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無限空想世界の幻想的な物語  作者: 幻想卿ユバール
第二章 狼猫編
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無限空想世界の幻想的な物語~狼猫~ 第7話  「憎悪」

昔、あの実験室でずっと少女が改造されていくさまを見た男がいる。

ただずっと見ていた男がいる。


情けなく、叫び声、悲鳴、血しぶきの全てを見て絶望すら生ぬるい中をずっと見ていた。

そして精神も心さえも病んでいく中、俺は死んでいた。


俺の目は死んでいた。


俺の心は死んでいた。


俺の全ては死んでいた。


そのうち何もかもがどうでもよくなった。


目の前にある絶望のパレットを見て、どうでも良くなっていた。

この時にすでに、もう何を思っているのか、

何を感じているのか、何を抱いているのか、

全てが分からなくなっていた。


 ◆


そして絶望のパレットはもう壊したはずなのに、

今、俺はそれを目の前でまた見ている。


あの黒い黒いパレットがッ!

カンテラ照ら薄暗い部屋を出て俺は部屋の扉の前で待ち伏せを計る。


こうやって部屋の外にもいるにも関わらず絶望は強く強く渦巻いて来る。

こんなにも感じやすい絶望は始めてだッ!!


体中の冷や汗が止まらない中、まだかまだかと戦闘の耐性に入り、

ドアの前で待ち伏せをする俺、

そして、ついにその時は来たッ!


ズガシャァァァンッ!!


なんの前触れも無くドアを勢いよく壊す少女の姿、

間違いない、あれが・・フレアッ!?いや・・メリルはヴァレッタと言っていたか・・、

手にはチェンソーらしき剣?


それと見た事も無い黒い様な虹の槍、

これが、絶望を具現化させた奴てっ事だろう。


「・・よお、お初にお目に関わるわけでも無いけど、元気にしてたか?」


「・・アハハッ!!元気にしたともッ!!君が知らない間に私は強くなるためにいろんな事を考えてたッ!綺麗にバラバラにする方法とかねッ!!」


にやりニタニタと先ほどまでの天使の笑顔が嘘の様だ。


悪魔のニヤケ顔でしゃべる彼女はやはり兄さんの言うフレアだろう。

槍を向けこちらに物騒な言葉でしゃべりかける。


「はっ・・なるほど、ズバリ言うと俺を積み木見たくバラバラにしたいと・・」


「そうッ!君は今からバラバラになるのッ!一個一個丁寧にね・・これから飾られるんだよッ!」


「そういうわけには行かないな~お兄ちゃんは他にもやりたい事沢山なんで・・積み木がやたりきゃ大人しく本物とやってなッ!」


「ッ!?」


俺はポケットに手を入れ余裕を見せていたかのような体制を取っていたと思わせておき、

ポケットから手を取り出すと黒に輝く謎の玉をフレア目掛けて投げるッ!


そして玉は一気に光を放って爆発するッ!


「一時撤退ッ!悔しかった外まで来いッ!」


「なめやがってェェェェェッ!!」


屈辱の雄叫びをあの白い煙幕の中から聞き取る。


そりゃあ悔しいだろうよ、

目の前の獲物がなめたマネ取ったら誰だって悔しい、

俺は大急ぎでこの地下の廊下を駆けて行った。


 ◆


そして、風の如く素早く走るともう目の前はロビー、

このまま外へつながるドアへと一直線ッ!


「よし・・このままドアをッ!」


「後ろ・・もらったッ!」


「なッ!?」


俺が気づいた時にはなんと後ろには彼女の姿があった。

声がした時にバッと振り返ったがもう槍が当たる寸前、

これは非常にまずい、ここで死ぬわけには行かないッ!


「ダイナミック・・お邪魔しましたッ!」


「(窓を突き破ったッ!?)」


ガシャァンッ!


