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無能で有名な将軍キャラに憑依しました。  作者: 冬森レイ
第1章 第1部 士官学校編『王国歴298年(春)』
8/8

【辞令】と【発令】


 ウォルギリアド大帝国 ――――――― 帝都ウォルギーベルク ――――――


  帝国暦896年3月下旬(王国歴298年)


  ウォルギリア大帝国の首都たる帝都の帝城にてアステリア王国王国侵攻軍の総

 大将に任ぜられている第一皇太子のエゼルネストが数人の将軍に辞令を言い渡し

 ていた。


「帝国軍中将ベルゼルド・ラッドル・ガレッドラーク、汝を元王国領・城塞都市セ

 ーステリア在任の侵攻軍司令長官に任命する」


「謹んでお受け致します皇太子殿下。大帝国に繁栄あれ!」


  初老ながらもその目に覇気を灯しているガレッドラーク中将が自身より二回り

 程若い皇太子に尊敬と畏怖の念を感じながらも辞令を受領した。


  大帝国皇太子エゼルネストは齢29歳にして大帝国軍全軍を完全掌握している

 大帝国に5人居る元帥の一人だ。史実において王国を苦しめ続けその国土の殆ど

 を一時的とは言え奪い尽くす事に成功した大帝国・王国両国の今代の歴史におい

 て一番名を後世に残した人物の一人であろう。


  そんな皇太子に今回の第三次王国侵攻の総責任者に任ぜられた〝侵滅〟の異名

 を持つガレッドラーク中将は齢52歳の老将と言っても過言では無い人物であり

 第1次、第2次の王国侵攻でも奮迅の活躍をした名将だ。


「〝無能〟と〝侵滅〟の対決か・・ガレッドラーク将軍、土産は旧王都と添え品と

 して無能の首で良いぞ」


「そうですな今回の王国侵攻で王国東部はほぼ全て我が大帝国の領土になる予定で

 すからなガハハハ」


  ガレッドラーク将軍が笑い声を上げるのもエゼルネストは己の手でその笑いを

 制止させた。


「実は、確かでは無いのだが王国東部で何か良からない事態が起こっていると噂で

 聞いてな・・あと、これも噂なのだが〝無能〟は無能では無いとも聞いた」


「いやアレは無能でしょう・・王国内部のスパイからの情報では「そのスパイがこ

 こ最近大勢捕縛されている原因はその無能だと言う情報もある」そうですか。で

 は注意は少なからず必要だと殿下はお考えで?」


  ガレッドラーク将軍の問いにエゼルネストは暫く考えた後にこう発言した。


「分からない。分からないのだが何か胸騒ぎがするのだ・・我が祖国の地盤が揺る

 ぎかねない大災害の前触れの様な予感がする」


「それは大胆な発言ですが小官個人の意見としては大胆な発言過ぎて想像出来かね

 ますね。無能と呼ばれた王国軍中将リグルドの存在がそんな大事に成るとは如何

 しても小官には思いえません」


  結局二人の会話はこれ以上の確固たる情報や証拠がある訳では無いので仕舞い

 となった。



  その頃の王国東方 ―――――― 要塞『レッドウォール』 ―――――――


  対帝国用にリグルドがマインドルク准将に命じて建城させた要塞『レッドウォ

 ール』はその城壁の高さが実に80mという高さを誇る堅牢な要塞だ。


  なんと言っても城壁に使われている資材は硬さという面では他に比類する物が

 無いとまで謳われた『レッドメイクストーン』で構築されておりこのレッドメイ

 クストーンは殆ど全てが外国からの輸入品の為に有り得ない程の資金が掛かった


  そしてそのレッドメイクストーン独自の赤色も相まってこの要塞はこうも呼ば

 れていた。


「魔王城でちゅか・・確かに見た目真っ赤な城壁に奥に見える建物も赤っぽい色を

 してまちゅから言われてみればしっくりくる名前でちゅね」


「俺とその部下達の自信作ッスからね。これで帝国の大軍の侵攻も阻止できるッス

 ・・費用の面で言えば規格外過ぎて違う意味でヤバかったッスけど」


  目を輝かせながらそう言う准将を見てると何時も残念な程の癖毛と性格をして

 いるもうすぐ40歳に成ろうという中年のオッサンにはまるで見えない。


「この二年間ご苦労様でちゅ。今日は大量に酒を持って来たので祝い酒でちゅ」


  それを聞いた准将とその部下達は喜びの雄叫びを上げた。そして物凄いスピー

