②
「なんだよ…これ?」
その瞬間…マリーの顔が頭を横切った。
まさか、こんなデマを信用するとは思わないが…だが一昨日か…あの湖に行こうと約束していたのに行けなくなった日だ。まぁ今までだって、こんなデマを書かれていたんだ。何を今更…という感じでマリーは見ているさ。
…と思っていた。
あぁ…今ならなぜあの時に、マリーの下に行って(あれはデマだ)と言わなかったんだろう。
今、目の前の婚約者殿は…微笑みながら俺を見ている…だが目はぜんぜん笑っていない。
ようやくマリーが、あと一ヶ月足らずで、俺の妻になると言うのに…。こんな冷たい目で、見られることになるとは…。
あぁ、挙式でどんなに俺が、マリーを愛おしく思っているか伝えたくて、俺はここ一ヶ月ほど、画策をしていたのだが、運悪く一昨日はどうしても、そのための打ち合わせをしなくてはならなくて、マリーとの約束を泣く泣く諦め、幸せそうに微笑む姿を思い描いては、頑張ったと言うのに…
あの新聞の3日後、マリーの屋敷に訪れた俺への最初の言葉は…これだった。
「あら?もしかして…ラファエル?もう、ここには来ないと思っていたわ。」
「おい、マリー。なんだよ。」
「エフレン国の伯爵令嬢…キャサリン様との熱い夜。」
「はぁ?」
「お楽しみだったそうで…」
「何言ってんだよ。社交蘭のゴシップは大概がデマって、知っているだろう。ふざけるなよ。」
「…ふざけていないわ。」
「えっ?!」
「私はあなたの愛人にはならないから…。」
バタン!!
目の前で、扉は大きな音を立ててしまったが、俺は身動きも出来なかった。
何が、何があった?
今、マリーはなんて言った?
あ、あいじん?
なんだ、それは?
なぜ愛人になるんだ?おまえは俺の妻になるんだぞ!
だが間違いなく、あの記事が要因だ。
でも…なぜ?あの記事を信用する。
「ちょ、ちょっと待て!マリー!」
ドンドン!!!
激しく扉を叩くが、扉が開くどころか、物音一つ音もしない。
.
.
……無視かよ。
いったい、何故ここまで、マリーは頑なに俺を拒否するんだ。いつものゴシップ記事だぞ。確かに結婚が決まってからは、こういう記事は、初めてだが…今までに何度もあったことなのに。
どうして、ここまで…
俺は大きな溜息をつき、俺の背後をコソコソと動く人物に声をかけた。
・・・
「説明できるかなぁ…兄上。」
背後から…震えながら
「えーっと、もしかして私のことでしょうか?ラファエル王子。」
俺はにっこり笑い
「なにがあった。」
「そ、それが、色々とありまして…話せば長い…」
・・・
「簡潔に…お願いします。兄上」
「か、簡潔に、頑張ります!!」
「あの、あの記事が出た日の夕刻。
キャサリン様がお見えになって、マリーに言ったんです。
『あなたの住むところは、ラファエル様の妻になる私が、決めて参りました。旦那様をよろしくお願い。』…と
最初はマリーも呆れた声で、 『頭、大丈夫ですか?』と言っていたんですが、私がちょっと席を外して、戻ってきたら、状況が一変してて…俺、一応聞いたんですよ。あのキャサリン様に何を言われたんだと…でも、あいつ…涙を浮かべて…。」
涙を浮かべて?…
いったい何があったんだ。