窓ガラスを大きく突き破る音を立てて俺は身を固めながら突撃する。


外へ出る事は成功したが、立て直ししてた屋敷をまたしても・・、


「いや、この際気にしてたらキリがねぇよ・・それよりも・・アイツをッ!」


「アイツは私?」


「!?」


「私はあたし?」


声はするのにふり返ってもそこにいないどういう事だッ!?


「どこにいやがるッ!姿を見せろッ!」


「あたしは・・ここだよ?」


耳元から伝わる不気味な声、

瞬間意識が飛んだ気もしたが、

なんとか意識を取り戻して後ろから来る攻撃に気付いたッ!


それを魔法の透明な壁を作り押しのけられながらも防ぐッ!


「あっぶねぇッ!」


「チィ・・」


ズザァァァと足が地を這いつくばって後ろへと押される。

なんて威力だ、なんて力だ。


これがあの母が生んだ悪魔だと言うのか、

改めて思う、こんな化け物は世の中に存在しないとッ!


「・・どうする、あまり盛大に暴れる事もできねぇ・・」


「じゃあ、ここで大人しく死ぬ?」


この、凍えるような声質はまさか・・、


「灯さんッ!?どうしてここに!?」


「きっと・・外で戦闘が始まると思ってね」


「分かっててあんな意味深な台詞吐いたのかよッ!最悪だなあんたッ!」


「ええ、最悪最低の医者よ、患者を救うためだったらたとえ誰であろうと利用する卑怯者」


「そんな最悪最低な医者に質問だッ!アレはどうすればいい?どうしたらアレは止まるッ!!」


こんな時にもお面みたいに笑顔を作りやがって、

そんだけ笑顔なら余裕で何か対策があるんだろうなッ!


「方法は二つあるわ、一つは戦ってあの子もろとも殺す事、二つ目はこの屋敷すべての命を懸けて満足するまで壊し続けさせる事」


「そんだけかよッ!他にねぇのかよッ!」


「私が思いつく手立てはそれだけね、他にあるとすればさっきまで一緒だったあなたが知っているんじゃない?」


なるほど、

あんたは戦闘になる事も踏まえて事前に安全な状態のメリルの時に話をさせたわけか、

そしてメリルと話していた俺なら何かあの化け物を倒す手立て、

またはどうにか救う方法も思いつくだろうと、


「悪いが俺もあんたと同じく二択・・今のところはな」


「そう、私はどちらでも構わないわよ・・」


「つか、あんた戦えないのか?」


「戦えない事は無いけど・・武器忘れた」


「よし、黙ってろ」


戦力外が今まで口を挟んでいた事にびっくりだよ、

本当に何もかもよめねぇ奴だよッ!


「・・くっそ、せめて化け物からまたメリルに戻す方法さえあればッ!」


「どーしたの~?さっきから止まっておしゃべり~?私退屈だよ~?」


「うるせー!今、てめぇの事で精一杯考えてんだッ!大人しく・・」


「待ってるわけないよねッ!」


バーサーカーは話を聞かない鉄則か、

流石は狂気の戦士、

赤い目も青い目もどっちもこちらを見る気無しと言う事で良いだろうッ!

それよりもとびかかって来たコイツをさっさとガードを・・、


『ジン様危ないッ!』


「鈴蘭の声ッ?!つか、うぉぃッ!」


とっさに聞こえた後ろからの声に反応しつつも、

前の攻撃を防ぐ俺、

今、なんで鈴蘭の声がしたんだ?


「とりあえず・・邪魔だッ!」


「アハッ!やっぱ一筋なわじゃ行かないよねッ!」


「行くわけねぇだろ・・」


俺は魔法の壁を作って押しのける。

そういえばさっきからこのパターンだな、

一つ一つの動きが単純なのはおそらくまだ本調子じゃないから、

だとすれば優勢ではあるが速効でケリを付けないとやばいッ!


