夢に守られて
「あ、神原君。こっちはもう上がったが、君らも入ってきたらどうかな?」
うちに合流した、生き残りの自衛隊員を率いて作業をしている神原君に声をかける。内閣府が潰れて以降は彼らもこの製作所の預かりだ。
「後にします。いや実はついさっき、別働隊の方から通信が来たんですよ」
「本当か!」
別働隊は首都圏の様子を見るために神原君が編成したチーム。生き残ったのがうちだけというのも考えづらいし、他に生き残りの集まりがないか調査する役回りだ。
「今どの辺にいるって?」
「新丹那越えに苦労してるみたいですね。中で瓦礫が詰まってるみたいで」
「丹那の方もダメか?」
「もっと手前でダメになってるらしいですよ」
「連中機材多いから、なるたけ線路沿いを通りたいって話だったもんな」
聞くところによれば、どっかの車両基地から拝借したトロッコを魔改造して利用しているらしい。可変式でどんなレールの規格にも合う変態技術の車輪付き。換装すればオフロードも行けるとか。
ウッキウキでうちの社員が魔改造を手伝っていたらしいが、後で鉄道会社に怒られないのか心配だ。あんな趣味の領域に片足突っ込んだ可変機構、客車を扱う上での安全性とは対局に位置するものなんだが。
ま、こんな時代じゃ気にするだけ無駄か。どうにも昔の感覚が抜けなくて困るな。
「…………ちなみに、道中で生き残りを見つけたという話は?」
「ないようです。まあ彼らも寄り道をする余裕はありませんし、本当に残っていない証明にはなりませんが」
「そりゃあそうだよな。まず都内がどうかを確かめるのが目的だからな」
まだインターネットが生きてた頃に得た手がかりから、生き残りの人類が東京を含め、様々な地域で地下に生活圏を築こうとしていたことはわかっている。地下鉄の駅だったり地下街だったり。
とはいえこれも数年前の情報。あの宇宙怪獣どもが世界中のサーバーなりなんなりをかなり荒らし回ってくれたせいで、市外の状況は一切わからなくなってしまった。
自前で通信設備を整えるのにどれだけ苦労したことか……
「しかし地下シェルターってのもベタだよな」
「怪獣なんて不条理に対応する上で参考になるのなんて、漫画アニメぐらいしかありませんよ。リアル路線の特撮じゃ言われることですが、普通こんな事態を我々公僕が大真面目に想定する筈ないですからね」
「大真面目に巨大ロボット作ってた俺らですら想定外だよ」
結果論かもしれないが、漫画アニメを参考に対抗策練ってこうして生き残っているわけだからクリエイターの方々には頭が上がらない。まさかこんな形で日本のサブカルチャーに感謝する日が来ようとは。
「おやっさんも孫が上京してたはずだし、はやいとこ現状を知らせてやりたいな」
おやっさんに限らず、子供が県外で就職して家庭を持った方や、逆に進学のためにから親元を離れてきた子だったり、いろいろな避難民がここにいる。
安否のわからない友人知人への不安から、夜も満足に眠れない避難民を多く見てきた。
「全滅も考えられるんですから、あまり期待しないことです。脅威は怪獣だけではありませんし」
かつての震災が思い出される意見だ。災害関連死で亡くなった人間はうちにもいた。余所ともなると……あまり考えたくはないな。
この世界唯一の巨大ロボット、グランセイヴァーという白兵戦の手段があったからこそ人的被害だけでなくインフラへの損害も抑えることができているうちとでは状況が違いすぎている。たとえ怪獣から逃げ延びたとしても生き抜く術が残っているかどうか。
やめだやめ、こんなネガティブ思考に舵切っていられる身分じゃない。
「それで、突破は可能なのか?こっちから援軍を寄越したりは」
「必要ありませんね。この程度の問題を解決できないような柔な鍛え方はしていません。どうやら裾野で爆薬を拝借してくる予定のようです」
「ふるさと納税のアレか?専門外だが、あれ演出用だろ?大丈夫なのか」
「そこは賭けみたいなものです。検証するだけの物資と時間の余裕はないでしょう?」
「違いない。しかし、平和なうちにやっとくんだったな。ナパーム爆破」
ようやく市外に目を向けられるところまで生活基盤を安定させられたのだ。彼らには首都圏探索を頑張ってもらいたい。




