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無限空想世界の幻想的な物語  作者: 幻想卿ユバール
第二章 狼猫編
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無限空想世界の幻想的な物語~狼猫~ 第8話  「愉悦」


ああ、やってしまった。

また、やってしまった。


またしても、宝は傷を・・つけた。

駄目だ、またやってくる。


絶望・・心のそこから湧き上がる・・、


憎悪、妬み、恨み、全てが込み上げて来る。


心の中の俺が「今度こそヤレ」と「もう許さない」と、

そうつぶやく、鈴蘭を殺めた奴を許すなと、

絶望に染まる目と精神が、全てを語る。


「・・駄目だ」


どうしてだ?


「恨みで人を殺すな、感情に任せてやるなら・・俺の恨んだ悪と同じ・・」


向こうもやったからやりかえすのが当然だろう?


「・・やり返しても・・生まれのるはッ!!」


ヤレッ!やらなければ・・またヤラレルッ!また鈴蘭が傷つくッ!


また傷つかない前にッ!でなければ今度はみんなが傷つくッ!


「そうだとしても・・同じだッ!俺がアイツを殺めたら同じなんだよッ!俺がその道を行けば傷つく人間がいるッ!アイツを殺める事はできないッ!しちゃいけないッ!」


・・怠惰だな、許すのか、アイツを・・


「許す・・さ、だってアイツは・・ちょっと遊びが過ぎただけだろ?」


何を言っている?


「思い出したんだよ、メリルの声で、メリルの言葉で、メリルと短い時間だったけど・・思い出したんだ、あの時の事を・・」


あの時・・あの時?


あの・・時ッ!?


『今日は・・ありがとう』


『いつも・・あり・・ガトウ』


そう、あの実験が行われていた日々、

俺は、なぜか体がいつも椅子に括り付けられていいたんだ。

そして体中ボロボロだったんだ。


いつも・・アイツの事守ってたから、

いつもアイツの実験になる時ずっと母親に殴りかかってたんだ。

敵うはずもないのに、救えるはずもないのに、


ずっと血を流しても、視界が遠のいても、

1日体が動かなくなるまで救い出そうとしていたんだ。


だからあいつはありがとうてっ言ってくれたんだぜ、


だからアイツは・・俺の事好きてっ言ってくれたんだぜ、


馬鹿だよな、救えなかった奴の事をずっと覚えていたなんて、

馬鹿だよ、アイツは・・あんな姿にされたのに、


恨まれても仕方がないのに、

俺を憎んで良いくらいの事したのに、


アイツはまだ俺の事を好きだって・・、

ハハッ・・クッソ・・涙が・・ああ、情けない、


「情けない、情けない・・情けねぇよッ!何も出来なくてッ!いつも!何が天才だよッ!何が勝ち組だよッ!はなから何も勝ってないッ!」


「何の才能も無いッ!たまたまあった自由の中で弱い者イジメしてただけじゃんッ!たまたま恵まれた環境を悠々自適に過ごしただけじゃんッ!!」


「努力してた?違う一番努力してなかったのは俺だッ!周りが・・いなくなって、張り合う相手がいなくなって、途中で努力するのなんてやめてたッ!」


「雪の中無駄な正義感に駆られて守れもしない少女を守ろうとしたッ!でも結局守れなかったッ!」


「そしたらもう人生がどうでも良くなって、ついには鈴蘭すら守れなくなってたッ!!」


・・馬鹿だ、俺は実に馬鹿だった・・


兄には全部負けているのに勝ったふりしてただけだ。

最初っから兄の様に素直に生きたかったくせにウソばっかついた。


兄の様に自由な生き方を望んでたのに、

いつも箱に閉じこもっていた。

俺は、どうしようも無い奴だった。


最後に手に入れた孤独の砂漠を彷徨い歩いていたただの彷徨える者だったことに・・、

いまさらだッ!いまさら気づいてしまったッ!!


「・・なあ、お前に今更問う・・どうしたらいいと思う?」


「・・俺をよく知っているのは・・お前だ、お前がしたいようにしろ・・もう付き合いきれない」


だろうな、こんな身勝手な野郎について来るはずないものな・・、

お前はそういう奴だから、

定着したはずだったのに、いつのまにかもう離れてしまっていたのかもな、


「・・わかった、じゃあ・・俺のしたい様に・・行くよ、もうさよならだ」


「ああ、2度と会う事は無いだろう、だって・・お前のそんな顔は・・実につまらないッ!」


「・・ごめんな、俺が生んだのに、俺の中で生まれたのに、最後に・・見放して・・」


「・・血はゆずれない、そういう物だ」


「うん、ありがとう、さよなら・・俺の・・いや、もう何でもないか」


さよなら、もう会う事はないだろう。


もう生まれる事はないだろう、


もう見ることは無いだろう。


お前はもう、消えてしまうから。

だから、もうお別れだ。


 ◆


暗かった目の前が一気に明るくなった。

明るくなった目の前には兄さんと灯先生が必死に鈴蘭の治療をしていた。

鈴蘭は苦しそうな顔で今も治療を受け続けていた。

みんなが必至に頑張ってる中で俺はなにをやっている。


俺は何をしている。

悩むのはもうおしまいだ、ここからは考えずに行くッ!