そういえば気になったさっきの後ろの声は・・、


「あ、ジン様ッ!ご無事でッ!」


「やっぱり鈴蘭!?」


「僕もいるぞッ!」


「役立たずが何しに来たッ!?」


「ひでぇ言われようだッ!!」


おそらくさっき別の攻撃を防いだのだろう。

その証拠になにやら後ろが煙が湧く、

そしてそれを防いだのが鈴蘭だったという事か、

で、兄さんはなぜいる。


「兄さん、ろくに戦えないはずなのになぜ・・」


「フッ・・見守りに来たッ!」


「よし、アンタも黙っとけ」


「お、お二人ともッ!喧嘩している場合ではありませんよッ!今は目の前にいる妹様をどうするか・・」


「・・そうだな、俺一人だとちょいアレを相手にするのはキツイ・・」


だからこそこういう時に兄さんが動けたりジャックさんが動けたら良かったのだが、

あいにくどちらも怪我が治っていない、下手に戦わせる事もできない、

先生に関しては黙れと言った後完全に隣で空気になりやがって、

腹立つんだけどのその笑顔ッ!!


かくなる上はもう鈴蘭に頼るしかないッ!


「鈴蘭、苦肉かつぜってぇやりたくない作戦が今思いついた」


「は、はい!なんでしょう!」


「俺と一緒に奴を止めるぞ、正直どこまで持つかわかったもんじゃないけどなッ!」


「ジン様・・大丈夫です!私、体力だけには自信ありますからッ!」


「そいつはありがたい・・」


片手をグーにもう片方をパーにして手を合わせる鈴蘭、

やる気のある奴ほどこういう構えをするのだろうか、

意味があるとはとうてい思えないけど、


「・・兄さん、これは恨みや妬みじゃない、純粋に彼女を救う戦いだ・・良いね?」


「許すッ!ただし殺しは無しだ」


「ずいぶん、キツイ条件だ事だ・・」


兄さんの許可も下りた、ここから一気に勝負へと攻め込む、

俺は覚悟を決め、一気に周囲に魔力のオーラを放つ、


「行くぞ・・化け物ッ!」


「ようやく遊べるのね・・良かったッ!退屈で仕方が無かったんだからッ!!」


「ああ、遊んでやるさ・・たっぷりとなッ!!」


俺と化け物は意を決して地面に着いていた足を蹴り、

勢いよくその場を駆けるッ!


『ウォォォォォッ!!』


2人の唸り声、まるで獣の遠吠えだ。

だが実際に俺と奴は獣なのかもしれない、

狼と猫の二匹の獣、止まる事の無い獣だッ!


勢いよく飛び出した二人の獣は互いに得物をぶつけるッ!

俺は魔法を奴は槍をッ!


右手で必死に押し倒そうと努力はするがこの幼女力がありすぎるッ!!

このぶつかり合う衝撃波は放たれる物はとんでないだろう、

あたりの地面がみしみしと石煉瓦がバラバラと砕け行く、

それほどの衝撃が一瞬で走るッ!


「グッ・・なんてッ!強さだよッ!」


「アハハッ!それじゃあ私は倒せないッ!倒せないよッ!!」


「一直線にてめぇだって相殺にしかならねぇぜッ?」


「そう、だからあたしは後ろにいるよッ!!」


「・・ッ!?分身ッ!?」


「これが私の能力・・【百戦錬磨(ヒャクニンノジブン)】ッ!どんなに倒されてもどんなにやられても私はよみがえる、どんなに防いでも避けてもあたしはいるッ!!」


「・・ッなめんなよ!鈴蘭ッ!」


「ハイッ!仰せのままにッ!」


互いの攻撃でつば競り合いをする俺とフレア、

そこに後ろから攻撃を入れてくるもう一人のフレアを、

疾風の如く鈴蘭が肘で格闘技を決め込む、


「やるねッ!!」


「そっちもなッ!!」


2人の獣は一度大きなぶつかり合いを止め互いに距離を取る。

まだどちらも消耗なしの戦いだ。


「鈴蘭、今のが俺を助けた時の?」


「能力です、おそらく【作成型】に匹敵しますッ!」


「厄介な事この上無いな・・その気になればあんなのどうって事無いが・・」


「どうしますか?」


「後ろは任せた、真向勝負は俺がやるッ!」


「・・了解しましたッ!健闘祈りますッ!」


俺と鈴蘭は互いに覚悟を決めてもう一度あの化け物へめがけて戦いをしかけにかかる。

もはや一般人にはとらえる事のできないこの風の世界、

俺にとっては一秒が長く感じてしまえるほどやばい世界だ。


「無駄だよ・・二人がどんなに強くても私は止められない・・止まらないッ!!」


化け物が翼を大きく広げ、羽を逆立たせる。

目をギラギラとさせ、狂っていることを漂わせるこの雰囲気、

全く不愉快だよッ!


