第29話 リネハン伯爵家の夜会 エイリーンの誘拐
気が付いた時には、ベッドの上にいた。真っ暗な部屋。窓からは月明かり……にしては明るいような。
リナはガバッと起き上がる。
(つぁ~。頭がクラクラする)
頭を抱えてしまう。お酒飲んだ次の日みたい。
さっき飲んだ飲み物は、ハンカチに全部出した。
なのに、眠ってしまうとは……。飲んでしまっていたら数日は起きれなかったと思う。
ワルツの曲が聞こえる。まだ、夜会は終わっていない。
そうして、自分のドレスを確認して、持ち込んだ物が外されてないことに、安堵した。
「リナ様。お目覚めになりましたか?」
ビクッってなってしまった。誰もいないと思っていたから。
窓からの明かりに、知っている顔が浮かぶ。
「マクレガー様?」
「もう、いい加減エイリーンで良いわよ」
「エイリーン様。どうしてここに……」
「私は昨日誘拐されてきたの」
エイリーンは、学園の制服を着ている。学園から直接誘拐されてきたのかも知れない。
だけど冷静だ。リナは違和感を覚えたけど、王太子殿下の婚約者だ。
リナという自分より年下の女の子が目の前にいる以上、冷静にならざるをえないのかも知れない。
(まずいな)
とリナは思う。想定外の事態だと。
自分は、わざと夜会で会場回りに警備が集中するこの日、攫われるつもりで来たのだけれど。
(私に出来るだろうか。エイリーンの無事脱出と証拠書類奪還の両立)
「リナ様はどうして来られたのですか?」
夜会で眠り薬を盛られて……って言い訳が一瞬浮かんだけど却下した。
エイリーンと助けを待っている場合では無い。
「ある物を持ち帰るように頼まれました。付き合って頂けますか?」
『ここで、助けを待ちましょう』って言われたら困るけど、リナは判断をエイリーンにゆだねる言い方をした。
もとより、判断権はリナに無い。
「まぁ、冒険ですのね。お供しますわ」
エイリーンは、嬉しそうに言う。
(とりあえず、乗り気になってくれて良かった)
「エイリーン様、私の言うこと絶対聞いて下さいね」
一応念を押す。
「分かったわ。守られるのは得意よ」
リナはとりあえず場所の確認をする。
窓の横に背を向けて壁にピッタリくっついた。
顔だけ横を向けて外の様子をうかがい見る。
完全に刑事ドラマのまねである。
2階……と言うことは、家族のプライベートゾーンか。
下でかがり火焚いてるからか、夜でも室内が少し明るい。
事前にセドリックと確認した見取り図を思い出す。
2階の右端の方に、当主の執務室があったはずだ。
ランプ付けたらまずいよな。外から丸見え。警備兵とかいるだろうし。
「ここ、デューク様の妹君のお部屋みたいなのよね」
ぽつんと、エイリーンがつぶやく。
「そうなんですか?」
「だって、クローゼットにたくさん衣装ありますでしょう?」
と言って開けて見せてくれた。
確かに、夫人が着るには若すぎる感じの衣装が並んでる。
デュークとの会話から、勝手に幼い子をイメージしてた。
でもまぁ、助かる。着替えさせてもらおう。
夜会服で徘徊するなんて無謀だ。
リナは、ワンピースをちょっと豪華にした感じの服を借りて、着替えた。
(ズボン欲しいな。前の世界じゃずっとパンツスーツだったし)
事前に準備して隠し持ってた道具を外して、夜会服はクローゼットの中に押し込んだ。
さて、時間は惜しいけど、最低限の確認事項をしないといけない。
「今回、優先事項があるんですけど……。エイリーン様の生還。これが第一条件です。その次が書類。その書類は必ず国王陛下の下に届くようにしないといけません」
「書類が第一では無いの?」
私の代わりはいるのでは? エイリーンは言外に言っている。
リナの常識では考えられない事。だけど、貴族社会では仕方無いのかも知れない。
「書類の内容は最悪、後からでも調べられます。だけど」
問題はジークフリートだ。ゲーム通りの人柄なら……。
奴はゲーム内で、恋人のために後先考えず、悪役令嬢を斬罪している。
「エイリーン様は、王太子殿下に愛されてますから、代わりはいません」
それに……とリナは思う。
「命より大切な書類など、存在しません」
きっぱり言うリナを見て、エイリーンは、そっと溜息をついた。
そして、まじめな顔になって言う。
「リナ様。わたくしの命、貴女に預けます。きっと道を切り開いてくださいますよう」
ああ、そうか守られる側にも覚悟がいる。守る側は、負けてはいけないんだ。
「お守り致します。姫」
リナはひざまずいて、騎士様がするような礼をとる。
次の瞬間、2人で吹き出し笑った。
エイリーンはすごい。最悪自分も死ぬかも知れない状況で笑ってる。
なんかジークフリートが大切に思う気持ちも分かるな。
敷地内には、セドリックも兄もいるんだ。
戦闘力皆無だけど、そこまでたどり着けたら何とかなるだろう。




