無限空想世界の幻想的な物語~夜桜~ 第18話 「心強き者」
これまでの私達は?
里の暴動を止めるべく山を駆け上がり日輪亭にたどり着いた私、
そこで私は苦戦を強いられた激しい戦いを繰り広げる。
しかし防戦一方の中ついに私の最後と言うとこまで絶対絶命のピンチを迎える。
そこに駆けつけたハルのおかげでなんとか助かった。
無事暴動の解決をしたと思った矢先、待っていたのは夜桜さんの過去の真相を語る兄、
夜桜 冬木、彼は過去に一度死亡し復活を遂げたと言った者だった。
挙句の果てに、自分の思い通りにならなかったと言う理由で全ての人を困らせた。
しかしそんな暴君はそこまで、日輪亭の主である天魔酒 霖雨さんがなんと、
冥府の神として再びこの世界に戻ってきたのだった。
そして、冬木さんはどこか別の場所へと誘われ行方不明に、
今度こそ無事に終わったと思いホッと一息したのもつかの間、
この屋敷の全ての桜が突如枯れ始める。
一体、何が起こっているのか?
真相は全て、天魔酒さんが握っているらしい。
◆
静かに吹き止んだ風、
しなる自然、濁る桜の花、
一体、この地に何が起こってしまったのか、
それを今、天魔酒さんが語ってくれる。
「昔話に一つ、この地、この天魔酒家はもとより冥府とのかかわりが深かったの、それもあの人柱の桜の木のせいだって言うのもあるけどね、だから天魔酒家は常に【混沌】と【秩序】の味方でもあるの」
「混沌と人間?どういう事ですか?」
「古来よりこの世界は別名【イフニア】と呼ばれているのは知っているわね、イフニアでは何百年も前に【イフニア大戦争】と言う戦いがあったの、これは魔族や妖怪の連合である【混沌側】と天の者や地上の者達の連合【秩序側】によって激しい戦いが繰り広げられた、その戦いの最中でも私の様にどちらの味方にも着けない者は【中立者】として争いを止めさせる事をしていたわ」
なるほど、この家系が混沌に属して秩序側である我々の様な人間を守る人々でもあったと、
「でも、それとこの事件てっ関係あるんですか?」
「まあ、聞いてちょうだい、その戦争はね混沌、秩序、中立、その三つ以外にもう一つあったの」
「もう一つ?」
「それは【アビス】全ての生命の敵、生命の悪、混沌さえも敵とみなして無残に残忍に殺してきた、彼らは私達の戦いに割り込み多くの者達を殺してきた、結果として三つ全ての陣営が力を合わせる事になったのだけれど、結果としては最悪、アビスには勝利して世界は一つになったと思ったわ、でもその後、急に世界にいくつも異変が起きたの、あるところでは陣営代表者が消えて、あるところでは国の消滅、イフニアにやってきたアビスは倒したように見えて、まだ何も終わっていなかったの」
「じゃあ・・その話から察するにまさか今回の事件は・・」
「そう、【アビス】によるもの、突如力を手に入れて暴走を始めた冬木、消えた春風神社の代表者、そして今回の春風の里暴動事件、その他の事件もおそらく彼が関わっていたでしょう」
「・・ふざけてる、自分の欲望の為にみんなをッ!!」
「そうね、こんなの許される事ではない・・彼は世界の秩序も混沌さえも崩した、その罪は重い・・現にいまこの桜をはじめとするこの山の自然が枯れ始めると思うわ、それはなぜか?このさっきの冥府とのかかわりが深いと言う言葉を覚えているわね、私の一族含めこの山は【冥府の霊力】によって守られている、その冥府がもし・・アビスによって侵略されていたら?」
「冥府からの・・霊力供給が止まる」
「正解、具体的にはこことつながりのある神が現在アビスに操られているわけ・・私はそれを止めるべく戦っていたのだけれど、どうにもこうにも上手くいかなくてね・・夜桜君が上手い事妨害するものだから一度地上へと逃げなければならかったわ」
そうか、それでこの人大分前からいたのか、
姿を晦ませてずっと反撃の機会を狙っていたわけだ。
「しかし妨害する夜桜さんもいなかったらもう平気では?」
「そうもいかないの、今この冥府から少ない霊力を使って夜桜君を葬ってしまってもうわずかしか使えない・・そこでそのわずかな力を使って今から霊力供給源の【混沌異次元】へ扉を繋ぐわ、戦う力はないけど・・そこまでならできる、だから・・お願い、彼女を・・目覚めさせて」
「現在アビスに操られている・・この山の霊力の供給者・・ですね」
「名は【天津酒 ロキ】過去に混沌四天王の1人だった者よ、そしてその彼女に仕えている下部【ルシ】は四羽の羽をもった堕天使の一族の長、どちらも手ごわいわ・・」
「・・手ごわくても、ここまで来たらやるしかないですッ!」
そうだ、下手をしたらこの世界の命運がかかっているんだ。
そんな戦いに目を背けてる暇は全く持ってこれッぽっちも存在しない。
