客人の思惑
マキョウはラルフだけでなくシドとライトの表情も探る。
シドの方は何のことだ?という表情を浮かべており演技をしている様子は無い。しかし、ライトの表情が先ほどより硬くなっている様に見受けられた。
(ふむふむ……これはもしかするかもしれませんか……もう少し突いてみますか?)
マキョウはそう考えるが、あの地下施設にその様な生産能力が有ったと確定する情報を漏らすとも思えない。
これ以上警戒されて本題に入る前に追い出される事は避けたい。
(……まあ、調査を続ける価値あり、と言う判断に留めましょう)
地下施設への追及を止め、本題に入るかと意識を変えるマキョウ。
「それは夢のある想像ですね」
目の前にいるラルフが声を上げる。意識を自分に集中させるように……
「ええ、そうだったら良いなと思っていたのです。そうすれば東部の食糧事情も改善するでしょうから」
はははと笑いながらラルフに合わせる。
今回この教会に足を運んだのはミランダたちが生産している薬草の取引だけでは無い。スラムバレットに直接確認しなければならない事が有った為だ。
「あなた方はミリタリービル遺跡の攻略にも力を貸したのでしょう?素晴らしい戦績です。この勢いに乗って最前線へ向かうおつもりなのですか?」
この情報は喜多野マテリアルがミリタリービルの完全攻略を宣言した時に公開している。特に秘密にする様な情報では無い。
(さて、どう反応するか……?)
「今の所その予定はありません。もうしばらく滞在してダゴラ都市の方へ戻る予定なのです」
こちらへの受け答えは全てラルフが行ってくる。
まるで2人に話させたくないかのように。
「そうなのですか?てっきり最前線へ躍り出るつもりなのかと……いやはや、読み違えましたか……」
私は頭をポリポリと書きながらバツの悪い表情を浮かべる。
「もしそうなら弊社でも十分なサポートを行えると考えていたのですがね……」
そう言ってシドとライトの表情を窺うが特に何も反応が無い。
企業がスポンサーとしてワーカーに付く。このメリットが理解できていないと言う訳では無さそうだ。ならば、彼らのバックに喜多野マテリアルがついていると考えるのが普通だろう。
(ここは確定させる必要がありますね)
さて、どうやって引き出すか?と考えていると、意外にも早く答えが提示された。
「光栄な話なんでしょうけど……俺達、喜多野マテリアルにお世話になってるんで……」
リーダーであるシドからそう言われる。
彼の表情にこちらを謀る意図は透けてこない。だが、もう一声確証が欲しい。
「そうなのですか?ですが喜多野マテリアルと専属契約を行っている訳ではありませんよね?」
「まあ……そういう契約を結んだことは無いですけど。ゴンダバヤシ取締役には良くしてもらってます。今から乗り換えるとかは考えられないですね」
「そうですか?ワーカーにとって回復薬は必須品ですし、弊社のサポートを受ければ非常に品質の良い物が格安で提供できるのですが……」
「いえ、大丈夫です」
此方の提案を断る少年の眼は真っすぐこちらを見据えていた。
<シド……あまり突っ込んだ話をしないでもらいたいんですが?>
<おっちゃんに世話になってるのは本当だろ?あのチケットも貰ったんだしさ>
<相手の考えが不明の段階で情報を渡すのは危険なんですよ>
ラルフとシドは念話でやり取りを行う。
ラルフはマキョウの狙いが読めず過度に警戒心を掻き立てていた。しかし、シドはそこまで危険視はしていなかった。
<このマキョウって人は俺達を引っかけるつもりは無いよ。何か隠してる様な気配はするけど>
<その隠している事が重要かもしれないでしょ!!>
<まあまあ、ラルフさん。シドさんの動物的直観を信じましょうよ>
ライトに動物と言われたことに若干のイラつきを感じたシドだったが、マキョウとの会話を続けた。
「俺達は喜多野マテリアルとの付き合い方を変えるつもりはありません」
真っすぐマキョウの眼を見て宣言した。
「……なるほど。勧誘は難しそうですね」
マキョウは残念そうに視線を落とす。
「すみません」
シドは頭を下げて提案を断った事に謝罪を行った。
シドの言葉を受け、視線を下げていたマキョウは顔を上げる。
「いえいえ、ここまでハッキリ断られると諦めも付きます……それに、少しホッとしている所もあるのですよ」
「ん?」
マキョウの言葉にシドは首を傾げる。
提案を断られてホッとするとはどういうことなのだろうか?
