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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
天下統一への道

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103/170

103 次の辺境伯

 戦勝の論功行賞の場でもタルシャは讃えたが、その日の宿所に俺はタルシャを呼んだ。


「よくやってくれた。直接見ていたわけじゃないが、いくつもお前を褒める声を聞いたぞ」

「どうということはない。風のようにすぐに決断し、攻める時は炎のように激しく攻め、動きは雷ほども速くやる。これを徹底すれば、弱兵は簡単に圧倒できる。戦争の基本としか言いようのないことだ」


 自慢するでもなく、タルシャは落ち着き払っている。ここまで徹底した武勇に秀でた女を見たのは初めてだ。ラヴィアラも立派な武人だけど、将というよりは一人の射手という面が強い。


「たしかにお前だけなら、それだけの実力を見せることもできるだろうけど、今回はそれよりはるかに難しいはずだ。なにせ、お前が動かした兵士はお前の直属の者でもなんでもないからな」


 すべて借り物で、敵軍を圧倒し続けるのは、慣れ親しんだ仲間で戦うよりはるかに難しい。。

 たしかに数でもこちらが押していたとはいえ、数の優位だけであそこまで兵を活躍させることはできないだろう。

「つまり、すぐに兵の資質を見抜いたか、兵をわずかな間に完全にタルシャの軍勢に変えたか、どちらにしても恐ろしい才能だ」


「ああ、それか……」

 少しタルシャは言いづらそうに口澱んだ。

「ほら、職業には特殊能力というものがあるだろう……。我の場合、『人は城』だったかな……。なんかもっと長い名前だったが忘れた……。それのせいで指揮されている兵の能力が、二倍になるはずなのだ……」


「やっぱり、特殊な職業の効果は大きいな」

 それなら、大勝の理由も説明がつく。

「あと、『風林火山』というのもあって、これは自身の力を高めるものだが……とにかく、これのおかげでそうそう負けることはなかった……。いわば、反則みたいなものだな……」


「別に恥じることではないだろ。自分の持っている力で戦って何が悪い。俺だって自分の職業の特殊能力はさんざん使わせてもらっている」

「だが、それで勝つのは当たり前という気もしていてな」


「だが、お前は俺に負けた。勝負というのはそういう何があるかわからないものだ」


 俺の言葉に、むっとタルシャはこっちをにらんできた。

 自分では卑下するくせに、俺が言ったら怒るのか。ただ、どうも、ただ怒っているだけでなくて、どうも照れているようにも感じられる。


「実は……昂ぶった心を戦場で静めようとしたのだが、どうにも敵がザコでな……あれではとても静まらないのだ……」

「それで、俺に静めてほしいということか?」


 しばらくタルシャは黙っていたが、ためらいがちに口を開いた。


「実は我は多淫な質のほうで……。お前が望むなら抱かれてやらなくもない……」

「摂政が前言を撤回するわけにはいかないからな。こっちもお前が望むなら構わないが」


 この言い方は少しいたずらがすぎただろうか。こっちから、タルシャに近づいて、背中に手を伸ばした。


 そこから先は話が早かった。タルシャのほうから唇を差し出してきた。

 まあ、部屋に呼び出した時点で、俺の意図も見透かされていたかもしれないが。


 自分から多淫だとか言っただけあって、たしかに何度もタルシャは求めてきた。ちょっと俺のほうが疲れそうになるぐらいだった。

 それにベッドの中ぐらいでしかできない話もある。落ち着いた後、タルシャと北方政策についての協議をした。


「タルシャ、お前の父親がマチャール辺境伯を自分から手放して、お前に譲ってくれる可能性はあるのか?」

「それははっきり言ってありえないだろうな。父上も一代で大幅に辺境伯の地位を高めた傑物だ。権力欲も強い。娘の我が言っても無意味だろう。まして我は本来の継承者でもないからな」


「なら、お前が兵を率いて、父親を追い出せ。そして、マチャール辺境伯を継げ。切り取り次第というやつだ。兵はこちらで貸してやる」

 ベッドの中でタルシャはけげんな顔をした。


「仮にそれができたとして、我がお前から独立したらどうする気だ?」

「タルシャ、お前は賢いからわかっているはずだ。王都から離れたところで力を持っても、限界がある。お前自身が、辺境伯という地位にこだわるのがそれを証明している」

 最初からタルシャに天下を取る意識はない。俺の出身地と比べてもはるかに難易度が高いだろう。


「あと、お前なら信頼できると思った。これは直感だからはずれるかもしれないが、俺は女を見る目はあるほうだ」

 そう言って、俺はもう一度、タルシャの体を抱いた。



 その後の情勢は俺が思い描いたとおりになった。

 エイルズとブランドは俺のネイヴル家の墓の近くに部隊を置いたり、ネイヴル城を接収して、そこを拠点にして待ち構えていた。兵の数は約二万。次第に増えてきたこちらの兵の数とほぼ同じだ。


 一方で、マウスト城から打って出られないように、そちらも自分の息子を大将にして、五千の兵を送って、これを留めている。


 さすがエイルズだ。ほかの領主からも兵を募ったとはいえ、これだけの数を揃えられるのだから、たいしたものだろう。

 ネイヴル城を奪ったというのも皮肉が利いている。これで、摂政の俺を否定したというポーズにもなる。


 もっとも、そういう余計なことに目がいってしまったことが、お前たちの敗因だ。


 この勝負、本拠のマウスト城を落とせなかった時点で、勝負はある。

 何度も激戦を戦い抜いた俺の兵が、ネイヴルの土地で負けるわけがない。


 事実、ラヴィアラがいつもより明らかに生き生きとしていた。

「どうしてでしょうか。気持ちがすごく盛り上がっています。大事な戦いなのに、楽しんじゃいそうなんですよ」


「それが故郷ってものだからな。ラヴィアラ、お前はエイルズの一部隊を森に連れていって、殲滅したい。できるか?」


 まずはエイルズに打撃を与えて、ここから出ていってもらう。それで俺の勝利はほぼ揺らがなくなる。

「はい、エルフしか知らないような小道もいくつもありますからね! 今は違う場所に住んでいても決して忘れませんよ!」

前回発表いたしましたが、7月にGAノベルさんより書籍化されます! よろしくお願いします!

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