 ドで我先にと酒を得ようと走り出してしまった。准将を除いてだが


「ネップルク大佐よ、俺も酒を飲みたいのだが?」


  自身の首を掴まえて離さない1年程前から新たに副官に成った女性軍人に准将

 は文句を垂れた。


「ダメです准将っ!まだ事務仕事が残っております。あと数日はお酒は控えてくだ

 さい」


「なっ!それはい「では姉上に准将が私の言う事を聞いてくれないと報告しま」そ

 れだけは勘弁してくださいお願いします」


  数日は仕事が続くという彼女の言葉に准将が不評を漏らすも彼女の「姉に報告

 する」の一言で一転して土下座までして謝り出した。


  彼女の姉は数ヶ月前に結婚した准将の奥方であった。この事実を結婚前に准将

 が知った時は軽く気絶しそうになったという。


「俺の安寧がどんどん消えて行く~」


  と叫んでいたと聞き及んでいる。


「閣下、帝国側に動きがあったと報告がありました」


  赤い要塞の壁を黙って見上げていた僕に副官のホフスマード大佐が帝国の動向

 を報告してくれた。


「遂に動いたでちゅか。では皆を集めて欲しいでちゅもうすぐ来る大帝国軍を屠る

 計画の最終確認をするでちゅ」


  僕の命令を聞いて他の将軍達に召集を掛けに行くホフスマード大佐を見ながら

 リグルドは小声で呟く。


「始まるでちゅね僕とこの王国の新たな物語が」


  そして全ての史実を改編する始まりの戦いが幕を開けようとしている事を知っ

 ているのも彼だけであろう。



  ――――――――――― レッドウォール要塞指令室 ―――――――――――


  レッドウォールの指令室にはリグルドとその側近の将軍である東将の七本刀が

 勢揃いしていた。


  東方軍副総司令長官/リヒトール・ゼガルフ少将


  東方軍長官補佐官/ゼリック・ホフスマード大佐


  東方軍長官秘書官/アクロ・ムッソルト中佐


  東方軍建城将軍/リギル・マインドルク准将


  東方軍人材調査官/ルギルス・ベレルドール中佐


  対帝国専門情報諜報官/スカール・ビルディリゴン中佐


  野戦指揮官/グレッド・シーケルフ准将


  以上七名が東将の七本刀である。


「では、ビルディリゴン中佐。報告してくださいでちゅ」


「はい。まずは此方を御覧下さい」


  リグルドから指名された帝国人特有の赤髪を持ったビルディリゴン中佐と呼ば

 れた中佐が全員に一枚の書類を配った。


「数日前に大帝国の帝都にてガレッドラーク将軍が正式に今回の侵攻軍の総大将に

 任命されました。そして今回の侵攻軍の編成が其方の書類に書かれている内容で

 す」


「これは凄いですなっ!侵滅の異名を持つ将軍と総数45万の兵士のセットとは我

 が東方軍を搔き集めても精々が8万~9万程だと言うのによくもまあこれ程の数

 を揃えて攻めて来ますなぁ~笑いしかおきませんよ」


  そう言って高らかに笑う眼帯をした野戦指揮官のシーケルフ准将を見て皆が溜

 息を吐いた。


「そこまで余裕で楽しめるのは准将くらいでちゅね。じゃあ気を取り直して各々の

 配置を決めておきまちゅ」


  リグルドの仕切り直しに皆が黙ったままリグルドを見つめた。


「ゼガルフ少将はアステルクにて有事の際に市民の避難誘導の指揮と籠城戦の用意

 を同所にてお願いしまちゅ、マインドルク准将とベレルドール中佐はこの要塞に

 待機し作戦に備えて下さいでちゅ。他の4人は僕と一緒に帝国軍と野戦で一戦し

 まちゅのでそのつもりで」


「「「「「「「はい。」」」」」」」


  リグルドの指示に全員が一切の反論も無く受領する。この計画は大帝国が今回

 の侵攻作戦を実行するずっと前から念入りに準備されていたために誰も文句無く

 自身の任務の信憑性を疑っていなかった。


「旧王国領土奪還作戦の第一段階発令でちゅ」


  シマらないリグルドの語尾でこの会議は終了となった。


  そして戦いの火蓋は斬って落とされようとしていた。


  第1章 第1部【辞令】と【発令】(完)


  




  

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