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外道王女の行く末は  作者: 不明
12/20

さあ、処刑の時間だ!

 クルールをぶんどってから早二年が経過した。ここ二年間の間にあった出来事と言えば、メルグが有象無象の国々との小競り合いを繰り返していたくらいである。私としては、なんとも平和で退屈な日々が続いていた。しかし、最近になってようやくわくわくさせてくれるような出来事が勃発したのだ。その根源は、西方の国々、カナイドとチキジマである。

 まずはカナイド王国。こちらは一部の貴族と民衆が結託して、反乱を起こしていた。クルールを奪われ、財政が悪化しつつあったカナイドが税を吊り上げた結果である。不満が爆発しちゃったんだね。というわけで、親切な私は反乱軍を支援。カナイド王は捕らえられ、処刑された。

 そしてカナイドに臨時政府が敷かれて間もなくのこと。突然、チキジマがカナイドに対して宣戦布告を突きつけたのだ。布告理由を聞いて、私は笑いが止まらなくなった。なんと、神のお告げだから、だそうだ。この上なくアホらしくて馬鹿馬鹿しい理由である。流石キチガイ国家ね。

 私はどうなることかと、事の成り行きを楽しく見守りつつ水面下で活動。そしてカナイドが取った行動は、ランシュテールに援助を要請することだった。前回の会談で、メルグから切り捨てられたことを思い知ったのだろう。とすれば、カナイドが頼るのは必然的にランシュテールしかないのである。


「どうか、我が国にご助力願えないでしょうか……!」


 カナイドの代表者たるなんとかっていう貴族が、苦悩の顔つきで私に頭を垂れた。今のランシュテールなら、チキジマごときをあしらうのは簡単なこと。そして今カナイドはとても困っているのだ。困っている者に頼られたら、それを放っておくことなど私にはできない。となれば、私の返事は決まっている。


「ええ、もちろんそのつもりですわ。カナイドの罪なき人々が、チキジマの毒牙にかかってしまうのは見過ごせません」


 なんとチキジマは、己の信奉する神を崇拝しない国の民はすべて悪とみなしているそうなのだ。慈悲深いと噂の巫女姫は、たった二年の間に何があったのやら。こうなっているところを見ると、あの国に祭られているのはとんでもない邪神に思えてならない。そういえばゲーム本編でもちらりと出てきたけど、頭のおかしさを漂わせた神だったわね……。

 それはともかくも、巫女姫の発したトンデモ政策の所為で、外国の女は慰み者にされるのは確定的と見ていいだろう。処女性を重んじてきたチキジマは、病気が蔓延したのをこれ幸いとばかりに、国内の娼館をすべて閉鎖し、売春行為や婚外交渉も禁止した。禁を犯せば、当然厳しい罰が課せられる。だがそれにもかかわらず、禁を破るものが後を絶たず、果てには強姦や暴行事件が多発するようになってしまったようだ。そりゃそうだよね。人間の三大欲求である性欲を抑圧されちゃあたまんないよね。私だって暴れたくなるわ。というわけで現在のチキジマの兵士は、獲物を求める野獣のごとき強姦魔と化している。そんな危ない集団、こっちまでなだれ込んできても困るしね。駆除はするよ。


「ああ、ありがたい……」


 カナイドの代表者は、ほっと顔を緩ませ破顔した。そんな彼を見て、私もにっこり微笑む。そして一枚の紙を彼の目の前に差し出した。


「ではこれに署名をしていただきます」

「これは……?」


 文章を目で追っている彼の表情が、険しさを徐々に増していく。全てを理解したであろう頃には、助力を願った時のような顔に戻っていた。


「一体、どういうことですか……?」

「見てお分かりにならない? ランシュテールへの併合要請文です」

「そんな、これはあまりにも……」

「既に我が軍は、カナイドに向って進行しております。このまま要請文に署名なされないのでしたら、カナイドは哀れなことになるでしょうね……。ですが賢いあなたなら、お分かりになるはず。話の通じない悪漢どもに蹂躙される道と、我が国の一部として被害を最小限に食い止める道と、どちらが良いか、ね。それとも、一番の悪路をお選びになる……?」


 カナイドの代表者の顔が、一気に絶望の色に染まった。唇はわなわなと震え、胸にぎゅっと手をあてた姿はとても苦しそうである。憐憫を誘う姿ではあるが、それ以上に私は愉悦を覚えた。そうだよ、それ。私はそれが見たかったのよ! 私は困ってるやつがいたら、もっと困らせたい。そして屈服する姿を見たいのだ。

 彼はしばらく苦悩していたが、やがて震える手つきでペンを取り、署名を書き記した。ふふ、君の苦悩する姿、思う存分堪能させてもらったよ。楽しませてもらった分頑張るからね!

