第1話 始まりの朝
よろしくお願いします。
幸せな夢を見た。
自分が寝ながらしていた乙女ゲームの冒頭、入学式後の夜会のシーン。
ジークフリート様の完璧なエスコートの下、ゲーム内の主人公リナ・ポートフェンは幸せな一時を過ごす。とてもリアルで、感触まで着いていた久しぶりの良い夢。
朝の風が心地よい、カーテンがファッとたなびく。
(まずいなぁ。窓開けっ放しで寝ている。起きないと、防犯上問題が……)
そう思いながら里奈は目を開ける。目に入ったのは、グリーンのレースのカーテン。普段の自分のマンションの一室とは明らかに違う。勉強机のようなものがあり、テーブルセットもある。そして、一人暮らしのはずなのに誰か居る。
ここは……何か見たことがある。そして、今、紅茶を入れてくれようとしている人物にも見覚えがある。
里奈は、意を決して声をかけた。
「マリア?」
「なぜ疑問系なのか、存じ上げますが……。おはようございます、リナ様」
「……もしかして、ここはイングラデシア国立学園?」
「まぁ、寝ぼけていらっしゃるのですね。昨晩は、王太子殿下のパートナーになったと、ずいぶんはしゃいでらして。帰ってからも、興奮して寝付けなかったのでしょう? 学園の授業は明日からですので、今日はのんびりされてはいかがですか?」
朝の紅茶を渡してくれる。
マリアは、学園内でお世話をさせるために連れて来た侍女という設定で、学園が定めている紺色のメイド服を着ている。
容姿は整っていて、茶色い髪も後ろでキュッと結ばれていて好感のもてる女性だ。年齢の設定は無い。
ゲーム内では自室のベッドというセーブポイントに居るキャラ。
(って……私、今ゲーム内にいるの? マジ?)
このゲームはお気に入りで、何度も繰り返しプレイしている。
ゲーム名は『シンデレラ・サクセスストーリー』
攻略キャラが2人と少ない分、主人公のアバターが選べ、アバターによって、キャラクターの対応が違ってくる。
里奈は、営業で疲れた頭とストレスを、このゲームで癒やしていた。
だって、今でこそ難航しそうな難しい案件も任せてもらえるようになったけど、総合職になった当初はひどかった。(最初は念願の研究職だったけど、営業に配置転換されたし)
取引先だけじゃ無く、社内も敵だらけ。
会社で男が優しいのなんて、20代前半の一般職女性にだけだ、と里奈は思う。
やっと小娘だの、上司の男性呼んでこいだの言って軽くあしらわれなくなった。
女だからといって、セクハラまがいやバカにする奴らはいるけど、性別は変えられないので仕方ない。
日本の企業はまだまだ男社会、男性以上に頑張って、肩肘張らないとやってられない。
ストレスもたまるってもんだ。
そんなこんなで里奈は、昨夜も帰って早々シャワーを浴び、軽くなんかつまんでふっかふかのベッドの上に転がって、ゲームの世界にGO。
今流行の……流行ってんのか? なんせ里奈は若く無いんで正直分からない。
とりあえず乙女ゲームの世界へって感じで。
(ゲームの主人公達は良いよなぁ。私が捨ててきた、可愛らしさとか、いじらしさとか、男性への無条件な信頼とか……いや、よそう。空しいだけだ)
今だけは、ゲームの中だけは、里奈もそうありたいと思って……ってか、選択肢がそれしかないし。
少し反抗しても、イケメン達が「そこがまた可愛いんだよな」とか思える程度のものだし。
乙女ゲームの中には俺様キャラ物やうつ展開の物もあるらしいけど。現実世界に俺様キャラはあふれてるし、仕事がうつ展開もどきになりかける時もあるのでパス。
里奈が好んでしているのは、現実離れした優しいイケメン達が、かよわくも頑張り屋な主人公を助け、ハッピーエンドに導いてくれるというものが多い。
里奈が現世で最後にしていたゲームがこの世界。
何も考え無かったら、ジークフリート様という金髪碧眼の王子様のテンプレのような王太子殿下ルートに入る。
もう一人の攻略対象、第二王子のアラン王子殿下は、濃い茶色の少し癖毛がある髪型で、どちらかというと弟キャラのイメージがある。こちらのルートに入るには、セドリックという褐色の髪と瞳を持つ……なんで攻略対象じゃ無いの? っと、ネット上で騒がれていた、お助けキャラの力を借りないといけない。
まぁ、このキャラが出てきた時点で、アランルートに入っているのだけど。
吉岡里奈31歳は、頭の整理と称した現実逃避をしていた。