「いえね……貴方方がティアーズに取り込まれる訳には行かなかったのです」
苦笑いの様な表情を浮かべるマキョウだったが、その表情が一番胡散臭く見えたシド。
「……それはどういう事ですか?」
マキョウに聞き返すが、脳内ではライトやラルフと念話で高速のやり取りを行う。
<なあ、ティアーズって何?>
<ミッドガル企業連合の一角です。花京院グループを傘下に収めているヴァンダールのライバル企業と言っても過言ではありません>
<トウサカ都市の直ぐ東側がティアーズの管理エリアのはずだよ>
<俺達がティアーズに取り込まれるってのは?>
<それは……わかりません>
<向こうもボク達に接触しようとしてるって事かな?>
<その辺りはこの男が知っているかも知れません。話を聞いてみましょう>
時間圧縮を使ってほんの数秒でやり取りを行ったスラムバレットのメンバー。そのやり取りに気付くことも無くマキョウが返答を行う。
「今、我々ヴァンダール陣営はティアーズとの交戦一歩手前まで来ています……いえ、もはや交戦状態にあると言っていい」
先ほどまでのにこやかな営業マンとしての顔を捨て、鋭い切れ味を持つ刃物のような空気がマキョウから流れてくる。
「……みなさんはカナエ都市という都市をご存じですか?」
マキョウはミスカ達が目的地としていた都市の名前を口にする。
「はい、知っています。この都市に来る前の目的地でしたから」
「……そうですか。ならこの都市に目的地を変更したのは幸運でしたね……カナエ都市はテロによって壊滅しました」
カナエ都市がモンスターの襲撃によって壊滅している事はキクチからの情報で知らされていた。しかし、テロによってという部分が聞き逃せない情報である。
「……それは……」
「不確定な情報ではあります。集められた断片的な情報では中央崇拝者の犯行を匂わせる物が多い……ですが、それらは作られた証拠であるとヴァンダールの諜報部は見ていると連絡がありました」
カナエ都市の崩壊は人為的であるとヴァンダール側は見ているらしい……それも、中央崇拝者の仕業であると偽造した情報が流されていると。
「そしてティアーズの傘下である企業が不自然な速さで防衛線を構築し、かなりの戦力を投じているという情報も入ってきています。その中にはティアーズ製の兵器も多く投入されており、通例の動きとの相違点が多い………ハッキリ言って、私はティアーズが攻撃を仕掛けて来ていると判断しています」
「「「………」」」
思わぬ方向に話が転がり、何を言っていいか分からなくなるスラムバレット一行。
同じ話を聞いているミランダ、ミスカ、ガンスはポッカーンである。
辛うじて再起動したラルフがマキョウへと聞く。
「……なぜ、その話を我々に?」
「貴方方が喜多野マテリアルと関わりが深いと考えたからです。万が一に貴方方がティアーズに取り込まれた場合、脅威……となるかまでは判断できませんが……いえ…喜多野マテリアルとのパイプは1本でも残しておきたかった……と言うのが本音です」
マキョウの中でも状況の整理が難しかったのだろう。しかし、親会社の管理エリアが攻撃を受け、その対処に後手に回っているという危機感からの行動なのかもしれない。
「ヴァンダールがティアーズの攻撃に屈するとは思いません。しかし、ティアーズは喜多野マテリアルのエリアにも手を伸ばしているという情報もあります。このトウサカ都市とバハラタ都市方面に……私的な予測ですが、狙いはエルドー山脈を自分達の管理エリアに取り込むことかと……」
あの山脈は喜多野マテリアルとミッドドガル企業連合のエリアを別つ壁でもある。その為、手を付ける事は暗黙で禁止事項となっていたのだが、その山脈そのものを取り込もうとしているとマキョウは見ている様だ。
「それに、最近喜多野マテリアルはミリタリービルをも支配下に置いたのだとか……大きな変化がある時、その組織には隙が生じます。それを突いて全て自陣に取り込もうとしているのかも知れません」
次々に聞きたくない情報がマキョウから齎され、ラルフは天を仰ぎたくなる。
