれずに全力で拒否する。
『いや、ちょっとだけなんで・・・』
リンも食い下がり頼み込む。
『いやだ!いぬちゃんが来るまで誰にも触らせん!』
お互いひかない。
『ちょっとだけです! 』
『いやだ! 』
『そこをなんとか! 』
『なんともならん! 』
言い争いが白熱してきた。
リンが強硬手段で無理矢理触ろうとするもケルベロスは逃げる。
リンがケルベロスを追いかける。
ケルベロスは逃げる。リンとケルベロスの追いかけっこが始まった。
次回へ続く
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