知るための戦い
何とか自分の部屋を見つけ、そこに初めて入ってみたが2階の廊下よりも酷い散らかり様だったのだ、鉄格子やとても厚い円柱のガラス?の中心に油が詰められたかっこいい異形、そんなのが特徴的な散らかり方だ。
(きったねぇな……ここに他の兵士はいないのか?)
この部屋にはベッドが三つあり、この前デモ隊に焦げたベッドの兵士が殺されたらしいので、ユウガはそこに座り貰った矢を皮袋越しに見つめた。
正直なところ少し上手くいきすぎている気がする、自分は今まで神や戦争に関わり、それに加え転移者である、主人公補正だって周りのように努力でしか身につかないのに。
「俺は兵士になれたんだけどもよ、一つ不思議な事があるんだよ、魔王とか黄金の家系のが強そうなのに、どうしてデモ隊の話ばかり皆んなはするんだ?」
そう聞くが応答はなし、と言うより魂がツーと遮断されたかのような感覚がとても強かった、いつもなら雑音も少し混ざった状態が続くのにさっきから無音。
「悪魔憑きが兵士になろうだなんてよく考えたものだ、リーデかアリスの者か?」
あの異形は死んでいるのかと思っていたが普通に自分の後ろに立ち話しかけてきた、だが警戒心がとても強いようだ。
「り、リーデとかアリスとか聞いたこともないな」
「ほほーん?その歳で知らないと言うか!だがそんな度胸もここで終わりだ」
殴られかけ時矢を投げ捨て戦う気は示さなかった、だがそれに反応したと言うより、ツーの存在が悪魔に見えていただけだったことに戦う気を無くしたらしい。
「……神の魔力だと?その生命体は一体なんなんだ!」
この声を聞きつけたのか、廊下にいた目の死んでいる兵士達が武器を持ちこの部屋に入ってきた、だが全く何を言っているのかユウガには分からなかった。
「落ち着いてくれ!まずは自分が無契約なのを確認するんだ」
ツーが魂から突如出てくると腕を見せた、そこには何もなかったが兵士達は安心したようにその場で座り込んだ。
(どういうことだ!神の魔力にアリス?もっと詳しく!)
(つまり、自分はあの神の魔力に作られた、神の存在時間の副産物だ)
(詳しくって言ったじゃん)
(神が長生きすれば魔力の生命体が生まれる、その一人が自分ってわけ!それに今はそれどころじゃないようだぞ)
無契約であるのを見たとしてもまだ何かを求めていた、それは神に合う機会だ。
「神に近づいた証がその魔力だ、今の世でそれが何を意味するか分かっているだろう?」
「もちろんだとも、神狩りに協力はするがまず仲間が困惑してるんでな、少し出ていけ」
異形以外の兵士は皆出て行く、数人がとても怒りピストルを取り出して暴れていたが取り押さえられていた、ツーは自分よりも上なのか?転移者よりも?
「まずデモ隊からだ」
リーデデモ隊は魔法使いの始祖達が、差別され殺され見世物にされ続けた末に、ライブという能力でこう宣言したのだ、全人類から魔物として見る事を許してやる代わりに、全人類の敵になると。
それからの魔法使い達の暴れっぷりは恐ろしく、召喚戦争に必要な玉座を破壊して、魔法使いの味方をしなかった傍観者である神達を皆殺しにした、もちろん騎士も一般人も誰も逃げることはできなかった。
そこで現れたのが戦争の勝者であり、魔法使いに対抗するため無理やり異形に変えられたアリス終戦陣。
普通なら人類に恨みを持ち、異形になった瞬間から人間を殺すはずだったが、大いなる力を持った時から世界を自由に動かせるのだと悟り、魔法使いに人権を与えた偉人の一人、それがアリスだ。
ただデモ隊は何年経とうと魔物だ、人にさせられたところで魔法使いでもなんでもない、尊厳なんてない魔物であれるならと、理由も曖昧な中衝動のままに人間の敵になる者達だ。
そして神の魔力の説明。
ツーは神の魔力の残穢を持つ精霊のようなもので、精霊はとても希少な道具であると共にその利用価値は恐ろしく高い、神がどこから自分達を覗いているのかを特定することができる目を持つ、真実の竜という未来予知に魔力の流れまでも分かるそこそこ強い竜を呼ぶことができる。
そして、兵士達はなぜ前の信仰していた神が死んだのかと今の神に問い詰めるため、その目が必要でありツーも兵士達は必要だった。
彼らは数ヶ月前まで生きていた神が、つい数日前に死んだ感覚のまま放心に近い状態で生きているのだ、前まで生きていた神はこの世の均衡を保ち全てを愛する存在で、兵士も常に助けられてきたし他の神も助けられたきた。
それをただ死んだだけで片付けるのは絶対に許せないのだろう、思想の問題ではなく人としてだ。
「まぁこんなとこだ、今の神よりも人気があったし力もあった、なのに周りの神が前まで生きていた神の死因を明かさずだ、そりゃあいつらも怒るよな」
