今は無い片目
鈴木雄雅という救いようのない夢見がちな男、彼は今あり得ない動画をとあるサイトで見つけた。
「フェイク……このサイトでそんなこと」
フェイク動画を疑ったがこのサイトにそんなものを上げる人間がいるわけもない、そう思い少し興味が湧いた。
その動画は数日前に首脳会談中に失踪したアメリカの大統領、その本人が椅子に座り数分した後、違和感なくいつの間にかその場から姿を消していたのだ。
少しGoogleでこのことを調べようとした、するとおすすめ欄に関わっているかもしれないことがたくさん流れてきた。
「芸能人達が大勢姿を消した?それも番組中に、こっちはスクランブル交差点の人間が一瞬で消えた?」
全ての動画を見てみたがそれは興味よりも恐怖が勝った、4月の初めでもないのにこんなの冗談でもキツイ。
(流石に信憑性があるな、ニュースでも見てみるか)
テレビを付けたがなぜかスタジオは大混乱、それもそのはずだ、画面に映る人間達は次々と一瞬で姿を消していったのだ。
反射的にテレビを消して冷や汗を流していた、この消えた人間達が死んだかどうかも分からないからだ、もしも自分があんな目にあえばと。
「ハハ……」
さすがに夢だろうと目を閉じて深呼吸、そして強く頰を引っ張ると普通に痛かった、ため息を吐いて目を開けた。
「んー!んー!」
(は?)
突如そこに広がった景色は、椅子に縛られる自分と大勢の人達、空に浮かぶ一本の羽、とても大きな謎の暗い空間。
「ハロー!もう日本人はだいぶ集まったようだーよね?って誰に聞いてんだか、笑っちゃうよ!」
皆が椅子に縛られ口内を布で敷き詰められた状態、なのに誰が喋っているのだろうかと思えば、空から聞こえた。
その正体はあの羽だった。
「さあ!1分以内に落ち着かなきゃ不合格として殺しちゃうかもだぞ〜?って、神がそんな不平等なわけないだろー」
何を一人で喋っているんだと、ユウガは不安と混乱が入り混じった感情で硬直していた。
「差別のつもりはないけど、君達は陰湿さを極めた卑怯な者達らしいね!とくにそこの、君」
大勢の人達の頭上に目が現れ、それがパッチリと全ての目がユウガをニヤけるかのように見つめていた。
(周りのやつらがどう思うか分からないからやめてくれよ、てかこの状況なんだよ!)
「今は観察をしているんだ、これからこの自分という素晴らしき存在が選抜を行ってあげようと思う」
突如自分達の口内に入っていた布が消える、少し安心した隙に遠くからとても多くの悲鳴が聞こえた、それは恐怖からきた女性の声だった。
「この先自分よりも恐ろしい存在がうようよといるんだぞ?きっとこの程度で泣き喚く惨めな君は、戦を知らない弱者かな?」
「何言ってんだよ!ここはどこで俺達はこの先どうなる!」
皆が疑問だけを投げ、中には泣き叫ぶ者もいたが、その中でも泣き叫ぶ者達が宙に浮かびパッと音を鳴らして姿を消す。
「泣きすぎたら皆んなにも移っちゃうだろー!全く人間はこれだから駄目なんだ」
これで小さな悲鳴をあげる者達だけになったのは良いことだ、これから大きな声で泣き叫べばまた犠牲が出る。
「話が逸れたね、君達地球人には想像もできないほどこの世界には素晴らしいものが溢れてる、それを求めて頑張るも良いし、生きるための農業でも好きにするが良い」
「それだけのために俺達はここに?」
「そんなわけないだろう?、ただ神は人間を好きにさせてあげないといけないんだ、周りからの圧ってやつ?が強くてね」
自由にさせないと駄目だ、なんて言う割には強制的にここに連れられた、まさかそこは気にしないでもらいたい、だなんて言わないよな?
「この中に不満を持つ子羊が大勢いるのは分かるさ、いきなりこんな場所に呼ばれたんだからね、だからお詫びと言ってはあれだが能力をランダムに与えたよ」
(能力……じゃあ俺は勇者かな)
謎の自信があるユウガの能力はまず、勇者なんかではない。
性格に似合った能力を与えられることになっていたのだ、傲慢な人間ほど物量があったり、根暗な人間ほど執着深い能力だったり。
「いきなり能力与えられたところで、この先生きていけるかなんて、それにお前の目的もわからないまま生きることなんてたまったもんじゃない!」
「それはそうだと思うよ?でも自分の目的は本当に小さなことで、でも人には大きな試練かもしれない、まあ考察チームが私の答えをなんとなく考えてくれるだろ?そろそろ自分はティータイムだから分身体を魂に住まわせておいたよ」
そういうとやつは姿を消した、その数秒後に数百人ほどの転移者達はまとまって謎の街の近くに転移させられていた、神は自分勝手すぎるだろう。
(いやキツイなぁ、いきなりこんな場所に送られても)
「んなこと思っても仕方ねぇな、早速街に行くとするか!」
皆よりも一足先にユウガは街に入った、昔から夢見た異世界に来ることができたのだ、こんな素晴らしすぎる光景を見ずにどうする。
(なんでかわからないけど文字も読めるし、ここの住人達の言葉も分かる!神から祝福されし俺ってやつ?)
