128 気力のやりどころ
その日、ルーミーと話し合ったことで、わだかまりはすべて解消した。
もちろん、ルーミーの中から悩みが払拭されたわけではないだろう。何かあるごとに苦しむこともあるだろう。それでも、ルーミーは道を選んだ。
俺についてくると誓ってくれた。
もっとも、後日、セラフィーナ、ラヴィアラ、それにフルールが揃っているところに呼び出されたが。
「アルスロッド様、ルーミーさんからお聞きしましたが、今回のことは軽率ですよ。結局、ルーミーさんが言うことを聞いてくれなかったらどうするつもりだったんですか!」
セラフィーナも表情からして似た思いを抱いているようだ。俺のやり口が正面突破に近いものだったからだろう。
「どうもしないさ。その場合は王に釈明でもしないといけなかっただろうな。まあ、ルーミーを幽閉ぐらいはしても、どうせ、そこまですれば情報は伝わるだろうし結果は同じだな。なら、幽閉もせずに王都に帰らせたほうがマシか」
「旦那様、まさか本当に善後策をまともに講じていなかったの……?」
セラフィーナもあきれた顔をしている。
一方で、フルールは無言で涼しい顔をしていた。俺が何をするかわかっていたんだろう。
「逆だよ。俺が軽率なほどにありのままを話したから、ルーミーは俺と添い遂げる覚悟を決めてくれたんだ」
もし、自分が愛さなければ、この男は破滅するかもしれない――そう思わせた時点で俺の勝ちだ。
ラヴィアラは苦笑いを浮かべて、「それは反則ですよ」と言った。どうやら理解を示してくれたらしい。
「ほんとに……。何人も妻がいるくせに、よくそんなに愛されている自信があるわね……」
額を押さえて、セラフィーナはわざとらしく嘆息した。こちらも納得はしてくれたようだ。
「もっとも、摂政様は謀反を訴えられたら訴えられたで、前王とよしみを結んで、王都を挟撃するぐらいのことはしたと思いますが。その場合、王都はあっさりと陥落したと思いますよ。そこから先の展開はややこしいですが、前王を打倒するぐらいのことはできるでしょうし」
フルールが俺の弁護をしてくれた。
おおかた、それで合っている。
ルーミーにすべてを委ねたようだけど、実のところ、マウスト城に戻った時点で勝算はいくらでもあった。
仮にルーミーから謀反人と訴えられても、俺は前王を担ぐ側に乗り換えることで、のうのうと戦争を続けて、ハッセを容赦なく追い出した。
もちろん、それは俺の当初の構想からずれはする。最善とは言いがたい。でも最悪というほどじゃない。選ぶ価値が十二分にある道だ。
そして、なにより最終的にはルーミーの意志を尊重できた。
あとは俺がルーミーをほかの妻同様、幸せにできるように全力を尽くせばいいだけだ。
「改めて考えてみれば、アルスロッド様は戦場でも無茶をするのが習慣になっていましたもんね。それが戦場以外の場所で発揮されただけと思えば、よくわかります」
「ラヴィアラ、ご理解ありがとう。やっぱり、乳母子だけあるな」
「褒めてはいませんよ。あきれているんですからね」
でも、たしかに俺は堅実すぎる策より、少しリスクのあるものを選ぶところがあるかもしれない。
とはいえ、完全に安心な方法など、この戦乱の時代にどこにもないのだが。何もせずに、田舎で逼塞していても戦死の危機は常にあった。
どこかで勝負に出る必要はあって、あとはその勝負で勝てる確率を高くしていくことしかできない。事前に勝利が確定してから戦うというわけにはいかない。
「わたしとしては、あの子が正妻を下りてくれても、それはそれで面白いかもと考えなくもなかったけど、そうはいかなかったわね」
いたずらっぽく、セラフィーナが言った。それ、何割かは本心だろう。
「妻同士、仲良くやってくれよ」
「わかってるわよ。でも旦那様がわたしやほかの奥さんばかり愛してしまうと、正妻様がまた心変わりするかもしれないし、難しいところね」
こうなると、セラフィーナの言いたい放題だ。
「昨夜なんて、わたしのところに来たあとに、ラヴィアラさんのところに言って、最後はフルールさんの部屋を訪れたようじゃない。英雄色を好むとは言うけれど、贅沢が過ぎるんじゃない?」
その言葉にラヴィアラとフルールが顔を赤らめた。それはそうだ。わざわざ人がいる前で話すことじゃない。
「ラヴィアラのあとにフルールさんのところにまで行ってらしたんですね……。アルスロッド様、げ、元気すぎます……」
「たまたまだ……。俺も胸のつかえがとれて、そういう気分になる日もあったんだよ……。それに、王都と違って自分の城なら気も楽だし……」
もっとも、さすがにその時はやけにたかぶっている時ではあった。
戦場から遠ざかったところに身を置いている分、気力が妙なところにまわるらしい。政務をとっていても、落ち着かないと感じることがあるぐらいだった。
●
翌日もケララを自室に呼んで、新たな直轄地の支配について、具体的な話をした。
俺自身の動員兵力は過去最大のものになっていた。軍団も追加で作らないといけないほどだ。
そのポストに誰を配置するかといったこともケララと話し合った。ケララは将と吏僚の間にあたるような存在なので適任なのだ。
「カルティス家に長らく仕えていたこの人物を登用するのが、やはりよいかと。カルティス家と関わりがなかった方を配置しても部下がどこまで動いてくれるかわかりませんので」
「そうだな。まだカルティス家の時代をここの連中は引きずっているだろうしな。そこは遺臣を丁重に扱うのがいいか」
「さて、一段落いたしましたね」
ケララとしては仕事が終わったつもりだったようだが、俺のほうは違った。
「あの、ケララ、悪いんだが、体のほうもお願いしていいかな……」
うつむきながら、ケララは「御意のままに……」と言った。
そのうち、この気持ちも静まるだろう……。
事が終わったあと、ケララがいつもの堅苦しい表情で言った。
「それと、摂政閣下、北方問題の件ですが」
「ああ、それも話し合わないといけないな。また別に時間を設けるつもりだったんだが――ちょうどいいか」
現在、GAノベル2巻の作業中です! お待ちください!




