第64話 クランベリー公爵邸での条件提示
具体的な交渉に入ったので、セドリックも私の横に座ってきた。
「もしかしたらセドリック様から聞いているかも知れませんが、私は、国王陛下から『学園在籍中の王太子と第二王子の安全確保』という依頼を受けています」
「ほう。初耳ですな……。それで?」
「私たちの世代の王位継承のゴタゴタに、国王とその側近は関われないと伺いました」
「その通りですな。つまり、私は直接関わることはできない」
「私はアボット侯爵とホールデン侯爵にも現役復帰して貰うことを、目指したいと思っています」
クランベリー公爵の表情が少し厳しいものになった。
「かなり、危険だと思うが……。私はてっきり、あなたの保護を求められるものばかりと」
「クランベリー公爵様には、私が動くとき、軍部と他の貴族が動かないように抑えて頂きたいのと、関係者の保護をお願いしたいのです」
「それだけで、いいのですかな?」
これだけ大変なことを、それだけで……で、済ませられるのか。
さすがはクランベリー公。
「私が怖いのは、皆さんが現場で危険な目に遭うことなんです。現場処刑さえ回避できたら、協力者の身の安全は保証されるよう公文書化した誓約書にしてます」
「今の話だと、リナちゃんの身の安全は、保証されてないように聞こえるけど?」
「私まで含めたら、自由に動けなくなるでしょう?」
「は? 何だよそれ。それで納得するとでも思ってるの?」
「リナ嬢の身の安全は、できる限りこちらで保証しましょう」
「親父?」
「セドリック。仕事をする気が無いのなら出て行きたまえ」
セドリックは溜息をつく。
そして気持ちを入れ替えたようにしゃきっとなった。
「失礼致しました、近衛騎士団長。この場にいさせて下さい」
セドリックの言葉にクランベリー公は頷くことで了承した。
「要求はそれだけですかな?」
「今のところは……えっと、後から追加出来ますか?」
「かまいません。以上でしたら、こちらから。騎士団の第5、第7、近衛騎士団第3部隊の指揮権を差し上げましょう」
「いやいやいや、無理ですから。私、剣扱えないし。いきなり複数の部隊とか無理です」
「剣を扱う必要はありません。それに、なにも今すぐ使いこなせというわけじゃない。第5部隊はセドリックが隊長だし、後の2隊も私の子飼いの隊長です。何も無いときは、通常業務をしてます。それに貴女が関わることもありません。まぁ練習ですよ、参謀としての」
参謀……ならなくちゃ、ダメですかね。
後日、他2名の隊長との引き合わせを約束させられて、クランベリー邸を後にした。
セドリックは、馬車でリナを学園に送りながら先程起こった事を反芻する。
実際、目の前で起こっていることが信じられなかった。
目の前の、幻までと言われるケーキに目を奪われているリナを見たときは、子どもとして親父に処理され、何の交渉も出来ず俺との婚約だけ約束させられる気しかしなかったのだけど。
いざ、婚約の話が出たときから、リナの態度……雰囲気まで変わった。
親父のお世辞に乗らず。それどころか、この前のジークの執務室での出来事を高評価するのかと嗤い。親父を挑発する。
親父が警戒し、時に怒りさえ抑えずにいるのに、あの殺気混じりの威圧の中、リナは、平然と笑ってみせた。
普段の子どもみたいなリナじゃ無く。雰囲気は完全に大人の女性。
わざと相手が怒るような言い方をして、親父を推し量っている。
それが分かっているから親父もイラつきながらも、冷静に対処してたのだろうが……。
だけど、これは……一歩間違えば、リナは殺されてしまうのではないか? とさえ思って警戒してた。
親父は、人畜無害な人間じゃない。俺よりも冷酷に人を断罪する。
「剣が無くとも。私が直接手を下さなくとも、貴女をどうにかするのは簡単ですよ。それでも?」
「あら、こわい」
まだ、リナはクスクス笑っている。
「でも……そうですわね。そうなったら、わたくしに見る目が無かった、と思うだけですわ」
いや……にこやかに言う事か?
でも、この言葉が、あれだけイラついていたのに『不敬』という言葉を使わなかった親父の弱点を見事に突いたのだけど。
見事に、親父の殺気が消えた……威圧も。
気が抜けた。何だったんだアレは……。俺のことを邪魔とか言ってたし。
それにしても、すごい。ちゃんと、親父から欲しかった言葉を引き出した。
これで、15……誕生日来たから16歳の女の子かぁ。もう本当に勘弁して欲しい。
「セドリック様。どうしたのですか?」
目の前のリナをジッと見すぎたようだ。キョトンとした顔で、セドリックを見てくる。もとの、子どもらしいリナだ。
「後で、リナちゃんのお父上に、婚約の許可をもらうための訪問の日程を決める手紙が届くと思うけど」
「あ……はい。あの」
「ん? 何?」
「結局、婚約することになってしまって……」
「リナちゃんが嫌じゃなかったら、俺はいいよ。最初から困らないって言ってるだろう」
リナは泣きそうな笑顔でセドリックにお礼を言った。




