第一章:雑魚狩り(1)
冒険者の底辺Eランクであるアンブラは、心に消えない呪いを抱えて日々を過ごしていた。
そんな日常に現れた、姉を助けようとダンジョンに挑む少女・ララ。
ダンジョンへのパーティーとして誘いを受けるアンブラだが、彼はその誘いを断る。
ララは他の冒険者パーティーに誘われ、ダンジョンへと潜って行く。
その時に、ダンジョンでオークの異常発生の報告を受けたギルドが騒めく。
アンブラは心にある呪いはそのままに、足はダンジョンへを向かう。
戸惑いと罪悪感の中で、アンブラはダンジョンへと突入して往く……
*
「すまなかった、アンブラ……お前は自由だ」
何を言うんだ? 兄者? 俺は不自由などない。
何故、そんな事を言ったんだ?
教えてくれ、兄者……。
*
かつて、魔王全盛の時代。闇が空を覆い、絶望が世界を飲み込もうとしていた。
勇者を筆頭とした人々は立ち上がり大きな戦争が起きた。
人間、エルフ、ドワーフ。この三種族が、お互いを友として強大な魔王と魔の一族を討ち取り平和を勝ち取った。
それは既に二千年も昔。子供たちは寝物語にその歴史を教えられ、魔王が残した迷宮と勇者達の冒険へ思いを馳せるのだ。
魔王が残した迷宮、ダンジョン。
それは魔王が討ち取られた後に出現した地下、もしくは地上へと伸びる不思議な空間。そこからは数多の生物、資源が見つかり人々はそれらで生活を豊かにしていった。
建物の様に見える空間、更には森や湖までが存在し生態系までも確立された異様な場所だ。
多くの資源が確保できる恩恵の裏には犠牲もある。
ダンジョンからあふれる尽きる事の無いモンスター被害。地域特有の資源の奪い合い。だが、それに対応する組織も存在する。
それが、冒険者ギルドだ。
そこに集まる冒険者達はダンジョンの攻略、モンスター退治、資源の回収などその仕事は多岐にわたる。
命の危険がある仕事だが、ダンジョン攻略による栄光、貴重な資源の発見によって富を築く、そして、命のやり取りの中でしか生きて行けない連中の寄る辺でもあった。
ギルドは資源をそれぞれで管理、冒険者達と言う戦力の把握、国同士が物資で争う事を監視する役目も担っている。
今や、ダンジョンからの資源なくては生活がままならないこの時代では、冒険者は花形職業であったのだ。
世界中に点在するダンジョンの1つ、地下へと広がるダンジョン、ハーレ・ムイヤ。それを取り囲むように栄えた都市・テンプレー。
そこには雑魚狩りと呼ばれる、少し変わった冒険者がいた。
これは、そんな冒険者の物語。
*
冒険者ギルドは早朝から活気が出る。
受付嬢や職員たちは忙しく掲示板の更新を始めて、依頼の受注や成果の報告をする冒険者でごった返すのだ。その中で、一人の男が依頼を終えてギルドに入って来た。
その手にはモンスター退治証明書と言う書類を持っている。モンスター討伐の依頼では、戦闘完了後にギルドの回収チームがモンスターの討伐数を確認して書類を発行する。冒険者はそれを受け取ると、ギルドに討伐数に応じた報酬を受け取る為の手続きが出来るのだ。
その男は、他の冒険者達と比べると身体が小さく、細身で、白い肌をしていた。服装で男だとわかるが、顔だけを見たら女と間違えてしまう程に中性的で美しい顔をしている。抜け目の無さそうな鋭い目に、全身から感じる血なまぐさい雰囲気は彼が戦いと死の世界で生きていることを雄弁に語っていた。だが、そのまとう空気は月の香る夜が如きに上品でもある。
背中に柄の無い短刀を刺し、腰には特殊な形状の鞘に納められたナイフ。そして、両手にはガントレット。その他にも身体中に投擲用の棒手裏剣を隠し持っている。
「やあ、カエデ。依頼は完了だ。都市外れのゴブリンの巣は全部破壊し、その場に居たゴブリンも全員始末した。しばらくはあの付近の人々は大丈夫だろう」
その声は静かだが、遠くから聞く鐘の音の様な魅力を持っている。書類を受け取ったカエデと呼ばれた受付嬢は笑顔でその書類に、回収チームの報告との齟齬が無い事を確認すると、ドンッと判子を押してから彼へと報酬を手渡した。
「確かに確認しました。これが報酬です。ゴブリンの巣だなんて、大仕事でしたね」
「ゴブリンは中途半端に賢い。だが、人間の方がもっと賢くて残忍だ。殺しで人間に勝てる種族はいない」