本当は他の皆も自動翻訳機能が何らかの理由によりつけられているので、ユウガが特別なわけではない。
「成り下がってないけど成り上がりてぇ、自分が強いかもわからないけど世界征服してぇ……」
欲望を垂れ流しながら歩き続けて気づいたことが一つ、金がないと何もできない事が多い。
店に入るためだけに金がいる、ギリギリぼったくられる可能性があって恐ろしい。
「もう無理だろ、何でわざわざこんな場所に来させるかねあいつは」
「何かの意味があるに決まってるだろ、神がわざわざ姿を現してまでしたことだぞ?馬鹿かよ」
「ひっどいな、え?」
仲間なんて作ったつもりはないのに、後ろから独り言に対しての返しが来た。
振り向くとそこにはもう一人の自分が立っていた。
「初めましてぇ!自分はユウガの分身体の、ツーだ!」
テンションは全く分身体とは思えない、というか一緒にされたくないようなやつだ、確かあの神は分身体を魂に住まわせると言っていたが、まさかそれがこいつなのか?
「確かあれもそんなこと言ってたよな、で?どんなことをしてくれるのさ」
「基礎的なことを教えたり、経験値を貯めてくれれば天使にしてあげよう……」
「天使か!まあ悪くない」
天使といえば悪を滅する最強格の生命体だ、ユウガはやっと人を従わせる側になれることを楽しみに思えた。
「経験値は強ければ強い生物を倒せば手に入る!だがそれは目にすることはできなくてね、自分のような分身体しか見れないんだ」
「なんだかお前に主導権を握られてる感じがするよ」
今のところ基礎的なことを教わらないと何もできない、まずは金銭面だろう。
「今ユウガに必要なものは金だ!戦闘力は悪くなさそうだし素手でモンスター討伐に行くよ!」
「こういうのってギルドに行くんじゃ?」
「ギルドはこの街にないし、モンスターの特定部位を買い取ってくれる場所があるから問題なしかな」
このあとツーの後ろをついていくと街の外に出た、まあさすがに街中に現れたら住人達もたまったものではないのだから対策はされてあるのだろう。
「まずはあそこにいる多分弱い方のスライムを倒してみて」
「やっぱ初めはスライムだよな」
あぁ、なんて異世界らしい流れだろうとスライムに殴りかかろうとした、すると近くにいたスライムが人の言葉を話した。
「逃げろ!人間だ!ここは任せてみんな逃げろ」
「……」
そのスライムに顔や口なんてものはなかった、これは最古の英雄王が世界平和を望み魔物との交渉手段に、魔物に言語という加護を与えた結果だ。
「まさか基礎ができないわけ?いつかは同族を殺すことだってあるかもだよ?こんなところで躓いてたらこの先」
「いやいや、おかしいだろ!喋ってるこれを倒すのか!?気でも狂ってるんじゃないか?」
「他のみんなは人の形をした魔物を殺しているよ、周りは躊躇なんてしない」
なぜ人と話し合えるはずの魔物がこんな扱いをされているのか不思議だった、だがそれよりも、他の転移者達はこんなのを躊躇なく殺していることに驚いた。
「基礎だよ、この世界の人達も転移者と同じさ?」
「基礎も何も、まさか人と同じ言葉を話す」
「いいから、これは人類の視点から見たら脅威なんだ!この攻撃性を見てみなよ」
確かに今スライムはユウガの足に体をぶつけたり、口?で噛んだりはしている、だがどう考えても襲ったのはこっちだ。
そんな時スライムから声が聞こえた、あの神の声が。
「もっと言い方があったんじゃないの?別に否定はしないけどさ、良いかいユウガ君!人間以外が喋る言葉ってのは人を殺すための道具にすぎない」
「めんどくさいな、殺さなくても攻略法はあるんだろ?」
「あるとも、精神が極端に強くなったり弱くなったり」
「分身体君、ツー君、それでは天使になることはできないよ?」
神はツーの言った精神面のことについてなぜか怒っていた、まるで天使にさせたいかのようじゃないか。
「二人とも疑問だったんだけどさ、天使ってのは詳しくどういう生物なんだ?」
「強くなるだけさ、これでいいかい?」
神がそう言った後突如通信が切れたかのように話は終わる、まさか何かを隠しているのか?
「なんかしっくり来ないけど、まあ後々分かるよな」
時間の流れに身を任せることにしたが、いつもそんなだから失敗ばかり、だからどうしろというわけではないが、ユウガは自分でも不穏な雰囲気だけを感じ取りはしていた。
「ツーってさ、あの神のことで分かることある?」
「黄金の家系に流れる血を継いでない、神の後継者だったってことくらいかね」
「黄金の家系って?」
「うーん、説明が難しいけど強い人達」
ツーの説明だけでは皆も納得いかないと思うので説明を。
永久に輝く聖剣を砕き、その聖剣のエネルギーごと魂に練り込んだマッドサイエンティスト的な古竜、その竜は力を二つの生命に与え新たな物質などを作ることに成功。
だがその後古竜が死ぬと、閉じ込められていた生命はこの世に解き放たれた、人の言葉を理解していた一つの魂Aは人と結婚し子供ができたが結晶病を持つ一人目の子供になった。
魂Bはこの世を彷徨い続け何体もの敵を殺してエネルギーを概念的に吸い取る、そして魔王を殺し英雄達を殺した、最後には自分の力を強制的に七人の崇拝者に与え古竜を復活させる魔法を作り出そうとしている。
それは何千年も前の話で、黄金の血族は今合計13人生存しているが、結晶病をもつ最も理性があり最も恐ろしい魂Aの娘は行方知れず。
この黄金の血族のせいでデモ隊が生まれ勇者が生まれ、転生者が現れたがその説明は話が進むごとに話します。




