第七話 堕ちて、おちテ……
ブックマークや感想をありがとうございます。
これで、完結です。
それでは、どうぞ!
結果として、お母様は、私が眠っている間に処刑されてしまった。しかも、あの悪魔は、その処刑の様子を楽しそうに語って聞かせるのだ。
『彼女は、二頭の馬にそれぞれ両足をロープでくくりつけて、市中引き回しの刑にしたよ? ふふふっ、とっても無様な姿だったから、ミーネにも、見せてあげたかったよ』
それから、事細かに、お母様がどんな末路を辿ったのかを聞かされた私は、何度も何度も吐き気を覚え、恐らくは、ヤツの力で、吐き出すことも許されなかった。
(私の、せい……私が、動かなかったせい、でっ)
後悔先に立たず。あまりにも残酷な処刑方法に、なぜ、あの時、無理にでも動かなかったのかと、自分で自分を責める。しかし、その一方で、この悪魔の狂気が恐ろしくて仕方がないのも本当だった。
『ねぇ、ミーネ。俺はね? ミーネの心をぜぇんぶ奪いたいんだ。だから……誰にも、心を寄せたらダメだヨ?』
叫ばなかったのが奇跡と言えるほどの、強烈な脅し。凄絶な狂気に呑まれながらも理解したのは、私が誰かに心を寄せれば、その人間は、お母様と同じか、それ以上の末路を辿るということ。
(なんでっ、どうしてっ、私がっ!)
私が、いったい何をしたというのか。なぜ、こんな目に遭っているのか。その理由を、欠片も理解できないままに、私は、ヤツに雁字搦めにされていく。
「あ……うぁ……」
挙式は、改めて行われ、初夜も終わった。私の体は悪魔に汚され、命を絶てば、大切な人が殺されることまで言い含められ、ただただ、悪魔の言いなりになるしかない日々。
(いや、いやっ、いやぁっ!)
私のせいで、お母様が死んだ。私のせいで、誰かが死ぬかもしれない。私が動かないせいで、私が弱いせいで、私は、誰も、守れない。
母親の死にショックを受けたのだと思っているレアナや、私を引き取ったローゼス家の人々は、私に、とても優しい。記憶の中では、私をずっと敵視していたはずのシェリアは、毎日、甲斐甲斐しく私に話しかけてくれるし、レアナはもちろん、私に寄り添って、世話をしてくれる。
本来ならば、彼女達に心を開いて、受け入れたい。しかし、それをすれば、もれなく、彼女達は凄惨な最期を迎えることになってしまう。
(それだけは、ダメ……)
もはや、私にできることなど、彼女達を守ることだけだった。それに……。
「可愛くて、可哀想なミーネ。さぁ、おいで? 俺がじっくり、たっぷり、慰めてあげるから」
毎日、毎日、悪魔は私の元に来て、毎日、毎日、私は、悪魔に汚される。それを、私の心は拒絶するのに、同時に、何もかもを忘れられるこの瞬間が、大切な時間にもなっていた。私を追い詰めた元凶なのに、私のことを一番良く理解している存在。何よりも憎いのに、何よりも恐ろしい存在。
「いや……いやぁ……」
「嫌じゃないだろう? さぁ、俺を見て? 早く、はやク、堕ちておいで……?」
そうすれば、私は、楽になれるのだろうか? 彼の伴侶であるということを受け入れれば、私のこの地獄は終わるのだろうか……?
数日後、少しだけ、私はレアナに弱音を漏らしてしまった。ただただ、『私のせいで、ごめんなさい』という言葉だけ。レアナに、大丈夫だと慰められ、少しだけ、心が軽くなったような気がした翌日、レアナが不慮の事故で、男達に酷く暴行され、殺されたのを知った私は……そこで、彼の闇に呑まれる。
「ようこそ、俺達、悪魔の世界へ」
もう、抵抗する力などない。ただただ、彼に愛を囁かれて、ずっと、ずっと、幸せに、しあわセに、暮らすだけ……。
「やっと手に入れた。俺の、伴侶」
真っ暗な、やミのなカ。私ノ王子サまは、わたシを、優しクだキしめテくれル。
王子さマと、やさシイ口づけヲ交わシたお姫さマは、いつマデも、イつまデモ、しあワせに暮ラしましタとサ……。
いやぁ、ほんっとに、ダークな作品に仕上がりましたなぁ。
今回のテーマは、壊れた王子様とお姫様、ですかね?
それでは、また別の作品で!
ここまでお読みいただき、ありがとうございましたっ。