「物騒ですよ? もう、暗い事ばかり言ってないで美味しい物でも食べて来てください」
「そうしよう。酒場のステアが冷たいエールを始めたって自慢していた。俺も試しに飲んで来よう」
「いってらっしゃーい」
カエデは丸眼鏡をかけた純朴そうな受付嬢だ。彼女に明るく見送られながら男はギルドの酒場に足を運ぶ。
酒場は朝食を求める冒険者が多くいたが、夜に比べるとかなり空いている。男はいつも自分が選ぶ店の隅にある席へ座ると大きく息を吐いた。
少しして、彼の頭に低い声がかかる。
「おう、アンブラか。郊外のゴブリン討伐ご苦労さん、今日はもう休みか?」
注文を取りに来たのは店の亭主であるステアだった。朝から晩まで店を開いているこの男は、元冒険者である為か体力も底なしなのだろう。浅黒い肌に、つるりと光る頭、顔の古傷。ここらの冒険者で彼の世話になっていない奴はいないだろう。
「邪魔するぞステア、今日はもう何もない。最近、冷たいエールを出すと聞いた」
「あぁ、今の目玉商品だ! だが前のエールも良かったろ? お前はいつも注文してたよな?」
「不味いが、安心する味だった」
「今回のはちげぇぜ? キレが違う! クソ暑い炎の階層での依頼、忌々しい太陽に焼かれる外仕事でクタクタの身体を潤す至極の一杯だ!」
「じゃ、それを貰う。値段は変わったか?」
「あぁ、少しお高いぜ?」
「その価値はある事を祈る」
アンブラの言葉にステアは豪快に笑いながら厨房へと引っ込んでいく。
冒険者なんて商売をやっている連中は荒っぽいが、ステアの様に気骨とユーモアを持っている奴は稀だ。
そんな時だった。
「貴方、冒険者の方ですか⁉ 私はララ・カヴァロと言います。腕の立つ冒険者の方を探していて」
アンブラに再び声がかかった。彼が顔を上げると、そこには十代半ば程の少女が立っていた。顔つきに少しの幼さを残してはいるが、その美しい顔と若々しくしなやかで健康的な身体は多くの男を虜にするだろう。まるで金糸のようなプラチナブロンドの髪を後ろにまとめている。
可憐な少女だが、腰に下げたロングソードが彼女を戦闘に身を置く存在だと暗に伝える。
ギルドで見た事の無い顔だと思ったアンブラは、彼女の状態を薄々悟った。
「俺はアンブラと言う。最近この辺に来たな? その腰の武器と体重移動のクセ……この街にはいないが、昔見かけた王宮近衛騎士のそれに近い。上品な強さを磨いたのだろう。泥臭いダンジョンには慣れていない……慎重にパーティーを選べ」
アンブラは彼女の動きを観察してつい、そう言ってしまった。。
彼はこの辺りでは余りにも珍しい動きをする彼女がどうしても気になってしまったのだ。
「凄い……少し歩いただけなのにそこまでわかるなんて!」
彼女は目をキラキラさせながらアンブラの手を取る。
「突然でごめんなさい! 私とパーティーを組んでくれませんか⁉ どうしてもダンジョンに行きたいんです! アナタの様な凄腕なら安心です!」
そのセリフでアンブラは呆気に取られるが、素性の掴めない彼女へ質問を続けた。
「冒険者登録が終わったばかりの新入りか?」
「いえ、何度か表層での依頼はしていました」
「それじゃ、冒険者ランクはDか」
「はい!」
冒険者ランク。それはダンジョンへと挑む冒険者達の熟練度や信頼度、戦闘能力を大まかに分けたものだ。
ランクA:ダンジョン攻略の最前線を行くエリート集団。ダンジョン開拓の最前線。トップクラスの戦闘力と統率力を持つ者が認められる。
ランクB:ダンジョン攻略においては前線への仲間入りを果たそうとする人々。最前線への人員としては申し分ない程度だが、死亡率が高い。
ランクC:ダンジョンの資材回収、モンスターの生態調査など。既に開拓された場所を人類の場所にするべく動く人々。複数のパーティーで大型モンスターの討伐なども行う。冒険者では最も数が多い。
ランクD:ダンジョンの資材回収、哨戒(偵察やパトロールの事)を主な仕事にする駆け出しの人々。戦闘力はそこそこであり、大型モンスターの討伐依頼は受けられない。
ランクE:ダンジョンに潜る事無く、ダンジョンの外に漏れた雑魚モンスターを狩ったり、薬草採取などが主な仕事。このランクにいる人々は戦線復帰が叶わなくなった者か、臆病者だ。冒険者はダンジョンにギルドに事情を伝えないまま2年潜らないとこのランクへと降格となる。
