第62話 クランベリー公爵邸での『シャングリア』
クランベリー公爵邸。
今日は待ちに待った、セドリックのお父さんとの会談。
リナとセドリックは、ティータイムの時間に合わせて訪問し、応接室に通されていた。
セドリックは、今日は護衛として来ているので、リナが座っている後ろに立っている。
(やっぱりあると思ったよ。『シャングリア』しかもこれは……)
「いや~リナ嬢にお会いできるかと思ったら、つい奮発してしまいましてな。息子から好みを聞いて用意しましたよ」
これは、上位貴族の令嬢をもってしてもなかなかお目にかかれないという、あの幻とまで言わしめたベリーベリーケーキ。ここに来た目的が吹っ飛んでしまうほどの存在感。
「なに。時間はゆっくりあります。話の前にどうぞ召し上がってください」
「す……すみません。では、失礼して……」
震える手で……ってケーキに対して緊張……するよねぇ、やっぱり。一口食べた。
口の中でスーととろける甘味。それでいラズベリーやイチゴの酸味が後を引いて……。おいひい。
(完全に目的を忘れた。私は、今日これを食べにここに来たんだ)
「そんなにおいしいですかな。では、私も……おお、これは絶品ですな」
クランベリー公も絶賛。
だけど、当然護衛として付いてきたセドリックの分は無いわけで。食べさせたい、是非。
「ね、ね。セドリック様も食べてみてくださいよ」
フォークで一口分すくって後ろで立ってるセドリックを振り返る。
はぁ? って顔されたけど、かがんでパクッと食べてくれた。
「おお、未来の夫にも……って、微笑ましい。いや、若いもんにあてられましたな」
「お前なぁ~。俺は手伝わないって言っただろう」
かがんだまま、小声で文句言われた。
(いや、別に他意は無かったんだけど……)
「こうやって来て頂けたと言うことは、この間の縁談の話。考えてみてもいいという事ですかな」
クランベリー公は、始終にこやかだ。この前と同じ、子どもに対する笑顔。
(舐められまくってますね、私。まぁ、仕方ない。ここからだ)
リナは、クランベリー公爵と対等に会話を成立させるための覚悟をする。
セドリックには悪いけど、なんだか久しぶり……とリナは少し高揚感を覚えた。
「それはわたくしの一存では決められませんわ。父の許可がいりますもの」
リナは、前の世界と同じ戦法を取る。女性ならではの柔和な笑顔と態度。
それで、相手を推し量る。前の世界と違うのは、失敗したら命の危険があることくらいか。
「それはそうですな。良いですよ、私の方から連絡を取って許可して頂きましょう」
まだ、にこやかに会話が進む。
(命令する気か……。父に先に話通しとかないと不味いな)
「でも、しがない子爵令嬢でしかないわたくしが、どうしてセドリック様のお相手に選ばれたのか不思議でならないのですけど……」
リナはチラッとセドリックを見る。セドリックは知らないとばかりに、そっぽを向いた。
「身分など……貴女は私が見込んだ女性ですよ」
(私が見込んだ女性、ねぇ~)
「あら。わたくしへの評価は、せいぜい何するか分からない、危険な子どもってところだと思ってましたのに」
クランベリー公はスッと目を細めた、先程までの人の良い笑顔は無い。
表面は笑っているのに。
「違いまして? セドリック様のお父様とはいえ初対面同然の方に、王太子殿下の許可も取らず内情をお話ししたのに?」
それで、高評価なんてあり得ないでしょう、とクスクス笑いながら言う。
(あなたの前で、子どものふりなんかしない。さぁ、ガチ勝負しましょ)
「ほう?」
リナは一瞬で警戒されたのが分かった。
威圧すごいよ。ってか、剣持って無くても十分怖いな、このおっさん。