その覚悟を決める為にも俺は兄の下へと歩き、

一言声をかけた。


「・・兄さん」


兄が不安そうな顔で鈴蘭を見守っていた時に俺が声をかけるとハッとなってこちらを見た。

すると俺の顔を見て何か安心をしたのか、その不安そうな顔はどこかへ消えて行った。

そして優しい声で俺に言葉をかけてくれた。


「・・顔が・・大分冷静だな、前のお前なら怒り狂っていただろう」


「すげぇ言われぷりだね、でも大丈夫」


うん、大丈夫・・、もう大丈夫だよ兄さん、


「もう、憎しみも恨みも抱かない、確かにアイツは許してはいけない事をした、けれど・・


俺はそれでも殺しても良いだなんてこれぽっちも思ってないッ!」


「良い面だ、その凛々しい瞳が良く似合っているよ・・ところでそんな答えにたどり着いたお前はどうしたい?」


どうしたい?


どうとしたいか・・、アイツが俺のやりたい様にやれって言ってたよな、

だったら答えは一つだ。


「・・あの子と遊んで来る、思い出したんだ、かつて家族にも友達にも愛されなくって死んでしまった悲しい少女の話を・・彼女はそれに似ている・・、きっと・・遊びたいだけなんだよ」


「・・良いだろう、ただし」


「殺すな、だろ?」


「・・流石、ジンだ」


「ああ、流石は兄さんだ」


俺はその言葉を交わした後、スタスタと歩きだし、

またあの少女の下へ向かった。


今度は静かに、ポケットに手を入れてぬらりくらりと歩き出す。

そしてある程度距離のある場所で俺は口を動かした。


「よう、フレア、待たせたな・・、狂人なお前が大人しく待っていた事に驚きだ」


「半分飽きてるんだよね~、だってもう私を満足させてくれそうにないし・・つまんないし」


「そうか、もう鬼ごっこは飽きたか?」


「うん、こんなつまらない遊びならもう・・」


「それじゃあ・・少しだけ面白い事・・いや、新しい遊びを教えてやるよ・・【狩りごっこ】

だッ」


「・・ッ!?(なんだ・・雰囲気が変わったッ!?お兄ちゃんから漂う・・あの黒いオーラは・・)」


俺の周りに黒い霧が舞う、


それがどんどん俺を覆い隠す。


次第に俺は見えなくなる。


俺は一度目をつぶって次の言葉を静かに言った。


「暁に狼は言った・・肉を裂いて心臓をよこせと、暁に吸血鬼は言った・・全てをさらけ出して血を流せと・・今宵、この地を統べる最強最悪の種族【ヴァンパイアヴォルフ】ッ!!」


その時、狼は吠えた。


『ウゥォォォォォォンッッ!!』


「何ッ!?なんなのッ!?」


「ジン君・・一体何がッ!!」


「先生・・ジンは正常ですよ・・むしろ、あれが本来のジンの姿だ」


「・・さあ、狩りの時間(あそびのじかん)だ」


「・・・狼?いや・・なんだ・・アレはッ!?」


熊の手を越える巨大な獣の手、

大きな2つの狼の手、

黒い翼を2本、雄々しく広げ相手を威嚇するように見せつける。


瑠璃色の目は消えて、真っ赤に染まる2つの眼がギラリと相手を睨みつけるッ!

体も顔も人間だろう、だがこの手とこの背中の翼はお前の様に強き者の証を記す。

それが【化け物】なんだろッ?


「さあ・・始めようぜ」


「い、良いよッ!どんな姿でもこの私の能力がアレばッ!!」


化け物は瞬く間に俺を何人も同じ化け物を作って覆い隠す。

いくつもの鋭い目つきが俺を睨む、


「アハハッ!一気に魔法をそうしゃ・・」


「遅いッ!!」


「えっ!?」


俺が地を蹴って飛び上がる時にはすでにすべての分身を切り裂いた。


全ての分身が血しぶきを上げて赤い花を咲かせるッ!


そしてそのまま本物のフレアの下へ飛び上がり、

一気にこの大きな獣の手で叩き落すッ!