ランクはパーティーと個人に着く。
そして、規格外と呼ばれるランクがある。
ランクS:個人として一個大隊レベルの働きが可能と判断された者にのみ与えられるランク。このランクになると国からの勅命での依頼が多く、ギルドには姿を現さない。
目の前のララはランクDに相当する冒険者だ。
アンブラは彼女の返事を聞くと、即行で返答する。
「俺とパーティーを組むのはよせ。俺のランクはEだ。もう、ダンジョンには潜ってない」
その言葉にララは怪訝な顔をする。
今の観察眼でそのランクは低いと思われたのだろう。
「う、嘘です! だって、Eランクなんてこのギルドには殆どいないじゃないですか!」
「その殆どが俺だ」
アンブラはダルそうにそう言い返した時だった。
「おい、お嬢さん! パーティーを探してんのか⁉ それなら、雑魚狩りなんざ選ぶなよ! 一瞬で死ぬ事になるぜ!」
声をかけて来たのは大柄な体格の冒険者。その背中には大剣が背負われている。その後ろにはアーチャーであろう弓を持った男と、大型の杖を持った回復役であろう女性がいる。
パーティーとしては少しのまとまりが見えて来た連中だ。
年若いメンツが揃っているので、新進気鋭のメンバーであるとアンブラは考えていた。
「この、Cランクパーティーである火炎の雲が歓迎するぜ! 見たところ剣士だろ? 丁度前衛がもう一人欲しかったんだ!」
大剣の男が恐らくリーダーだろう。
ララはその誘いに嬉しそうな顔をするが、アンブラを見ると剣士にお願いをする。
「ありがとうございます! えっと、この人も一緒に連れて行ってもらうことって」
「は?」
彼女の言葉にアンブラは思わず声を上げてしまう。
だが、それをかき消すように火炎の雲のメンバーが笑い声をあげた。
「ハハハ! お嬢さん、コイツはEランク! 雑魚狩り専門の冒険者だ! 無理矢理連れて行ったりなんかしたら死んじまうよ! せめて、ダンジョンに挑む意欲のある奴じゃないとな! おい、雑魚狩り! お前も長生きしたいなら夢なんか見るなよな~?」
大剣の男は笑い声に侮りを含んではいるが、正論を言っている。
アンブラは表情を変えることなく男の言葉を無視する。
「雑魚狩り……こんなレベルの人が下の方だなんて」
ララは驚愕に顔を染めてアンブラに頭を下げた。
「無理を言ってすみませんでした。あ、お詫びに何かごちそうさせて下さい!」
「気にするな。何の目的があってダンジョンに挑むかは知らないが、死なないようにな」
「……姉の為なんです。助けるには、モンスターの素材が必要で」
「姉か……後悔の無いようにな」
アンブラはそう言うと彼女と火炎の雲のメンバーを送り出した。
その後、アンブラは彼女の動機を頭の中で反芻していた。
「姉……その為に、ダンジョンへ。……兄者、俺への呪いはまだ解けないようだ」
*
「よし、早速ダンジョンに潜るか! 丁度、モンスターの素材回収の依頼があったんだ!」
火炎の雲のリーダーである大剣の男はそう言うと、ギルドの受付に話をすると、直ぐにダンジョンの入口へと向かった。
「ララって言ったな! 俺はグリンバルってんだ! その腰の剣、中々の業物だな。それは家宝か⁉」
「グリンバルさん、よろしくお願いします! この剣は家宝ではありません。でも、ドワーフに鍛えられた剣ですのでかなり頑丈ではあります」
「ドワーフの剣⁉ もしかしてララってお嬢様? あ、ごめんはしゃいじゃって。私はメル。杖に込められた回復魔法と自前の薬学でサポートするね!」
回復役のメルは元気に挨拶する。だが、その目はララの剣に向けられていた。
こだわりの強いドワーフは売り物や贈り物に丹精込めた逸品しか出さない。そのおかげで、ドワーフの剣や防具は非常に高い実用性が約束されている。貴族や、それこそ金に余裕のある者が持っている事が多いのだ。
「メルさん、よろしくお願いします! お、お嬢様ではないんです……ドワーフに知り合いがいるので、それで」
何処かぎこちなくララはそう答えるが、内心では疑問に首を傾げていた。
(何でこの人達は、武器しか見てないの? さっきの雑魚狩りの人は、恐らくだけど私の動き全部を分析していたのに?)
