第一話 ジャスティスの目覚め!
私は異世界に転生している。
なんで異世界だと分かるかって、明らかにオーバーテクノロジーだからだ。この世界の根幹を成すものが。
それをアイロボという。
「サヤカちゃん、バラシといたよー!」
「ありがとう、ハートちゃん」
小さい身体で器用にカッターを使っていたハートちゃんは、今度は店棚にひょいひょいと商品を並べだした。妖精みたいに小さくてかわいいこの子は、ロボットだ。このロボット達は自分達の意思で動いたり飛んだり、お話をしたりする。
サヤカちゃんと呼ばれたのは私である。前世では理工学部を卒業した社会人で、気が付いたらこの日本に限りなく近い世界に生まれ変わっていた。
ただいま小学五年生。
パパのお店のお手伝いをしている。
ハートちゃんに話を戻そう。日本に限りなく近いといったのは、彼女達の存在があるからに他ならない。ハートちゃんはアイロボと呼ばれる人工知能を詰め込んだ素敵なロボットだ。
だけどアイロボは子供のおもちゃでもある。
私も段ボールから商品を取り出して、棚に並べた。だが手に取った一つがレアリティ違いのカスタムパーツだったためにゆるりと頭を上げる。
これはアイロボの右腕パーツだ。ちゃんと正しい位置に陳列出来た私は、もう一度作業に戻った。
アイロボはおもちゃだ。
どんなことをして遊べるおもちゃか。ただ単にお話をするだけでもいいし、バトルをしてもいい。自分で好きなようにアイロボをカスタマイズして遊ぶおもちゃなのだ。
「ん、あれ? 何だかお店の前が騒がしくない?」
「ホントだ、何かあったかな。ちょっと様子を見てくるね」
何やら大声が聞こえた。パパのお店はアイロボを専門に扱うおもちゃ屋さんなので、子供がよく来るのだ。聞こえてきた声も何やら子供同士の物のよう。私はハートちゃんに一言言ってから店を出た。
案の定店のほど近くで、子供が数人揉め事を起こしていた。
「へ〜んだお前アイロボも持ってねぇのかよ! カスタムパーツだけ持ってても意味ねぇんだぞ!」
「そーだそーだ!」
揉め事というより、イジメっぽさそうだな。というか見たことある。同じ小学校に通うフトシくんとナオトくんだ。フトシくんはいわゆるガキ大将。ナオトくんはその腰巾着だ。
二人の前には尻もちをついた小柄な男の子が、しかしすぐに跳ね起きてフトシくんに食ってかかる。
「アイロボくらい持ってるっていってるだろ!」
「動かないアイロボなら持ってないと同じだろうがよ!」
フトシくんがもう一回ガツンとやりそうだったのを見兼ねて、私は間に入った。急に出てきた私に流石のイジメっ子達も怯んだようだ。
「何をやってるの?」
「さ、サヤカちゃん……い、いや、なんも? 行こうぜナオト」
すごすごと立ち去っていく二人を見送ってから、私は庇った男の子に目をやった。
「大丈夫だった?」
「う、うん……」
その手には彼のアイロボが沈黙したまま握られていた。
この世界においてアイロボはおもちゃでありながら、社会に当然と受け入れられている存在でもあった。社会現象でもない。既にあって当たり前のものだ。
私のパパが脱サラしてお店を持ったのも、流行り物だからではない。昔からずっと好きなもので働きたかったからだ。
そんな世界観で、動かないアイロボを持っているというのがどんなに目立つことか。わたしはイジメられていた男の子を連れて店に戻った。仕分け作業続けていたハートちゃんが不思議そうな顔でこちらに飛んできた。
「お客様?」
「んー、似たようなもの、かな? とにかくこちらにどうぞ」
「お、お邪魔します……」
開店前のお店には私達以外には誰もいない。私は作業場に男の子を誘導して彼からアイロボを預かった。
動かないアイロボを大事に抱え込む彼が、何だか放っておけなかったのだ。前世からの杵柄、機械修理は得意だ。そうでなくてもこういう店の娘だからそれなりに詳しい。自信があった。
「随分昔の機体だね」
というか廃版だ。ここまで古いとバッテリーの劣化がありそうだ。電圧を見てみよう。……うーんやっぱり放電しきってるなぁ。交換しないと。そもそも充電用のプラグも古いな。私の前世で例えるならMicroUSBみたいだ。そんな規格今時使わないってくらい古い。換装させとこう。
大切に扱っていたのは確かなのだろう。コンデンサー等に問題は無かった。無水エタノールで清掃して、組み直す。多分中身のOSも古いだろう。けどこっちはデータを取り出す必要があるから本人を起こしてからじゃないとね。
「カスタムパーツ一つ足りないけど、どうしたの?」
「あ、それ失くしちゃって」