「俺も、行くぞ、バカ1人で行かせて勝てる相手じゃねぇしな」
「ハル・・ありがとう、ごめんね・・本当はここで待っててほしいのに」
「どんな事言われても待つ気はないけどな」
「いじわるだね、全く」
「何とでも言ってろ、それで早くゲートとやらを頼む」
ハルが気合十分の姿勢で天魔酒さんに声をかける。
そうだ、ハルがやる気なら私だって負けてられない、
私は腕の脇をしめて力を精一杯込めて気合を入れた。
「気合十分と言うわけね、良いわ・・繋いであげる、ちょっと待ってて・・『座標確認、目標【混沌異次元】、繋ぎ合わせる世界の扉、来たれ無限の門・・【全ての扉】ッ!!』」
天魔酒さんが詠唱の様に静かに呪文を唱えると、
後ろから巨大な丸い扉を描いて露にする白い扉、
ゆっくりと扉は開き、凄まじいほどの強力な悪臭を凶悪なオーラ放つ扉、
開いた先に見えるまさに混沌に満ちた世界、禍々しい空間、
浮く足場、こんな所があったのが驚きだった。
「これが・・混沌異次元・・」
「さあ・・行きなさい・・」
「ああ、行かせてもらうさ」
「ええ、行かせてもらいます」
決意を固めて声を被せる私達、
足を一歩一歩踏み歩いて、いざ、混沌異次元へと入り込んだ。
◆
私達が入ると扉は閉まり、いよいよ何も感じなるくらいの温度、
風の無い世界、これが混沌の住む世界・・。
「すごい・・浮いた足場や大地が見えるだけの本当に混沌の様な世界・・」
「これが・・混沌の世界か・・」
『何者だ』
その時一つの声を聴いた。
美しき女性の声、麗しき女性の声、
鋭く冷たい様な大人の女性の声・・、
上を見上げてみると、そこにはまた一段と輝かしい女性がいた。
ブロンドのロングヘアーをツヤツヤサラサラとなびかせる。
ドレスの様な服、ロングスカートで足がギリギリしか見えない、
パコダスリーブの様な袖をした白い服、
頭に綺麗なクリスタルの様なティアラ・・だろうか?
その様な飾りをつけていた。
冷たい目つき、どこか今までの見て来た女性より鋭い視線、
これの人はおそらく【天津酒 ロキ】ッ!
確かに感じるオーラがもはや別物・・、
今までこの人は強いと言う事はなんども感じて来た。
だがこれはなんだ・・動揺を・・隠せないッ!
手が震える、止まらない・・どんなに強く握っても・・収まらない・・。
これが、混沌の風格だというの!?
「・・何者だ、と言っても検討はついているがな」
「貴方がロキですかッ!?」
「いかにも、私こそがロキ、混沌の四天王・・ロキ、貴様らは何をしにここに来た?」
「貴方を・・倒しに来ましたッ!もう、暴動はここまでよッ!観念なさいッ!」
「ああ、おとなしくその体から抜け出ろよアビス野郎」
「フフッ・・何を言うかと思えば何もかも予想どうり・・」
「・・・どういう事?」
何もかもが予想どうり?
一体何のことを言っているの?
私が困惑しながらも彼女はニタニタと笑いながら、
こちらへ話しかけてきた。
「我々はお前らここまで来るのなんぞ御見通しだった、その為の余興として大いに楽しませてもらったよ・・もっとも夜桜がやられてしまう所は少し違ったが」
まるで悪魔の笑顔だ。
まるで悪魔の言葉だ。
こんな・・こんな・・無茶苦茶な奴に人々はッ!!
「何よそれッ!人を傷つけ殺めるて楽しむ事が貴方達の余興ッ!?冗談言わないでよッ!命はそんな軽々しく遊びに使って良い物ではないのッ!!」
「私に歯向かう愚民はみなそう言って死んでいった、なぜかわかるか?人は弱い生き物だ、誰よりも弱い、どんな生き物よりも弱い、心は醜い、どんな者よりも醜い、必要を感じない」
「そんな事ないッ!・・中には優しい美しい心持った生命だっているッ!」
「だから違うと?きっと勝てると・・本当に勝って良い物だろうかな?」
「なによ・・それ、貴方に勝てばアビスはッ!」
「そう、滅ぶ・・散り散りになる、そして貴様ら生命はまたこの世界に止まる、だが・・考えてみろ私達アビスの存在は一体何か・・無駄な貴様らの様な下郎を増やさない為にこの世から生命を消そうとしてやったのだぞ?お前たちはいつも無駄に命を殺し、無駄に生き続ける、ならばそんな命は必要ない、だからアビスはいるのだ」
「消すって・・この世界全ての生命をッ!?」
「そう、それだけじゃない・・お前らが苦しむのを止めれる様に全てを消そう、この世界だけではない、アビスは全ての世界の味方、なら他の世界の生命も全て消し去ってくれる、そうすればもう何も起きはしない、何も争いは生まれない、何も起こらない」
そんなの間違ってる。
そんなの違う、でも・・違うとも言い切れない自分がいる。
確かに人は醜い、人はいつも命を奪って来た。
アレ・・じゃあ?
