第30話 リネハン伯爵家の夜会 書類奪還
エイリーンには、ベッドカバーを頭から被ってもらった。
書類を持ってもらったときに分かりにくくなるのと、何かの破片が飛んできても怪我をしにくくなる。気休め程度だけど。
ちなみにシーツだと、薄いし白いので薄暗い中目立つ。
カギを開けるのは、簡単。何とこの世界のカギ、昔いた小学校のピアノのカギと同じなのだ。
準備してた小さな金属板を、隙間にさして体重をかけて縦に思いっきりスライドした。
カタンと小さな音がしてカギが開いた。
「すごいわねぇ~」
エイリーンが妙なところで感心する。
そーっと、扉から顔だけ出して、誰もいないことを確認する。なるべく壁に沿って歩くようにして、廊下を移動した。
結構長い廊下だと思うけど、誰にも出くわさない。
女2人では何も出来ないと思って油断したか。それとも……。
「ねぇ、今更なんだけど。こんな役目させられて後悔してません?」
(いや、本当に今更だよ、エイリーン)
「後悔なんて、1秒ごとにしてるに決まってるじゃ無いですか」
く……ぷっ。エイリーンが必死で笑いをこらえている。
「笑ってないで先進みましょう」
やっと、執務室に着いて、さっきの要領でカギを開けた。
なんとか机にたどり着く。ランプ使わないとさすがに分からないなぁ。
ランプの芯をギリギリ下に下ろしてマッチで火を付けた。
いや、ご都合主義の乙女ゲーム設定で助かった。マッチ……向こうの世界じゃ19世紀まで存在してないよ。
机の上に書類や手紙がまとめて置いてあった。
やっぱり、デュークが協力してくれてる。
中身を確認しながら持ってきた自作のエコバッグに入れていく。
それをエイリーンに持ってもらった。
「誰だっ」
ランプ……かなり暗めにしてたのに見えちゃったか。私設の警備兵らしき人がやってきてしまった。
リナは、持参した袋のうちの1つにサッと手を突っ込んで中の粉パウダーをつかみ取る。
(手がピリピリするな。前の世界の私ならともかく、この外見ならいけるかな)
ふんわり軽い印象のいたいけな美少女……自分で言うなって? 元はゲームのアバターだよ、所詮。
エイリーンに布を深く被って、目と口をしっかり閉じてそばから離れないように言う。合図したら走って……はお約束。
黙って兵士を見つめる目、怯えて口もきけない風に見えるだろうか。
「お嬢ちゃんたち、迷ったのかい」
兵士が近付いて来る。黙ってコクッとうなずく。
今、リナたちは夜会服を着ていない。招待客じゃ無いのは一目瞭然だろう。それなのに、こういう言い方をするのは……。
「怖くないよ。さぁ、お兄さんが安全なところに連れて行って上げるからね」
そうね、スケベ心全開のお兄さん。もっと近くによって下さいな。
「さぁ」
こちらに手を差し伸べ、顔を近づけてきた。
その瞬間、私は握ってた粉パウダーを兵士の顔に押しつけた。
「ぶっ」
「走って」
即座に、エイリーンの手を引っ張って走る。
相手の動きが止まっている一瞬の隙を突かないと逃げられない。
闇雲に暴れ出したらリナたち普段運動もしていない貴族令嬢では、手に負えないだろう。
ランプと書類を持ってリナたちは兵士の横をすり抜けた。
後ろで「ギャ~ッ、目が~」と叫んでるのが聞こえる。
ハバネロ+αの粉パウダーの威力はすごい。
やはり、あいつは暴君だった。




