第32話 リネハン伯爵家の夜会 ジークフリート王太子殿下
そういえば、制服の違うのが入り交じってる。
近衛騎士団は、王族直属……まさか。
「以前、私はエイリーンに近付くなと、言ったはずだがな」
「ジ……王太子殿下」
今まで戦ってたのだろうか、ジークフリートは抜き身の剣を持ってすぐ近くまで来ていた。
かがり火に、照らされたせいか金髪がすごくキラキラして綺麗。
一瞬、みとれてたが、ここは学園では無い事を思い出す。
リナはすぐさま、礼を執った。
「これで、満足か?」
どこか冷たい声で言われた。ジークフリートは、かなり怒っているのだろう。
「思うまま突っ走り、こんな騒ぎを起こしてエイリーンを巻き込み、あまつさえ命を危険に晒させて……」
頭を下げているので表情を窺い見ることは出来ないが、あの断罪のシーンのような顔をしているのだろう。
リナの鼻先に光る物が見えた。剣を突きつけられてる。
(このまま、斬られるのだろうか)
頭の芯は妙に冷静だ。
死にたくはないけど、なんだか実感がわかない。
ジークフリートの剣が、鼻先から上に振り上げられるのが分かる。
リナは、礼を執ったまま斬られる覚悟をする。
(下手に騒いで、二人に気付かれたくない)
その思いだけで、斬られて死んでしまうかも知れない怖さを我慢していた。
キーンと、剣をはじく音が頭のすぐ上でする。
「王族に剣を向けるとは、何事か」
「申し訳ございません。処罰はいかようにも」
怒鳴るジークフリートとは対照的に、冷静な声で言うのが聞こえる。
顔を上げると目の前に、片膝突いて剣を下に置き、礼を尽くす騎士団の制服を着たセドリックがいた。
(な……んで?)
「ただ、この者はご容赦下さい。私の命令に従っただけの小娘にございます」
「セドリック」
「王太子殿下が、エイリーン様に近付かないように命じたのは知っております。ですが、私の命令を優先させました」
(な……に……? なにを言ってるの?)
「貴様の所為か」
(私の所為だよ。私が頼んだから動いてくれて……。言わなきゃ……私の責任って)
「違っ……もご、うぐ……」
ジークフリートに反論しようとしたら、後ろから抱きしめられ口をふさがれた。
「リナ……黙って」
耳元でアルフレッドに言われる。
(どうして……。セドリックもエイリーンに近付くなって言った。なのに、言うこと聞かなかったのは私で……)
ジタバタ暴れても、兄の力の方が強い。
「覚悟は出来てるんだろうな」
(やめて! 離して。わたしのせいで……)
アルフレッドが私を抱き込んだまま、背に庇う。
さっきから口をふさいだ手の指を噛んで、口の中に血の味がしてるのに全く緩まない。
(このままじゃ、セドリックが殺されてしまう)
私が願い出た3つの条件も現場処刑じゃ意味が無い。
「一時の感情で優秀な臣下を失うおつもりですか、殿下」
エイリーンの凜とした声が響いた。
斬りかかろうとしたジークフリートの動きが止まる。
「どうしても、誰かをお斬りになりたいのなら、わたくしをお斬り下さいませ。わたくしは、わたくしの意思でこの度の騒動を引き起こしました。リナ様はわたくし思惑にのってくれたのです。この騒動の責任者はわたくしです」
ジークフリートは呆然としている。エイリーンはジークフリートの下に近付いた。
「ご覧下さいませ。わたくしに傷一つ付いてませんでしょ? リナ様がわたくしを助けながらここまで連れてきてくれたのです」
ジークフリートがリナたちの方を向く。
アルフレッドがリナの拘束を緩めたので、擦り傷だらけのリナが目に入ったようだ。
ジークフリートは、ようやく剣を納めてくれた。
「追って沙汰する」
とだけ言って、近衛騎士団の方へ行ってしまった。
エイリーン様もそれに従うように歩き出す。
全身から力が抜けた。リナは崩れるようにその場にへたり込む。
アルフレッドが支えてなかったら、倒れてたかも知れない。
(怖かった。自分が殺されそうになっていたときより、自分のせいでセドリックが死んでしまうことの方が怖かった)
「大丈夫か? リナちゃん。すまなかったな遅くなって……」
セドリックが気遣ってくれる。
リナは、セドリックの方を向くことが出来ないでいた。
アルフレッドとセドリックが交わしていた会話も、どこか遠くで聞こえる感じで。
結局、アルフレッドに抱きかかえられるようにして馬車に乗り、自宅に戻った。




