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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
征西へ

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147 摂政の胆力

 翌日、客人がやってきたことを使いの者が告げた。

「シャーラ伯ソルティス様がお見えになられました」

「ああ、知っていた」

 ソルティス・ニストニアの動向はもちろん、ラッパたちからも聞きおよんでいる。といっても、今更裏切られることはありえないから、本当に場所を確認していただけだが。


「この土地で最も格式ある神殿を会見の場にしている。俺の義理の父と言ってもいい立場の方だ。丁重にもてなしてやってくれ」



 俺は神殿の一室を会見用に仕立てさせていた。ねぎらいの意味もあるから、酒も用意してある。

 ソルティス・ニストニアは長い遠征で多少の疲れは見せていたものの、表情はほどよい緊張感と高揚感で凛々しく仕上がっていた。


 勝ち戦が続いていたからだろう。勝っている間は疲れもさほど感じないと昔から言う。逆に激戦の末に、土地でも奪われたものなら、心のほうまで折れてしまう。矢傷もないのに退却してから数か月のうちに死んだ将は過去にたくさんいる。

 資料には憤死と書いてある場合もあるが、むしろ悶死と言うべきだろう。


「シャーラ伯、無人の荒野を行くがごとき掃討戦、お見それいたしました。報告を聞いているだけでも小気味よいぐらいでしたよ」

「前王派がもともと摂政閣下の軍だけに当たるようになっていただけのことです。私が北側から侵攻するとはほとんど考えてなかったでしょう。すべては閣下の計略のおかげです」

 俺はソルティス・ニストニアのグラスに葡萄酒を注いでやった。


「計画を考えはしましたが、敵を打ち破ったのはシャーラ伯の功績です。存分に誇ってください。おそらくニストニア家はじまって以来の軍功となりましょう」

「将来、軍功にしてもらえるのも、今後次第ですがね」

 少し、ソルティスは表情を硬くした。

 別に戦勝を祝うためだけにここでソルティスが合流したわけではない。


「まずもって、戦況はこちらの思うがままです。ひとまず、手に入れた土地は実効支配いたします。税の取り立てなども俺が派遣した徴税吏にやらせます」

「つまり、今回奪った土地はすべて摂政閣下の領地にしてしまうということですな」


 俺はわざとらしく首を横に振った。

「いえ、あくまでも借りているだけです。なにせ、国家の威信を懸けた大きな戦いの最中ですからね。いつ前王派が攻めてくるかわからない土地を力のない領主に支配させておくのは危険すぎます」

 俺の意図はソルティスもわかっているだろう。ただ、「そうですな。何もおかしなことはございません」と答えた。


「サナド海峡までの県を閣下とその派閥で押さえれば、海峡より西の前王派以外の土地の多くは勢力範囲となりますな。間違いなく、ほかのどの領主も太刀打ちできない所領規模でしょう」

「はい。王都から東側の領主たちもいずれ完全に従わせるつもりです」


 この国のすべての軍事力を手にすることができれば、あとはどうとでもなる。

「ただ……国王陛下はこの件を内心どのようにお思いでしょうか……」

 ソルティスの顔が曇った理由も俺にはよくわかる。


「内心ということは本音という意味ですな。一言で言って、楽しくはないでしょう」

 隠すまでもなく、俺はすぐに認めた。

「自分が敗退した相手をあっさりと摂政が倒して、しかも前王派から解放した土地を手放さない。前王派を倒してはほしいけれど、これはこれで邪魔だ、目の上のたんこぶになる、そうお考えになられるでしょう」


「だとすると、陛下はどのような手に出るでしょうか……? まさかとは思いますが……閣下を討ちたいというようなことも……」

「おおいにありえるでしょうね。人間の気持ちというのは割り切れないものですから」

 俺は豪気に自分の葡萄酒のグラスを干した。


「しかし、その時はその時です。もし、陛下がこちらの命を狙っているならば、抵抗せざるをえません」

 怯えるでもなく、かといって腹を立てるでもなく。ただ、摂政としてあるべき姿で接する。同盟者だろうと、義父だろうと、余計な情報を与える必要はない。誰のためにもならない。


「ですな。いくら忠臣とはいえ、自分から首を差し出すのは死後の安寧でも約束されているのでないかぎり、無体なこと」

 ソルティスも慎重に言葉を選んでいる。これまでも、誰につくべきか正しく判断して土地を守ってきた男だ。不用意に、俺の側につくと漏らすようなことはしない。

 そんなことをすれば俺に言質をとられる。ソルティスも間違いなく自分に味方すると主張できる。それはソルティスにすれば選択肢の一つを削り取られるのと同じだ。


 けど、この駆け引きはなかなか面白い。摂政ともなれば、こんな戦い方もあるだろう。剣や槍を振り回すだけではない。


「まあ、シャーラ伯、仮定の話を重ねても仕方ありませんな。我々は陛下のために前王派を海峡の手前まで一掃する、それだけのことです。すでに税の臨時徴収についての計画は官吏に立てさせています」

「承知いたしました。その計画に沿って、私も摂政閣下のために働かせていただきます」


 ソルティスが協力を申し出てくれた。これで今日の仕事は終わった。


「よろしくお願いいたします」

 俺は握手のために手を差し出す。すぐにソルティスはその手を握った。

「ただ、くどいとは自分でもわかっているのですが――俺のためではなく、国王陛下のためということはお忘れなきよう」

 筋は絶対に通す。表面上は俺は正真正銘の忠臣であり続ける。

 ハッセと戦うことになった時、俺に非がないほうが望ましい。

 もし、ハッセが理不尽な攻撃を仕掛けてきた時、サーウィル王国の歴史も閉じる。


 ソルティスはどこか諦めが混じったような調子で嘆息した。

「やはり、摂政閣下はご立派です。若年でその地位まで上り詰めただけのことはあります。娘を側室に出して正解でした」

「俺もよい妻を手に入れられて幸せです。どうか、この幸せが長く続けばよいと思っています」


「あなたのような胆力がある男がもっと早く世に出ていれば、戦乱の時代もずっと短くなっていたでしょうに」

 それは違うな、とオダノブナガがつぶやいた。俺もそれに同意した。


「いいえ、世が乱れていたから俺が出てこられたのです。もし、太平の世なら俺はただの領主の弟でしたよ」

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