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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第13章「黒歴史仲間」
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11話 どっちを選べばいい? 第13章END

 白摩署の刑事部屋に戻ったタケルたちばなが、刑務所でのことを宮元みやもとに伝えた。


「それじゃ。所長が買収されていたと?」

「詳しくは分かりませんが、その線が強いでしょう。県警(我々)もすぐに調べを進めます。それと、勝田かつたの件も県警で指名手配を行いますので、詳しいことはまた後で連絡しますので」

「分かりました」

「それじゃ、大下君」


 橘はそう言い残し刑事部屋を出て行った。

 その後に武はあることに気づく。


「ちょっと待った。8年前の事件に絡んで知るなら、俺だけじゃなくてトシさんたちも狙われるんじゃ?」


 考えてみれば、勝田の執念深さは異常だ。

 タレコミをした小野田おのだの恨むのは分かるが、直接手を出した訳じゃないのに片平《片平》が狙われたとなれば、当然勝田を逮捕した刑事にも矛先が向くはずだ。

 そうなると、たにと一緒に居た鹿沼かぬまも狙われる可能性が高い。もっと言えば、あの場に居た刑事たちもそうだ。


「トシさん、8年前のあの時に居た他の刑事は?」


 武は鹿沼に訊いた。


「確かオヤッさんと、私と……あとは犬塚いぬずか猫山ねこやまだが……」

「……そんな漫画のキャラみたいな苗字の人居るんですね」

「まぁ、その2人なら大丈夫だろう」

「どうしてですか?」

「犬塚はがんで亡くなったし、猫山は奥さんの実家がある沖縄に居るはずだ」


(また随分と好都合的な安全地帯に居るな、犬塚と猫山って人)


「となると、狙われるのは俺とトシさんか……んっ!」


 その時、もう1人勝田に狙われる可能性がある人間が居ることに気づく。


「もしかしたら、未来ミクちゃんも⁉」

「片平の妹か?」

「はい課長。勝田がどこまでやる気なのか知りませんけど、可能性的に。そう言えば、未来ちゃんのガードは?」

「それなら引き続き菅原すがわら安藤あんどうが一緒にいる」

「そうですか……」


 大袈裟だと思っていた飛馬ひばの行動が正しかったことに、武は内心悔いた。

 すると、もう1人可能性のある人物が頭を過ぎる。


「待てよ! カオルさんは⁉」


 未来が狙われる理屈で考えれば、谷の妻である薫も狙われる可能性が出て来る。

 武は携帯電話を取りだし、薫を呼び出した。


『はい、どうしたの武君』

「薫さん⁉ 今どこに居ますか⁉」

『今? 友達に誘われて名古屋に居るけど……』

「それを知っているのは?」

『私と友達だけよ。明後日に帰るけど。どうしたの?』

「まだ確証はありませんけど、もしかしたら薫さんが狙われるかもしれません。もし怪しい人につけられている気がしたら、すぐに警察の方へ相談してください」

『わ、わかりました』

「それでは気を付けてくださいね」


 薫が電話を切ったことを確認すると、武は携帯電話をしまった。


「ふー、とりあえず安心かな……」



 しばらくすると、宮元の机に置いてある電話が鳴った。県警からの報告で、勝田の指名手配が始まったらしい。

 片平と小野田との件に関しては、裏付ける証拠が無いので重要参考人としてだが、不正に刑務所を出たことで〝逃走罪〟が成立、逮捕状が出たようだ。


「とりあえず勝田の緊急手配はするそうだが、お前と片平の件もあくまで状況証拠で、勝田の犯行と裏付ける証拠はない。それに、北野組は硲署の管轄なので、担当の所轄と県警の許可を取るまで北野組には手を出さないように命令されたよ」

「……そうなりますね」


 こうなると武も手が出せない。それは分かっている。

 ただ、刑事としての武ならば、だ。

 そんな軽い考えを抱いている武だったが、宮元から更に県警から受けた命令を武に伝えた。


「そこでだ。勝田が捕まるまで、お前は署内でデスクワークだ」

「なんですってぇ⁉」

「狙われていると分かった以上、お前を署から出すわけにはいかん」

「それはそうですけど、まさか、寮に戻らないでずっと署に居ろ、って訳じゃないですよね?」

「その通りだ」

「ええぇー⁉」

「仕方ないだろう。いいから大人しくしてろ、命令だ」


(まずいな……)


 武はガックリと肩を落とし自分の席に戻った。

 これでは明後日の計画がまる潰れだ。

 そう思った瞬間、武はあることを思い出した。


(あっ! レイに連絡するの忘れてたぁ‼)


 武は携帯電話を取りだすと、レイからメールが届いていた。


(ヤッベー……)


 

 隙を見て白摩署の屋上に来た武。辺りは日が傾いている。

 何時もならが誰も居ないのだが。


(まさかライフルまで持って……ないよな?)


