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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
征西へ

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153 烈女の行動

 久しぶりに対面したルーミーの表情はゆがんでいた。

 そして、俺の顔を見るなりに涙を流しながら、胸に飛び込んできた。


「あなた、聞いてくださいませ! 聞いてくださいませ!」

「どうしたんだ、ルーミー。なんだって聞くから話してくれ」


 こんな情熱的なルーミーを見たことはなかった。ラヴィアラなんかよりはるかに感情をコントロールできていない状態だ。


「わたくし……使者の方から兄があなたを攻めるかもしれないという話は聞きましたの。ほかの奥方も同じですわ」

「ああ。胡乱な話が間諜から伝わっていてな」

 マウスト城にももしもの際に備えろという通達はすでにしてある。セラフィーナやフルールは十分やる気だ。骨のない将に任せるよりよほど頼りになる。

 だから、その話をもちろんルーミーも聞かされているはずだ。


「それで、わたくし……兄である陛下のところに単身、乗り込んできましたの。その噂は本当なのかと?」

「えっ!?」

 そのルーミーの言葉に俺はあっけにとられた。

 ルーミーの表情は悔しさと怒りとが混ざったような顔をしていた。その怒りは王都の兄に向けられている。


「ルーミー、君は出産してまだそんなに日も経ってないはずだ。体のほうは大丈夫だったのか?」

「それどころではありませんでしたわ。少なくとも今に至るまで病気になったりはしていません」

 たしかに病人がこんなに感情を表に出すことはないだろう。


「わたくし、陛下と一対一でお話しいたしましたの。陛下というより、兄と妹の立場で話し合いたいと言いましたわ。兄も同意してくださいました」

 俺の頭に困惑しているハッセの顔が浮かんだ。まさか、向こうも妹が来るとは思っていなかっただろう。


「それで、兄は言いました。このままだとあなたを止められる者が王国に誰もいなくなる。そしたら、前王を滅ぼしても結局、サーウィル王国は滅ぼされてしまうかもしれない。その前に手を打つことも考えている、と」

 それはまさしく俺を追討する予定だという情報だった。


「情報はまだ公にはなっていませんわ。逆賊追討の勅命が下ったわけでもありません。今、そんな勅命が出たと広まれば、あなたは前王の側に鞍替えするかもしれませんしね。。ですが――このまま兄のために仕えてもろくな未来が待っていないことはわかってしまいました」


「ルーミー、君はどうやってここまでやってきたんだ?」

「兄にこう言ってやりましたわ。夫のところに向かうと。殺すならどうぞ追手を差し向けろと。我が子はマウスト城で乳母が世話をしている。何も恐れるものはないと」


 強い瞳でルーミーはそう言った。

 きっとハッセの前でもそんな顔で気持ちを伝えたのだろう。


「その結果、追手が来ないまま、このヤグムーリ城までやってこられたということですか……?」

 部屋にいたラヴィアラが呆然とした顔で尋ねた。


「はい、そうですわ。兄もわたくしを殺すのは気が退けたのでしょう」

 当然だといった顔でルーミーは答える。


 俺は思わず、噴き出してしまった。

「ルーミー、君は俺の正室にふさわしい女性だ。こんな烈女を妻に持てて、俺は本当に幸せだ。いや、運命というものはふさわしい女性を連れてきてくれるんだろうか」


 妻が王に直接問いただして、俺を攻める意思があるという言葉を聞きだしてきてくれた。これで俺がやるべきことは定まった。


 まったく、ハッセという男はやはり王になる器ではなかったな。

 ルーミーに余計なことを話した挙句、そのままにしてしまうのだから。あいつは最悪の手を打った。ウソを突き通すことも、冷徹に妹を処断することもできなかった。


 もう、サーウィル王家は終わりだ。王としての質が低すぎる。そんな無能な王が統治できる時代ではない。


「ありがとう、ルーミー。俺も腹が据わった。心置きなく、成すべきことを成すことができる」

 俺はもう一度ルーミーを抱き締めた。

「長旅で疲れただろう。今日はゆっくりと休め。この城は近いうちにこの国最大の堅城になる。俺が留守の間でも一兵たりともは入ってはこれない」


「はい。わたくしも役目を果たせてうれしいですわ」

 ルーミーは心からほっとしたという顔になっていた。緊張感の糸が切れたようだった。


「ほかの奥方と比べると、わたくしは何もできないままでしたから。これでお役に立てたでしょうか」

「ああ、これ以上ない大功だ」


 その直後、王都から俺宛ての使者がやってきた。

 内容は摂政の不実を疑うようなことはありえない。これからも前王を攻めるために全力を尽くせという無難なものだった。


 つまり、公式には俺を挟撃する作戦は隠し通しておきたかったんだろう。

 でも、ハッセは自分の妹には本心を語ってしまった。

 しかも妹を俺のところにまでやってしまった。殺す勇気がなかった。


 もっとも、ルーミーが不審な死を遂げた時点で、もう俺をつなぎとめるものはなくなってしまうわけだが。


 どこまでもハッセが暗愚で助かった。


 俺はすぐに臣下を集めて、会議を開いた。

 議題はたった一つだ。


「巨島部に渡って、タルムード伯領に攻め入る。前王を滅ぼす。ずいぶん待たせてしまったが、いよいよ動けそうだ」

 俺の声に血の気がはやった将たちが勇ましい声を上げる。

 とくに赤熊隊の隊長、オルクス・ブライトなんかは「やっと巨島部の連中をぶっつぶしに行けるんですね!」とおもちゃでももらった子供みたいに喜んでいた。親衛隊は戦争がないと失業してしまうからな。


 俺が兵を出さないと、ハッセも俺の追討軍を出しづらいだろう。

 好きなようにしてくれればいい。お前がもたついている間に前王側をつぶしてやる。


「俺が出ている間、このヤグムーリ城を攻めようとする者も出てくるかもしれん。この城は、ケララを占領地から戻して守らせる」

 オダノブナガが渋い顔をしたのがなんとなくわかった。アケチミツヒデを職業に持つ女だからな。そいつに城を任せて渡海するだなんて、自殺行為のように映るかもしれない。

「それと、もう一人、我が妻ルーミーに守ってもらう」


 俺の言葉は冗談に聞こえたらしく、とくにオルクスなんかはげらげら笑っていた。白鷲隊のレイオンにたしなめられていたほどだ。


「なかなかいい案だと俺は思っているんだがな」

 ルーミーを裏切るようなことをケララは絶対にしない。目付役としては完璧だ。

 なにせ、どちらも俺を愛してくれている女なんだから。


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