そして、パーティーは大きく地下に伸びる巨大な階段の前に立った。人間達よって整地されているが、その入り口は何処かおどろおどろしい空気をゆっくりと吐き出している。横に広く作られており、兵士達が隊列を組んでも容易に入って行くことが出来るのだが、もう少し日が昇るとこの辺も冒険者達でごった返す。
今はこのパーティーしかいない。
「一気に五層の基地まで行くぞ! 目的は七層の奴だからな。五層の基地で一度体制を立て直してから挑むぞ! ララはまだ五層の基地は見た事ないだろうが、ダンジョンの基地は要塞だ。きっと驚くぞ!」
グリンバルがそう叫んで、パーティーはダンジョンへと降りて行った。
そして、少しの時間が経った頃だった。その基地からギルドへと連絡が飛んでいた。三層付近でモンスターの異常繁殖が確認されたという事だ。哨戒班として派遣された冒険者達は消息不明となる事態と発展していたのだ。
入れ違いとなってダンジョンに入った火炎の雲のメンバーは一~五層間にいる唯一のパーティーとなって孤立してしまったのだ。
*
「……姉か。俺は、何故走れない?」
ララ達と別れてからのアンブラは、ブツブツと呟きながら左腕のガントレットを撫でていた。
「おい、おい? アンブラ!」
突然の大声にアンブラはハッとして顔を上げる。
「大丈夫か? お前、時々そうしているよな。五年前の事か?」
声をかけて来たのは手にエールを持って来ていたステアだった。
アンブラはその言葉に目を伏せた。
「お前の兄貴の事は、残念だったが……もう背負わないでもいいんじゃないか?」
ステアはそう言うと、アンブラの近くにある椅子に座る。そして、先ほどのララと冒険者達の事について話し始めた。
「さっきの娘、火炎の雲について行ったのか。中々に勢いがあるパーティーだが、ああ言うパーティーは運が悪いと全滅するんだよな。無理しないと良いが……」
「あの娘、姉を救うためにダンジョンに挑むと言っていた。その所為か……アンタの言う通り、兄者を思い出していた。五年前に、俺が見殺しにした」
「ダンジョンではそれが常だ。アンブラ、お前がそうやって腐るのを兄貴は望まないんじゃないのか?」
アンブラは目を悲し気に細めると両手で顔を覆う。
「兄者は、嘆いているだろう……どうしてもダンジョンにもう一度入る事が出来ない。一族と兄者の名誉の為ならば命は惜しくない。だが、何かが、俺の足を止める」
そんなアンブラの言葉にステアはため息を吐くと、持って来たエールを飲み干してしまった。
「俺から酒を取るな。それに、仕事中だろ」
「へっ! うじうじした野郎には、こんな上等な酒飲ませらんねぇぜ! 仕事して、また夜に来い。後な、お前のそれは意外と簡単な事なのかもしれないぜ?」
ステアはそう言うと、手を振りながら店の仕事に戻って行く。
「不良店主め……答えてから行け。俺はなんでダンジョンに入れない? あの娘は、姉の為にダンジョンへ挑むのか。俺は、何故兄者の為に走れない?」
アンブラは身体から力を抜くとしばらくはその場から動かなかった。
昼時ほどになった時だった。店の中にまで届くほどにギルドが騒がしくなっていた。
「……なんだ? Aランク達が新しい階層でも発見したか?」
その様子にアンブラは少しだけ意識が向くが、心に靄の様な帳が降りた彼にはそれも酷く遠くの事の様に感じてしまう。
少しだけ、眠りたいと感じた彼だが。
「オークだ! 浅い階層に群れで現れた! 女はダンジョンに潜るな! 最低でもCランクのパーティーを集めろ、ランクが上の連中にも掛け合え!」
冒険者とギルドの職員たちが大騒ぎをしている。
「オークか」
アンブラは小さく返事でもするかのように呟く。
亜人種の内の一つだが、連中には人間性が見られずに醜悪な欲と衝動のみで生きている種族だ。闇の眷属であり、先の魔王との戦では魔王と魔の一族に組みして人類を追い詰めた種族だ。ある程度の知識を持ち、武装までしている危険な連中だがDランクの冒険者でも倒せる程だ。
しかし、危険性は連中の繁殖力にある。連中は他の亜人種や人間のメスに子供を産ませることで繁殖する。一度に多くの子を産ませることが出来るのだ。オークの子供は小さく、簡単に出産が出来てしまうので母体への負担が異様に少ない。その為、女性は捕まれば死ぬまで繁殖の道具にされてしまうのだ。