 様々な可能性が頭を過ぎる所為か、どうも疑心暗鬼になってしまい、何時もなら何のためらいもなく開けるドアも、今日は少しだけ開けて周りを警戒する始末だ。

 誰も居ないことを確認すると、いつもより身を低くしてレイに電話を掛けた。


「もしも――」

『――武⁉ 大丈夫なの⁉ 怪我は無い⁉』


 耳を突き抜けるほどのレイの大きな声に、武は一瞬目を回した。

 まさかここまで心配されているとは思わなかった。


「連絡遅れてごめん。怪我したのは隆太だから……硲署で俺と一緒に居た奴ね」

『……そう。重症って聞いたけど?』

「ただのかすり傷。命に別状は無いよ」

『マスコミも適当ね……』

「同感……」

『それで、どうして狙われたの⁉ また塚元みたいに黒富士組の仕業?』

「その線も否定できないけど、多分今回の犯人ホシは、元天王会系北野組の勝田 幸三って男の仕業だ」

『何で天王会に狙われるの?』

「元って言ったでしょ。ちょいと昔に色々あってね、その時の縁で狙われているわけ」

『どんな縁よ……? それで、まさか謹慎とかじゃないでしょうね?』

「謹慎よりやばい、署に缶詰になるのことが決まって、寮にも帰れなくなった」

『それじゃ、何も出来ないじゃない⁉』

「そう。それでなんだけど」

『なに?』


 武は周りを見渡し、再度誰も居ないことを確認した。


「力を貸してくれないか?」

『何ですって?』

「時間を作るから、その間に勝田を捕まえたい」


 武の考えはこうだ。署の何処かに行くと見せかけて抜け出し、その間に勝田を捕まえる、ということだ。


『そんなの無理よ』


 当然だがレイは拒否した。

 抜け出すとしても、せいぜい数十分稼げればいい方だ。

 その間に居場所も分からない相手を見つけることなど、レイでも不可能だ。

 しかし、武にはある考えがあった。


「少なくとも、俺の周囲のことを勝田は把握していると思う。もしかしたら、署を見張っているかも」

『その確証が何処にあるのよ?』

「俺の寮の帰路も把握していたってことは、そういうことだろ?」

『だとしても危険すぎるわよ。悪いけど協力できない。それに、私たちの標的は黒富士組、天王会まで敵に回ったらどうするの?』

「それは無いと思うけど……」

『とにかくダメよ。犯人が分かっているなら、あとは他の刑事に任せなさい』

「待ってられないよ。早く決着つけないと、他にも狙われる人が――」

『――もしものことがあったら誰が谷さんの仇を取るの⁉ いいから今回は大人しくしていなさい、以上‼』


 そう言ってレイは電話を切った。

 谷のことを言われたら武も何も言い返せないが、それよりレイに止められたことが意外だった。

 確かにこのまま大人しくていた方が安全なのは違いない。あの計画だって、また有休を取った時に実行すればいい話だ。

 しかし、こうしている間にも鹿沼や未来が勝田に狙われる危険があると考えると、どうしても大人しくしていられない。

 ここはやっぱり、多少は無理をしても勝田の逮捕に動くか。

 そう考えた武は、携帯電話を取り出した。

 情報屋の日下なら、何かを知っているかもしれない。

 日下を呼び出そうとした瞬間、武の指が止まってしまった。別の不安が過ぎったのだ。


 こんなことをして、レイに嫌われたら?


 今までにもレイの忠告を無視して酷い目に遭ったことは少なくない。

 だからこそ、今度勝手に動いたら、本当にレイが自分から離れてしまうのではないか、と不安の気持ちでいっぱいだ。

 勝田を早く逮捕したい気持ちと、レイに嫌われたくない気持ちがぶつかり合う。

 武は手すりに額を当てる。


 どっちを選べばいいのか……。


 悩みに悩み時間だけが刻々と過ぎていく。

 いつの間にか手すりに寄りかかる体制を取っていた武は、自分の両ひざを両手で叩き、立ち上がった。

 そして、携帯電話を取り日下を呼び出した。

 やはり勝田を野放しに出来ない。


『ようアンちゃん。どうした?』

「すまない。大至急、天王会の北野組に昔居た、勝田 幸三って男について調べて欲しいんだ」

『北野組の勝田? 黒富士組じゃないのか?』

「どうせなら北野組の動きについてでも構わない。何か情報を集めてくれ」

『よし分かった』

「よろしく」

 

                             第13章 END

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