30 エピローグ
登場人物紹介
メアリー・シドニー……主人公。田舎子爵の長女。勘違いしやすい性格の十七歳。
カルロス・スピードマン……牧師。スピードマン伯爵の次男。二十六歳。
§ § §
「お嬢様との結婚を許していただけませんか?」
エンジェル伯爵夫妻との形ばかりの挨拶をすませ、家に戻った私達です。
そしてカルロス様は早速お母様に切り出します。
その時のお母様の顔ったら――ふふふ、いつまでも忘れないでしょう。
でもお母様はとてもとても喜んでくれて特に反対はされませんでした。
でもね、
「貴方のような立場ある方が本当にメアリーなんかで宜しいんですの?この娘はとてもとてもあわてんぼうさんでおっちょこちょいなんですもの」
なんて、言うのはやめてください。
それを聞いたカルロス様がクスクスと笑いだして私はとてもとても恥ずかしかったです……。
そんなこんなは有りましたが、私の両親の許可はスグに取れました。
私の両親は、基本私が幸せならそれでいいと思っているのです。
と、いうわけで私達の結婚への障害は一点へと絞られました。
そう、スピードマン伯爵の事です。
私の両親からも、伯爵が結婚に反対しなければ、という但し書きが付いていたのですよ。
カルロス様……いえ、カルロスは是が是非にでも伯爵の許可を取り付ける、と息巻いていましたが、私は内心、『時間がかかるだろうなぁ……』と思っていました。
全ては伯爵の誤解とはいえ、今の私の印象は最悪なのですから。
§ § §
カルロスが私にプロポーズをしてくれた数週間後、事態は意外な方向に進みました。
とある出来事がおきて伯爵の機嫌が良くなり、私達の結婚も「お前の好きにしろ」と言ってくれたというじゃありませんか!
その出来事とは――なんと、サラーの結婚が決まったのです。
お相手は何と侯爵様で、伯爵令嬢たるサラーにとっても玉の輿です。
その事で伯爵は大変に機嫌が良くなり、カルロスと私の事なんてどうでもいいと思われたのでしょう。
後日、詳しく聞いたところ、その方とサラーは深く愛し合っていましたが、その方は前侯爵の従兄で領地管理をしていたとの事。
爵位や財産もないため、伯爵の同意を得られそうになくプロポーズを躊躇していたとの事です。
それが、前侯爵が病にかかり、二十代という若さで無くなったことにより、思いがけず爵位や財産を受け継ぐことになったため、結婚への障害が無くなったというのが真相らしいのです。
あとは我が家の状況も正しく伝わった事も、伯爵が許可をだした一因になっていると思われます。
我が家は決して貧乏では無く、お父様は倹約家ではありますが我が家の財産だけみれば裕福、といっても差支えない水準です。
また親戚で大金持ちのエンジェル伯爵夫妻との仲も良好で、こんな田舎村まで定期的に訪れてくれます。
そして、私の結婚にも三千金貨相当の財産を持参金として付けてくれるとのお話です。
大体五十金貨もあれば労働者階級の五人家族が不自由無く暮らせると聞いていますので、それに合わせれば六十年分の生活費となります。
結婚式はカルロスの教区でやる事が決まりました。
これには珍しくお父様が強く抗議していました。
どうもお父様は自分の領地で私の式を挙げさせたかったみたいですが、こればっかりはしかたありませんよね。
私はいずれ、自身が住むことになるカルロスの牧師館を新しい壁紙やカーテンで、色どりを添えます。
あ、そうそう、小さな犬も飼い始めました、よちよち歩きで私やカルロスの元を付いて行く小さな犬をみて、私は昔の弟妹を思い出し、おもわずニヤニヤが止まりません。
こうして、私達は一足先に子犬と言う新しい家族を招いたのでした。
§ § §
そして数か月後、私とカルロスは正式に夫婦となる日がやってきました。
私は婚礼衣装を纏いしずしずと歩いています。
これはお母様が昔着たと言う衣装を直した物です。
本当は新しい衣装を買っても良かったのですが、お母様が「ぜひ、メアリーには私の衣装を着て欲しいわ」とおっしゃったので断わり切れなかったのです。
でもお母様のみならず、妹たちまで総出で直したこの衣装は素晴らしい衣装に変身しました。
「おねーちゃん綺麗~」
「メアリー、とっても素敵よ」
などなど、私を褒めているのか、それとも衣装を褒めているのか分からない様な賛美の声が口々に掛けられます。
「新郎カルロス、貴方は新婦であるメアリーを妻として、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、彼女を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くす事を、神に誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦メアリー、貴女は新郎であるカルロスを夫として、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、彼を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くす事を、神に誓いますか?」
「……はい、誓います」
「では、誓いのキスを神と皆の前で」
カルロスは私の顎を摘まんで唇を重ねる。
甘く優しいキス、その唇は熱っぽかった。
「これにて今日、二人は夫婦となった。二人とも今日神に誓った言葉を忘れない事を私は願っている」
鳴りやまない拍手と歓声、そしてカルロスがコッソリと私に耳打ちする。
「今日ほど、生きていてよかったと思える事はない。少なくとも僕はそう確信しているよ」
「はい、私もです……」
この後、私はカルロスといくつの夜を過ごして、どんな暮らしをするのでしょうか?
でも私には確信があります。
いつまでも彼を愛していけるだろうと――。