「実に・・遅いなッ!」


「う・・嘘ッ!?」


フレアに強烈な一撃を与える様に腹に力いっぱいの横殴りを見せるッ!

そしてフレアはそのまま地上へと落下して、

一気に地面へと叩きつけられた。


地面はあたりがグシャグシャになるぐらいにすべての石煉瓦が吹き飛んだ。

ぶつかる衝撃の音を大きく鳴り響かせるッ!


ズドォォォォンッ!!


「ガハッッ!!」


「どうした?まさかメリルの体を使っているから・・手加減でもしてもらえると思ったか?」


「・・良いのかよ・・このままやれば・・コイツの体は・・」


「メリルがもし自我があって言うのならこう言うかもしれないだろ『私ごとやれと』その時やれないのなら、その時本気を出してそいつをやれないのなら自分が死ぬだけだ、まだ救えるかもしれない命を思う前に無駄な可能性を捨てて全力で相手に答えてやる・・違うか?」


「・・ご最もだ、私もどうやら勘違いしてたよ・・この体だったらあなたとこんな・・こんなゾクゾクする戦いできないものッ!!」

フレアは羽の毛を逆立て叫ぶ、

手を開いて目を狂わせこちらへその狂気の瞳を向ける。


「・・そうか、じゃあ今度こそかかってこいよ?もう茶番は無しだ」


「良いよッ!全力で行ってあげるッ!能力なんて無くたって・・十分強い事を教えてあげるッ!!」


『ルァァァァッ!!』『ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァァッ!!』


2人の獣は大地を蹴って叫び爪と槍をぶつけ合った。

相殺のしそうなつば競り合いは大きく弾いて互いに距離を取った。

激しいスピードの中なんどもなんどもぶつかり合う、

時には空中でやり合い、時には地上で格闘を繰り広げる。


もう、誰にもこの狂気の戦いを止める事はできない、

誰にもとらえる事ができないッ!!


「いやいやいやいやいやいやいやッ!いやいやいやいやいやいやッ!!!」


「マシュマロ食べますか?」


「違うッ!そうじゃないッ!!先生しっかりしてッ!!」


「しっかりしてるわ、じゃなきゃこんな時にふざけた行動なんてしないわよ」


「そうですよね・・僕は正直もう・・なんと申し上げたら良いのかわからんです」


「すごいわね・・ジン君こんな野生児みたいな戦い方ができたなんて・・」


「フレアちゃんがもとより動きが激しいのもありましたけど、対等に・・いやそれ以上強いなんて思うのは初めてですよッ!!」


「・・それにしても、ずいぶんと楽しそうね・・お互いに」


「・・ああ、そういえば・・、そうですね・・、アイツらにとっちゃ、これは遊びだもんな・・」


「嬉しい事でしょう、互いにぶつかり合える仲間がどれほどほしかったか、互いに分かり合える人がどれだけ側にいてほしかったか、二人ともあんな楽しそうにしているのは、今までの不満が全て消し飛んだという事なのよね」


「一人は階段で孤独を手に入れた闘士に飢えた獣、もう一人は愛されなかった愛に飢えた獣、理性も感覚さえも狂っても願いをかなえてくれる人を探し続けたんだと思う、だから今、それが叶って楽しいんだよ」


「つくづく・・あの子達がわからないわ」


「僕も、わからんね」


鳴り響く戦闘音、

爪と槍がぶつかり、

己の持っているすべての魔法もぶつける。

俺達は今、遊びが楽しくて仕方がないッ!!


次はどう来ると次はどうしてやろうと今まで考えていなかった思考が全てを考え始めたッ!

そうだ、これが俺が求めた最高の【愉悦】ッ!!


誰かと競い、誰かと同じ舞台を駆け上がり、

共に同じことで競い合える仲間とのこのギリギリの戦いッ!


これだ、これが俺の求めた物だ。

褒め言葉がほしいんじゃない、

褒めてほしいんじゃない、

分かり合いたいんだッ!


「・・次で最後だ、この攻撃で全てが決まるッ!!」


「良いよッ!次で最後なら・・私は全力全開で行くッ!!」


「それでこそ化け物だッ!!」


「アハハッ!!!そうでしょう!!そうでしょうッ!!!だからこそ・・私が貴方に送る最高の一撃ッ!!【暗黒魔槍(ダーク・ブレイブ)発射撃(・デストロイ)ッッッッッ!!!】」


「デカイな・・ああ、デカイ槍だとも、こりゃあ避ければ後ろの屋敷どころじゃない、ロンディニアに大きな被害がでるだろうよ」


「そうでしょッ!!どうする?どうするのッ!?」


「こうするんだよッ!!」


俺は大きく飛び上がった、

赤い月に映るくらい高く高く、

そしてこの大きな獣の手に力を籠めて一気に下へと落下させるッ!


