表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定義不能の正義  作者: SAN
PR
1/2

正義の形

炎が上がっていた。


ビルの上層階。

崩れかけた床。

煙に巻かれながら、二人の人間が向かい合っている。


一人は男だった。

スーツは焼け焦げ、腕には子供を抱えている。


もう一人は、白鷺 灯。


何も持たず、ただ立っているだけの男。


「……間に合ったか」


スーツの男は、安堵したように言う。


「頼む、この子を連れて逃げてくれ。

 俺は……もう無理だ」


灯は答えない。


ただ、その男と子供を見ている。


その視線に、男は違和感を覚えた。


「……どうした?」


「お前は、正しいことをしていると思っている」


灯は静かに言った。


男は一瞬だけ固まり、そして苦笑する。


「当たり前だろ。子供を助けるんだ」


「じゃあ聞く」


灯は一歩近づく。


「この建物の下にいる人間は?」


男の顔が歪む。


「……は?」


「崩落が始まっている。このまま倒れれば、

 下にいる数十人は死ぬ」


「……だから何だ!」


「お前がここに残っているせいで、避難が遅れている」


沈黙。


煙が濃くなる。


子供が咳き込む。


男の目に、焦りと苛立ちが混じる。


「だから……どうしろって言うんだよ」


灯は答える。


「選べ」


空気が、変わる。


それは戦闘ではない。


だが確実に、“何か”が始まっていた。


「その子供を救うか、下の人間を救うか」


「ふざけるな!!」


男は叫ぶ。


「そんなの選べるわけないだろ!!」


「でもお前はもう選んでいる」


灯の声は、どこまでも冷たい。


「その子供を抱えた時点で、下を見捨てた」


男の呼吸が乱れる。


否定したい。


だが、できない。


事実だからだ。


「違う……俺は……」


「お前は正義だ」


灯は言い切る。


「だが同時に、誰かにとっての悪だ」


その瞬間。


世界が、歪む。


男の輪郭が揺らぎ、言葉が形になる。


――定義。


「お前は、“一人を救うために多くを殺す者”だ」


「やめろ……」


「認めろ」


「やめろ……!!」


沈黙。


そして。


男は、目を閉じた。


「……ああ」


小さく、呟く。


「俺は……悪だ」


確定。


その瞬間、何かが“固定”された。


男の表情が変わる。


迷いが消え、代わりに歪んだ決意が宿る。


「だったら……最後までやる」


男は子供を強く抱きしめる。


「この子だけは、絶対に助ける」


床が崩れる。


建物が傾く。


下から、悲鳴が上がる。


灯は動かない。


ただ見ている。


その結末を。


やがて、全てが崩れ落ちた。


炎と瓦礫の中で。


一つの正義が、成立し。


同時に、いくつもの命が消えた。


――戦いは終わっていない。


そもそもこれは、戦いではない。


ただの選択だ。


だがその選択は、確実に人を壊す。


灯は呟く。


「……これが、人間か」


その目には、何の感情も浮かんでいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