それじゃあ、間違ってないの・・?
彼らアビスは正しかった?
むしろ間違っているのは生命?
「ああ・・違うッ!そんな・・そんなはずないッ!!」
駄目だ、考えては駄目だ・・。
これはきっとアビスの作戦だ。
でも怖い、頭によぎる・・なんで?どうして?
顔がどんどん青ざめる。
両手で頭を抱え込んで白くなってぐにゃぐにゃと滲む脳内を抑え込む。
目からだんだん光が消えてしまう自分、
駄目だ、絶望が押し寄せてくる。
止めて・・やめて・・。
「クックックッ・・そうだ、人間考えろ、そうやって頭を抱え込んで良く考えろ、利口な考えにたどりつけ・・そうすれば、答え次第では我々の仲間にして・・」
「断る」
「・・えっ?」
「何・・ッ?」
私は思わず暗くなる視界が明るく戻った。
光が消えて行った目が再び光を取り戻した。
震えていた手が、止まった。
白くなってた脳がまた色を取り戻して行った。
そして、隣で1人、真っ直ぐに立っていた男の姿を見た。
白銀の白い短い癖のある髪の毛をなびかせる男、
ハルッ!ハルバード・ルクウェインッ!
「なんだと・・人間もう一度・・」
「断る・・つってんだよッ!!」
「グッ!?」
ハルはさっきの様にまた怒りをあらわにした。
腕に力を入れて、険しく怒る一人の人して、
怒りをあらわにした。
「醜く愚かだ、いつも無駄な事ばかりやっちまうそれが生命、そのうちの1人人間だッ!だが、それがどうしたッ!醜い者でも人だ、愚かでも人だッ!それを無くして何が残るッ!人は間違えて強くなり敗北の数だけ積み重ねまた強くなる、そうして生きてられるのが人だッ!」
「そんなはずがあるわけないッ!一度罪を犯した人間が再び秩序として生きられると言うかのッ!?」
「知らねッ!そんなの神でもなんでもない俺にわかるかよッ!でもそう信じて生きるんだよッ!たとえどんな苦悩やどんな困難があっても必死にッ!強く信じて前を突き進むッ!間違って転んだら立ち上がってもう一度進むッ!一回でも十回でも百回でも千回でも負けて転び続けても立ち上がって命ある限りッ!どんどん強くなればいいッ!そしていつか立派に誇れる生命になってりゃあ文句はねぇだろッ!!」
「・・ありえない、お前はわかっていない・・そんなのは不可能だッ!所詮は人だッ!所詮は生命だッ!白だけの世界なんぞ存在はしないッ!一度罪を犯した者はもう二度と秩序にはなれないッ!それが現実だッ!幻想だッ!幻だッ!そんな理想の塊の様な物語が叶うはずがないッ!」
「それでも俺はその現実を受け入れた上で自らの幻想的な物語を抱き信じるッ!!」
「その根拠はなんだッ!?なぜそんな事が言えるゥゥゥッ!!」
「俺はその醜い愚かな人の1人だからだッ!ブゥァァァカッ!!」
ここまで・・
ここまで・・
ここまでバッカみたいな・・
馬鹿みたいに自分を貫いた男がいるなんて、
誰も思わない、思えるはずがない、
カッコよすぎるから、絶対にいるはずがないよッ!
でも、現実を受け入れてこそなんだよね、
なら、否定しちゃ駄目だ。
私はこぼれる涙を拭いて、立ち上がろうと、
静かに立ち上がろうと足に力を入れる。
「(で、でも・・力が・・)」
「(どんくせぇ・・)ほれ、手を貸してやるよ」
「・・ありがとう、ハル」
「良いってことよ、困った時も躓いた時も俺らは互いに支え合って生きて来た、そうだろ?」
「・・うんッ!」
ハルが差し伸べてくれた手を力強く掴んで私は立ち上がる。
涙していた目をゴシゴシとふき取る。
もう、迷わないッ!
もうくじけないッ!
だって何回でも立ち上がるからッ!
「・・うっとおしい・・うっとおしいッ!!そんな目で私を見るなァァァッ!!人間ッ!これが最後の質問だッ!私にッ!私に従う・・」
『そんなものは無いッ!』
私とハルの答えは一緒だ。
力強く互いに指を指して彼女に向ける。
そして彼女の顔は豹変し、怒りのオーラ漂わせ血相を変えたッ!
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