そっか。まあカスタムパーツは付け替えが簡単なだけあって勝手に外れることもままある。店の左腕パーツを代わりにつけてあげた。それで気付いたけど他のカスタムパーツ、相当レアリティが高い。
アイロボって好きにカスタマイズ出来るだけあって、各パーツにはレアリティが設定されている。基本的にレアリティが高ければバトルに有利だ。
私がたった今つけてあげたカスタムパーツは他のパーツの色に似せただけの一個数百円のNレアパーツだけど。この構成の中ではかなり場違いだ。それほど他が高レア、かつ。
……やっばり、この頭部のカスタムパーツ。レジェンダリーパーツだよね。最高レアのSSRパーツだ。なんだこのアイロボ。
作業の手を止めてしげしげと眺めていると、持ち主の男の子から控えめに声がかかった。ハッとして姿勢を戻した。
「うん、これで充電がある程度貯まれば動くはずだよ」
「ホント!? すごい!!」
喜んだ男の子だが、すぐにへにょっと眉を垂らした。
「あの、その、お金とか……」
「そうだね。バッテリー交換と部品換装と、クリーニングだから大体五万円くらいかかるけど」
「五万!? は、払えないです!」
だよね。
まだ私もプロなわけじゃないし、そもそもそこまで説明して連れてきたわけじゃないからお金を取るつもりはない。パパにはイジメられていた子を助けたといえば、そこまで厳しく言われないだろう。
今後はうちをご贔屓に、と戯けてみたが、あまり納得していないようだ。律儀な良い子だな。だけどあまり深掘りさせたくなくて、話題を変える。
「ところでこのアイロボ、本当にキミのなの?」
「うん。でも元々はとーさんので、譲って貰ったんだ。ジャスティスって言うんだぜ」
ジャスティス。確かに強そうな名前だ。アクセントで入っている赤色もかっこいい。感心していると、隣にいたハートちゃんがちょいちょいと突いてきた。
「サヤカちゃん、ジャスティスって元チャンピオンのハヤテさんのアイロボだよ」
えっ。
「そうそうそれそれ。オレのとーさんハヤテって言うんだ。今は武者修行に行ってて何年も帰ってきてないけど」
わっ!
この現代風日本で武者修行?
「そ、そう言えばお互い名乗ってなかったね。私はサヤカ。この子は私のアイロボのハートちゃんだよ」
「あ、ごめん。オレはカケル! さっきも言ったけどこいつはオレのアイロボのジャスティス!」
わあ〜!
すっごーい! アニメっぽーい!!
前からアイロボとかいうオーバーテクノロジー、一体何なのだろうと思っていた。子供のおもちゃと言う割には高性能で、ほとんどの子供が持っているからだ。ハートちゃんなんて店のお手伝いまでしてくれるほど。ここがどういう世界なのか知ってからずっと「ひょっとしてマンガかアニメの世界なんじゃないかな」と疑っていた。
でも遂にここで、種明かしをされた気がした。
だってチャンピオンのお父さんから譲られたアイロボを持つ少年だよ。
しかもそのアイロボがジャスティスで、少年の名前はカケルくんだよ。
これってもう、アニメじゃん!
見たことないけど、見たことあるよ! こういうアニメ!!
ここってホビー販促用アニメだったんだ!!
じゃあじゃあ今って第一話とかってことかな。さしずめ「ジャスティスの目覚め」って感じかな。
「違う。俺はハヤテのジャスティスだ」
わぁ。
声につられて充電台を見ると、ようやく起動したアイロボが動き出すところだった。動きにくそうということもない。ただ戸惑うように周囲を見回していた。
「ハヤテはどこだ?」
おや?
「とーさんは何年も旅に出て帰って来てないよ」
「ハヤテが俺を置いて……? そんなハズは」
おやおや?
「とーさんはオレにジャスティスを託して行ったんだよ」
「ますますおかしい! 俺があってのハヤテ、ハヤテあっての俺だぞ!」
ヒートアップしてきたジャスティスを止めるために身を乗り出す。まさか第一話から主人公コンビ解散の危機とは思わないじゃん。ここは取り持ってあげないと。
「ハヤテさんが近くにいないことは間違いないし、いないことを責められても困っちゃうよ。電源が落ちる直前、何があったの?」
ジャスティスは自分のメモリを辿るように沈黙すると、やはり奇妙に顔を顰めた。普通の別れ方では無かったらしい。
「記録がない。……ただ、一言。すまない、と」
思わずカケルくんと顔を見合わせてしまう。何だかとっても意味深な言葉を残して旅に出たんだな、チャンピオン・ハヤテは。
その一方で私はにやける顔を抑えてもいた。主人公の相棒機に記憶の欠損があるとか、ますますそれっぽい。
きっと欠けた記憶にはこれから立ち向かうことになる悪役の記憶があるんだ。その記憶を元に地球を救うことになるんじゃなかろうか。こういうホビー販促用アニメって地球ピンチに成りがちだし。




