115 義父を滅ぼす
俺は使者に対して、こう言った。
「こちらが名を上げた一族、家臣たちの自害によって、城兵の命は助け、ほかの者の再仕官も検討する。あくまで案だから、そちらが飲むかどうかは自由だ。このまま殺し合いを続けてもいい」
使者はわかってはいただろうが、俺の家臣が差し出した名簿を見て、さすがに顔を曇らせた。
「こうなれば、カルティス家は断絶でございますな」
「戦争とはそういうものだ。お前たちだって知っているはずだ。もう少し、反乱に非協力的な者がいれば助命してやろうとも思ったのだがな。さすがエイルズだ。一丸となって俺を倒そうと動いたからな」
「それでは、持ち帰らせていただきます……」
使者はこの短時間でやせてしまったように見えた。
きっと、ああいう奴は一縷の望みにすがってしまうんだろうな。残念だが、そういう形にはならない。
翌日、条件を飲む旨をエイルズ側が使者を寄越してきた。この時点で、事実上、ミネリアは滅亡が決まった。
主な一族や主戦派の人間たちがゆっくりと下りてきた。
首吊り台が並べられて、そこで関係者たちが首を吊っていく。
刑が執行される前にエイルズと話をする機会があった。
「どうせ、娘は処刑をするべきだと言ったのだろう?」
「それで正解です」
エイルズは「さすが、あのおてんば娘だ」と笑った。
「自分はここで死ぬが、幸い、子種はたくさん残した。自分の子孫たちはそれこそ、摂政の子の中にもいる。一族はそれなりに繁栄するだろう」
「あなたは名将だったが、最後の最後で道を誤りましたね」
「そなたと同じ時代に生まれたことを後悔しておるよ。そなたがいなければネイヴル家など、とっとと滅ぼしていたものを」
そこで時間になった。
エイルズも首吊り台で命を落とした。
セラフィーナは遠くで、そうっと一族が滅ぶところを見届けていた。出てこなくてもいいと言ったのに、目をそらしたくないとセラフィーナが言ったのだ。
ラヴィアラはセラフィーナ以上に悲しげな顔をしていた。
「きっと、セラフィーナさんは一族の滅亡を背負おうとしているんです。それが自分の宿命だとでも思っているんじゃないでしょうか。本当に気丈な方です」
「ラヴィアラもあいつがつらそうだったら、助けてやってくれ。あいつ、俺の前だと必要以上につらい顔を見せないようにするかもしれないからな」
「はい。アルスロッド様の大切な方はラヴィアラにとっても大切ですから」
三日ほど、城の明け渡しや生き残った将の仕官先の確認などで滞在したあと、俺はマウスト城に引き返した。
反乱鎮圧が一息ついて、俺は久しぶりに子供たちと時間を過ごした。
「おじい様が殺されたのですね」
まだ、子供だが教育を受けて聡明に育っている長子は寂しげだった。セラフィーナの子だから、エイルズは祖父に当たる。
「これが乱世だ。こんなことがずっと続くべきだと俺は思ってない。そうだな……お前が職業授与式をやる頃には全国を平定して、こんなことがもう起きないようにしてやる」
「はい、父上」
こくとうなずく姿にまだ怯えが見てとれた。
俺はその髪をつかんでくしゃくしゃにする。
「案ずるな。俺は自分の子供をひどい目に遭わすようなことはしない。お前が弟や妹と殺し合うことも絶対にさせない。俺が生きている限り、それは約束する」
俺もセラフィーナもずいぶんと業を背負ってしまったから、ならば、せめてすべてを解放するぐらいまで背負ってやろうじゃないか。
●
ほかの王都に近い土地でも小規模な反乱はいくつか起こったが、俺が優勢になっているという情報が広まる中で、勝手に鎮まっていったというのが実情だった。どちらにつくか迷っていた領主たちが勝ち馬に乗って、攻め込んでいくからだ。
王都に戻る途中、ニストニア家に寄って、俺の側でずっと戦ってくれたことに礼を述べた。
「ニストニア家が周囲を牽制してくれたおかげで混乱は広がらずにすみました。王国の摂政として厚く御礼を申し上げます」
ソルティス・ニストニアのほうも俺が姿勢を低くしているようなので、恐縮しているらしかった。かなりの実力者の割に全体的に小心者の男だ。
しかし、それが幸いして、ここまで生き残ってこれているとも言える。中途半端な勇気は身を滅ぼすことになる。
「いえいえ、摂政閣下はいまや娘のユッカの夫でもあります。摂政閣下のために戦うのは当然のこと。それに、この周囲の土地ではほとんど大きな反乱もありませんでしたし」
「それはニストニア家が間違いなく、俺の与党とほかの者たちがみなした結果です。未然に争いを防いでくれる方は、歴戦の将軍よりよほど功績がありますよ」
「そう言っていただけるならありがたいです」
ソルティスはため息をついた。
「大きな反乱も収まったし、このタイミングで、私も家督を息子に継がせましょうかな。あまり長く家督を持っていても、息子に煙たがられるかもしれませんし」
「そうですな。でも、いずれまた大きな争いは起きますから、その後でもいいかもしれませんね」
ソルティスは目を白黒させた。ソルティスの価値観では、もう、この一帯は落ち着いたということなのだろう。それ自体に間違いはないが。
「西側を平定しなければいけません。前王がまた世を乱そうとしているので、これを討たねばなりませんから」
王国統一に向けて、もう一仕事だ。
俺はニストニア家を経由して、途中で合流した軍隊たちとともに堂々と王都に入った。
反乱軍鎮圧を王都の市民にアピールする。
ちなみにラッパたち間諜の話によると、市民の反応は様々らしい。
やはり摂政は最強だという意見もあれば、親族も容赦なく殺すのは世の常とはいえ恐ろしいといった意見もあるという。どちらも事実を言っているにすぎないから、しょうがない。
幸い、西の前王を擁する連中とは、血のつながりが何もないから、そこのところは気楽だ。
――いよいよここまで来たといった感じだ。
オダノブナガが嘆息していた。
――あとは西に攻め込むだけというところで、ワシは明智光秀に殺されたからな。お前もケララという女に注意しておけよ。
まあ、あいつの場合は絶対大丈夫だろ。
でも、ねぎらうぐらいはしておいてもいいかもしれないな。
造反鎮圧編は今回でおしまいです。次回から新展開に入ります。
またGAノベル1巻、先週発売になりました! よろしくお願いします!