「本当にあいつは何者なんだ、謎が多いというか、召喚戦争で勝つことだけが目的ってわけじゃないだろ?」
「そもそも自分はあの神が、なんの目的で自分だけにこう言ったのかを知りたい」
ツーはユウガ達が転移する前まで神の作り出した生徒のようなものだった、とはいえ個人的な事を言われるだなんてことはそうとうな理由があったのだろう。
『僕は次に起こる戦争に参加する、3つの国が衝突する前に、この大陸の民全員をどこか遠くに逃してほしい』
「うーん、その時はまだ上位の天使だったはずだが……なぜ戦争に参加すると言えたんだ?」
改めて言う、この召喚戦争を歴史から見て参加できるのは兵士と転移者と神達だ、玉座に希望を持つ者も一応は参加者だ。
だがその中に天使という神でも人でもない曖昧な存在が戦争中に、この世界へと降りることは絶対に禁止されている、というのにあの天使だったやつは神になり戦争に参加できると考えたのだろうか。
そんなのひとつしかないのだし皆が薄々気づいていたこと、神の全てを喰らい神に成り替わることだけだった。
「異形さん、分かってるんだろ?」
「……さあな」
もちろんこの異形だって分かっていた、だが天使という世を守り秩序を構築する存在、そして自分達の信仰する存在の一つであるその天使が神を殺しただなんて、考えたくないのだろう。
信じていたものが最愛の神を殺す、それは信仰者からしたら1番最悪な現実であり、兵士の精神はこういう時に神の言葉で救われてきたが、その言葉はもう囁かれずに今だって怒りだけを抱えて生き続けている。
つまり新たな神は味方である兵士に見つかれば全勢力で殺されるという、前代未聞な事態が起きかけている。
「神喰らい、これは禁句ってわけじゃないよな?」
「?」
「あぁ、神を食べて天使か悪魔が神になることだよ」
ツーがユウガのためにそう説明したが、異形からしたら確証もないのに前の神の味方の天使が馬鹿にされたかのように感じて、というよりこれ以上今を信じたくもないし聞きたくもないかのようにツーへピストルを向けた。
「俺達兵士はただ死因を知りたいだけだ!そんな想像を」
「戦争が始まる一ヶ月前に神は殺され、数時間で例の天使が神になった、その数時間のうちに神は喰われたとしか言えないだろう?」
戦争に参加するため天使がやったとしか言えない完璧なタイミング、それを説明したが認めたくないし絶対に仲間の裏切りを、そんな存在がするはずがないと貫き通した。
だが撃つには覚悟以前に、前の神が異形に囁いた言葉がすぐにフラッシュバックした、相手の意見が間違っているかどうかなんて、神の私だって分からないのだし、そんなに疑心暗鬼になってはいけないよ。
異形はピストルを地面に投げ捨て、ベッドに座る。
「まぁその言葉が正解かも分からんし、俺みたいな兵士の思うことが正解かも分からない、だからこそこんな話をする前に神に会う準備を一緒に手伝ってくれないか?」
ユウガはこのまま撃たれてしまうんじゃないかと、心の中で今すぐ土下座するようにずっと頼んでいたが想定外、一瞬で冷静になった姿を見てかなり安心したようだ。
「ユウガが良いと言うならもちろんだ」
「俺にできることはかなり少ないけども、一緒に頑張ろう!」
それを聞くとツーは魂の中に帰ったようだ、異形はユウガを廊下へと無理矢理連れ出して何かをするようだ。
「俺達と神が出会う日は近いぞ!この男、東区兵士団の新参兵ユウガに全てがかかっている!」
ユウガ自身今の状況をあまり理解しきれていないというのに、兵士達は歓喜するどころか泣き崩れていた。
この無茶苦茶で陰謀の渦巻く争いの中で、家族や戦友を殺された者が何人いることか、こんな光景を見てしまうとどれだけ自分とツーが大事な存在なのかがわかる。
「ようし、よおし!やっとハッピーエンドに一歩近づたぞ!」
「神は我々を導き続けるのだ、ああ神よ!あなたの行方を今すぐに!」
信仰心よりも愛に近いのだろう、人が精神を保ち生きていけた理由は前の神にある、皆は借りが大きすぎるのだろうが前の神はそんなこと借りとすら思っていない。
「さぁ、団長に悟られないよう武器に火薬を馬車に積み込め!今回の作戦は国を敵に回してでも行うぞ」
兵士は依頼外の大規模な作戦、ましてや国に関わるようなことを独断で行おうとすればすぐに阻止される、とはいえこの情報はすでに東区だけでなく、北区にも伝えられていた。
皆がすぐに散ると、寮から大量の武器を持ってきて一人の男に渡して異空間に全て放り投げた、インベントリ能力を持っているのだろう。
「竜を倒した五人は彼について行ってくれ、そして帰ってきた時に西区や南区と戦っていたら近くの宿に泊まりユウガだけは隠れていてくれ」
(捕まったら封印される可能性もあるからな、従っておけ)
「もちろんそうする、それじゃあ行ってくるよ」