 こうして話はまとまり、カナイドという国家は消滅。ランシュテール軍は、チキジマに向って進撃を開始した。


 チキジマの攻略には、シャルリーヌも同行することとなった。彼女もそこそこの魔法の使い手なので、前線に出しても問題はないが、戦わせるためではない。もっと重要なことをしてもらうためだ。というわけで、彼女に死んでもらっては困るので前線には出さない。万が一危険なことがあっても、彼女の逆ハー隊が身を挺して守ってくれることだろう。


 元カナイド領の平原で、戦いの火蓋は切られた。以前よりも力をつけた我が軍の敵ではない……と言いたいところだが、チキジマの兵士も中々健闘している。気迫がもの凄いのだ。私に襲い掛かろうとする兵士などは、目が血走っていて鼻息が荒い。禁欲生活の所為だろうか。はっきり言って気持ち悪い。こんなむさ苦しい戦場に、私のような美女を見たら食らいつきたくなるのは分かるけど、欲望の的にされるのはごめんである。

 私はおぞましいケダモノどもをひたすら斬って斬って斬りまくった。これだけ動けば疲れてもおかしくないはずなのに、戦えば戦うほど私の力は増していく。返り血を舐めれば、ほんのりと甘くまろやかな味で私の疲れを癒した。どうやら私の身体は進化してしまったようだ。この世界の覇者となるべくしてね!

 波に乗った今の私を止められる者は誰もいない。それがたとえ、成長したワンコであろうとも。


「あら、あなた前線にいていいのかしら? 巫女姫さまのお守りはどうなさったの?」

「お前に答える必要はない」


 私と同じように血にまみれたワンコは、そう言うなり剣を振りかざす。私はそれを軽く受け流して、ワンコを攻めに攻めた。兵を率いる者だけあって、今までの雑魚とは違いワンコは中々腕が立つ。しかし私の敵ではない。打ち合いが続いているけれど、余裕の私とは違って、ワンコはとても苦しそうなんだもん。ほほほ、あんたは楽に死なせてあげないわよ。あの無礼な言動の数々、私は一生忘れない。無様に涙と鼻水を垂らしながら私に許しを請う姿を見るまで、私の気は治まらないのだから!

 疲労からか、ワンコには段々と隙が出始めている。私は徐々に彼の四肢を切り刻み、そして重い一撃を放った。痛みと疲労からか、それを受け止めきれずに尻餅をついてしまうワンコ。さあ、処刑の時間よ。まずは腕を切り落としてやるわ!

 私はワンコに向って、意気揚々と剣を振りかざした。


「お姉さま、やめて!」


 すると思いも寄らないことに、シャルリーヌがワンコの目の前に躍り出たのだ。げっ! 何故ここに!?

 勢いづいた剣は急には止まれない。このままではシャルリーヌが――


「くっ!」

「シャルリーヌ!」


 手ごたえははっきりあった。人の身体を切り裂く感触。そしてシャルリーヌの悲鳴……。


「ああっ、モビー!?」


 ……私の刃を受け止めたのは、ワンコでもシャルリーヌでもなく、彼女の逆ハー隊であるイケメンの一人であった。シャルリーヌでなかったことに、私は胸を撫で下ろした。正直役に立つとは思ってなかったけど、よくぞ職務を全うしてくれたわ。モブ男よ、あんたは二階級昇進させてあげるからね。


「モビー! しっかりして……!」

「シャルリーヌ、あなたが無事でよかった……」

「ごめんなさい、私のために……!」


 そしてシャルリーヌたちは私とワンコを無視して、茶番を始めた。私は興奮状態から一気にしらけたが、ワンコはなんと感動しているのか目を潤ませている。何なのこいつら。ここは戦場なんだけど。どうかしてるわ……。周りは必死になって戦っているというのに、私たちの周り一帯だけ別世界のようである。

 次第にムカムカがこみ上げてくる。本当に何をやっているんだろう。言いつけを守らず、前線にしゃしゃり出てきて! おかげで私はシャルリーヌを殺すところだったのだ。

 怒りが頂点に達した私は、モブからシャルリーヌを引き剥がし、彼女の頬を引っぱたいた。


「シャルリーヌ、後方へ戻りなさい!」


 私が怒れば、彼女は大抵大人しく従ってくれる。だがこのときばかりは反抗の色を見せた。


「戻りません!」


 シャルリーヌは目に涙を溜めつつも、キッと挑むように私を真っ直ぐ見つめた。


「お姉さま、お願いします。エーレンフリートさまを、どうか私にお預けください!」

「どうするつもり?」

「説得します」

「シャルリーヌ、すまないが、僕はこの女のもとに下るつもりは全くない」


 ワンコはふてぶてしくそう言い放った。ふん、まずはその口をきけなくしてやりたいわ。こいつが喋るのを聞くとストレスがたまってしょうがない。


「エーレンフリートさま、どうか、どうか、私の話を一時だけでもいいから聞いてください。お姉さまも、お願いします……。もう、我侭は絶対言いませんから……」


 涙をぼろぼろと流し、ひれ伏すシャルリーヌ。これは演技ではなさそうね。そうまでして殺されたくないって、特別に思ってますって証拠じゃない……。こいつが仮に寝返ったとしても、逆ハー隊を維持できないんじゃないの?


「お姉さま、どうか……!」


 泣き咽び己の助命を願う彼女の姿に、ワンコもかなり戸惑っているようだ。ああ、もう、まったく……。


「……拘束と魔封じを掛けることが絶対条件よ」

「お姉さま……! ありがとう、ありがとうございます!」


 こうしてワンコを生け捕りにし、戦闘が収束した後、シャルリーヌと彼を天幕で二人きりさせた。もちろん外には見張りを置き、逃げ出せないように結界も成形済みである。

 さて、どうなることやら……。

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