特にアイツの後ろの分身が無ければ全然良かったなと思うッ!


「鈴蘭ッ!奴を頼むッ!」


「4体ッ・・任せてくださいッ!」


全ての分身を鈴蘭に任せていざ俺は本物へと向かう。

迷いなく、鈴蘭に全てをゆだねるッ!


「アハッ!薄情なお兄ちゃん・・後ろのお姉ちゃんがどうなっても良いんだッ!!」


「ああ、別に・・まけねぇからなッ!」


俺がにやりと笑うその一瞬で後ろからなにやら血しぶきの音を立てて鳴り響く、

少女が笑う、にやりニタニタ得物を仕留めたと、

だがその笑顔は一瞬で凍りつく、

何故なら自分の分身があっさりと負けてしまっているからなッ!


「ど、どうしてッ!!」


「鈴蘭がお前みてぇな模造品に負けるはずあるものかッ!」


「グッ!」


俺は言葉を交わして魔力を高めた魔法でフレアに攻撃を交わすッ!

だがフレアもそれに対して剣で攻撃を防ぐッ!

こうしていくつもの攻防が繰り広げられるッ!

油断すればどちらかが傷を覆う攻防戦だッ!


「ハッ!さっきまでの余裕はどうしたッ!押されてんぞッ!」


「クソッ!お前みたいな奴にこの私がッ!!」


「もらったッ!」


「キャッアッ!!」


魔法の玉を相手に勢いよくぶつける俺、

思わず体制を崩して倒れこむフレア、

ここに一気に攻め込むッ!


「よっしゃぁッ!食らえッ!トドメの一撃ッ!」


もう一度魔法の玉を打ちこんで気絶させればどうにかなるッ!

これで終われトドメの一撃だッ!!


「いやぁぁぁッ!!やめてッ!ジィお兄ちゃァァァン!!」


「ッ!?メリルッ!?」


その時、俺は衝動的に止まってしまった。

思い出してしまった。

あの、楽しかった記憶を、

あの溢れ出た癒された時の記憶が、蘇ってしまった。


「なんで・・攻撃するの?なんで・・イジメルの?お兄ちゃんも・・・あたしの事嫌いなの?」


「ち、ちがう・・これは・・これはッ!!」


「・・ハハッ!!」


「ッ!!」


「なーんちゃってッ!!!」


「しまったッ!?後ろッ!!」


ズシャリッ!!!


その時、肉体を槍が抉る音がした。

その時、赤い赤い真っ赤な血が噴き出した。

そう、俺の目の前で・・、

俺が、俺がふり返った後ろで・・鈴蘭の血がッ!


「鈴蘭ッ!!?」


「・・よかっ・・た・・こんどは・・ちゃん・・と守れたッ」


「グッ・・離れろッ化け物ッ!」


「ハハハッ!!油断してるからッ!怠惰ッ!実に怠惰だよお兄ちゃん!!」


「・・・・ッ!!」


俺は鈴蘭を刺した化け物を退けて急いで先生と兄の下へと行く、

一度あの化け物と距離を取った。


「鈴蘭ッ!しっかりしろッ!」


「ジンッ!鈴蘭はッ!!」


「・・胸に・・槍をッ!!」


「まだ息はあるッ!私が治療するッ!」


絶望の光景、絶望の空気、

僕はその暗黒の暗闇に目の前が真っ暗になった。

僕はまた、あの憎悪と対話することになったのだ。



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