次第に勢いは強くなりそれはまるで隕石の様に炎をまとう如く強くなるッ!!

その落下と共に魔力に包まれた巨大な衝撃波を地面へと抉り、

そしてそのまま槍ごと地上へめり込ませる。

その時、フレア目掛けて大地が割れ、盛大な爆発が巻き起こるッ!!


「【大地の終焉(グランドフィナーレ)ッ!!】」


その時、そのあたり一帯の大地は爆発を起こした。

全ての大地を吹き飛ばしたのだ。


俺はその時どうなったかすら覚えていない、

ただ、覚えていたのは・・フレアの満足そうな顔だった。

俺はそれを見届けると、俺もフレアの最後の一撃に吹き飛ばされたのだった。


 ◆


「・・生きてる」


「生きてますかー」


「生きてるよ、悪運強いね・・俺って」

気が付いたらそこは地面、暗く冷たくなった地面だ。


「・・終わったのか?フレアは?」


「あそこ、お前より1分前にひょろひょろしながらさっきから立ってたぞ」


「・・そっか、ありがとう兄さん」


「礼はいらねぇよ、まあ、行って来い」


「・・うん」


体を立たせて俺はまたスタスタと今度は不安定になった地面を歩いて、

フレアの下へと歩いた。

そして、またある程度距離が取れた場所・・

ではなく今度は少し近い位置からフレアの前に立った。


「よう、どうだった・・狩りごっこは?」


「・・アハハ・・流石の私も・・疲れちゃった・・でも、楽しかったッ!・・えへッ・・」


「そいつは良かった、おかげで俺も久々に体を動かせて楽しかったぜ」


「・・良かった、お兄ちゃんも・・満足したみたいで・・」


「ああ、遊びは楽しいからな、当然の事だ」


「・・ねぇ、恨んでる?お姉ちゃんを傷つけた事・・」


「いや、別に、確かに腹が立った、けどよ、お前的には遊んでほしかったん・・だろ?それがちょっとひん曲がった方向に行っただけだ、声をかけるのが失敗したぐらいで怒りなんてしないよ」


「・・・」


「どうした?」


「ごめん・・なさい」


「えっ?」


「ごめ゛ん゛な゛ざぃ!!」


俺はずっと目の前に見ていた一匹の獣としゃべっていたのとかと思っていた。

だけどそれは違った。


俺の目の前にいたのはたった一人のか弱い女の子だった。

遊んでくれる人がいなくて無邪気に駄々をこねていた女の子、

そして自分がやった事にちゃんと悪気を持って反省して泣きじゃくる女の子、

その女の子は俺の体にしがみついて服をギュっと掴んだ。


顔は涙でぐしゃぐしゃになって、

とっても辛そうな顔をしている。


辛かっただろう、ここまでいろんな人におもちゃにされたその命はとても辛かったろう、

だから、何様のつもりかはわからない、

けれどもその「ごめんなさい」と言う言葉に何かとても深い意味を感じた俺はフレアの体を抱きしめた。


優しく、彼女に負担にならない様に屈んでギュッと抱きしめてあげた。


「辛かったろう、もういい、もう苦しむ必要もない、もう・・休んで良いんだよ」


「・・うん、ありがとう・・とっても暖かくて・・とっても・・心地いよ・・まるで・・あの時の様に・・やすめそう・・だ・・よ」


「・・ああ、お休み、良い夢みろよ」


「・・・うん」


そういうと少女は目を閉じて力を入れていた手が離れて行った。

フレアは深い眠りについたのかもしれない、

いや、フレアじゃない・・ヴァレッタは・・眠ったんだ。


深い深い、心地よい夢の世界へ行った。

確信は無かったけど、そんな気がした。


俺はすやすやと眠りについた少女を抱っこして戻った。


あの、兄さん達のいる場所へと、

スタスタと歩いて、ボロボロの体を動かした。


そして、全てが終わった事を確信するように、

兄さんが微笑んでいた。


先生が静かな笑顔で微笑んでいた。

鈴蘭の治療も完了していた、鈴蘭も心なしか安心した顔で眠っていた。

俺は全てを確認して、あの挨拶を言った。


「ただいま!兄さん!みんなッ!」


「おかえり、ジンッ!」


「おかえり、ジン君ッ!」


俺はすべてに安心を抱くと、凍りついていた全てが、

じわじわと溶けたような音を聞いた。


これでもう、何も苦しむ必要が無いと思って、

そうして、戦いは・・いや、遊びは終わりを告げた。

俺はメリルを背負って帰るべき場所へと帰還したのだった。



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