故に、オークへの対処には男性が対処するのが基本だ。
如何に高いランクの冒険者達であろうと原則女性は積極的にオークの討伐依頼を受ける事をギルドは許していない。
「群れの規模は!」
「不明だ! 哨戒中のDランクからは群れだとしか! もう連絡が取れないみたいだ」
「くっ! 哨戒班にも何かあったな! 何故、浅い階層に⁉ 普段ならもっと奥に引っ込んでいるだろ! ここらでオーク被害なんざダンジョン外の森の中でくらいだったのによ!」
アンブラはその騒ぎを微かな苛立ちと共に、だが、しっかりと聞いていた。
何故、耳を傾けてしまうのかは彼自身もわからなかった。
「今からダンジョンの出入りを制限するぞ、女が攫われたら最悪だ!」
「おい! 朝にダンジョンに入っていたパーティーがいる! 行き違いになっちまった!」
「女は何人いた⁉」
「二人だ。その内の一人はDランクだ」
「ヤバい! 今すぐ追え!」
「人手が足りない! クソ、高ランク達は深層の前哨基地にいるから間に合わないぞ!」」
複数人の怒号が飛び交う中で拾った情報が、アンブラを叩き起こした。
「さっきの? ララと言った」
静かにそう言った彼はスルリと椅子から立ち上がる。
アンブラは吸い寄せられる煙の様に店を音も無く出ると、ギルドを見た。その先にダンジョンの入り口がある。どうしても立ち向かえなかった場所、兄者を奪った場所。
いつもなら呪われたように重い脚が簡単に持ち上がる。
「誇りある狩りでもなく、仇でもなく。過去の自分と重なる、知らぬ者を救う為に行こうと言うのか」
そう口にしたアンブラは駆け出していた。
ギルドに入ると、勢いよく受付を通り過ぎてダンジョンへ抜けるゲートを目指す。
「雑魚狩り⁉ おい! 今のダンジョンは異常事態だ! 死ぬぞ! Eランクが独りで行くな!」
ギルドで出撃の準備をしていた冒険者がそう叫ぶが、アンブラはゲートを飛びぬけるとダンジョンの入口へと立つ。
恐怖は無い。
その代わりに、有るのは罪悪感。
「兄者、お許しください」
アンブラはそう言うと入り口に置いてあった松明を拾い上げると、ダンジョンへと駆け出していく。
暗闇が、彼を包み込むと同時に首のチョーカーから顔にガシャンと音を立てて仮面が現れる。その仮面の内側からアンブラは周囲の情報を拾っていく。
それは、足跡や魔力の痕跡を可視化する力を持っている。彼の一族に伝わる製法で作られる魔法が込められた代物だった。そして、それは人間やモンスターの体温も捉える。暗闇すらも見渡し、彼にとって暗闇は妨げにはならないのだ。
だから、松明は火を付けてない。
これは、オーク達への牽制の為に持っていくだけだ。
「……暗闇の一層。ここは、そこまでの脅威はない。だが、オークにとってはこれ以上なく過ごしやすい環境だ」
アンブラは耳を澄ませる。音は聞こえない。鼻も効かせるが、臭いも無い。
「この階層に上がってはいない? 三層を抜けるまではろくな光も無い空間が広がっている。一層は暗闇の荒地、二層は石の回廊、三層は広く開拓された坑道。時間的に、二~三層までは潜ったか?」
頭の中の情報を口に出してアンブラは組み立てて行く。
仮面のお陰でアンブラは異常な速度で一層の荒地を駆け抜ける。
この階層は最早通り道なので最短ルートは確立されているが、暗闇の強制力が強く魔法での光源確保が出来ないのだ。だから、本来であれば慣れていても松明の明かりは必須なのだ。
そして、第一層の終わりにたどり着く。
「第二層、石の回廊。ここから、モンスターの生息範囲だ」
ダンジョンでは転送の魔法陣が次の階層の入り口となっている。そこに触れた者は一つ深い階層へと飛ばされるのだ。
転移した直後に広く続く回廊が見える。そこから数々のモンスターが現れる。所々にある松明が回廊を照らしているが、薄暗い。この環境が、新人達を苦しめる。
アンブラは背中の剣を引き抜くと、モンスター達を通りすがり様に切り裂いていく。
「少ない。さっき通ったばかりだ」
モンスター達の数を見ながら、アンブラは戦いながらもメンバーの痕跡を追う。
足跡よりもここからは回復魔法の込められた杖を持っていた女性の、魔力の痕跡を彼は追って行く。
この回廊もそうだが、ダンジョンは広大であり次の階層の入り口も第一層を除いて複数あるのだ。アンブラはモンスターを捌きながら、痕跡を追う。
ノリで書いたぜ