(ああ、キクチ……できれば全て貴方に任せたい……)
とは言えラルフが居るのはトウサカ都市。こちらはお前の領分である。
「私がティアーズにバレないよう情報をリークしても喜多野マテリアル上層部に届くには時間が掛かります。貴方方なら直接のラインを持っているでしょう?」
「……それは否定しませんが……何が目的です?」
「喜多野マテリアルとヴァンダールとの挟撃です。喜多野マテリアルが動けばティアーズを挟み込むことが出来る………当然、私にヴァンダールに直接直訴する様な力はありません。しかし、この状況は自然にその体勢を整えることが出来る好機でした。動かない理由が無い」
マキョウの考えた作戦は非常に危険なものだった。
都合よくティアーズを攻略出来たとしても、喜多野マテリアルが止まる理由にはならない。ティアーズの管理エリアを攻略した後、そのままミッドガル企業連合の管理エリアへ雪崩れ込む事も考えられる。
軍隊とは動き出すと止めることが非常に難しい。
その事はマキョウは理解している。
この考えが非常に危険な可能性を多分に含んでいることくらい……。
それでもティアーズに好き勝手される事だけは避けたかったのだろう。
「これは私の独断ですがね。ヴァンダールどころかリザレクションズ本社にも許可は取っていません」
急に柔らかい表情を浮かべて笑うマキョウ。
「……もし喜多野マテリアルが止まらず、ミッドガルの管理エリアへ進出した場合……貴方は責任を取れるのですか?」
「いいえ?そうなった場合、バレれば間違いなく治験行でしょう。良くて処刑ですね……ですが、その可能性は低いと考えていますよ」
「それは……なぜです?」
「ティアーズの管理エリア全てを飲み込んでも管理しきれないでしょう?」
マキョウは喜多野マテリアルの管理能力の限界を見据えていた様だ。
「喜多野マテリアルはここ最近大きな問題を多数抱えていますよね?ダゴラ都市周辺の遺跡の難易度上昇。ミナギ都市の再建。ミリタリービル遺跡の完全攻略とその後の管理……それに、件の地下施設。これらを処理しながらティアーズの管理エリアを飲み込んで、その先に手を伸ばす余裕があるとは思えないのですが?」
マキョウの言葉にラルフは確かに、と言う言葉を飲み込んだ。
今ですらダルニア都市の扱いにも頭を抱えている。この状況で管理エリアの拡大というのは6大企業と言えどもキャパオーバーなのでは無いだろうか?
「どう思われます?ラルフさん」
マキョウにそう言葉を投げられるラルフだったが、この場で答えられる問いでは無い。
しかし、向こうは百戦錬磨の営業マンだ。こちらの心境を正確に抜き取られる。
「………私の読みは外れていないようですね」
笑顔を見せてそう言うマキョウ。
「どうでしょう?私は喜多野マテリアルの戦力と管理能力の限界を知りませんので…」
ラルフはポーカーフェイスを維持しようとする。
だが、それが出来ているかどうかラルフ自身にも分からなかった。
「そうなのでしょうね。ですが、この話は早急に報告されるのでしょう?」
「……ええ、まあ……」
「それは良かった。最前線を支えるはずのミッドガルが、この様な内ゲバで崩壊する訳には行きませんからね。喜多野マテリアルには腐った半身を削り取る事に協力してもらいたいのですよ」
「腐った半身ですか……随分強い言葉ですね」
「ヴァンダールでは共通認識なのですがね。人の死に無関心過ぎる企業など東方では害悪以外の何物でもありません。特に、屍の上に栄華の旗を立てようなどと考える輩等は……」
そういったマキョウの表情が僅かに歪んだ。
それは彼が見せた僅かな本心の様に見受けられる。
彼は彼なりに地獄を見て来たのかもしれない。
旧文明の汚染が激しい東方地域で治療に携わる分野で働いてきたのだ。死に触れる機会はこの場の誰よりも多かったに違いない。
「……私の方から報告はしておきます。ですが、あの企業が動くかどうかは我々には分かりません」
「ええ、それで十分です。薬の原料と合わせて十分な成果ですよ」
ニコリと笑うマキョウ。
そこにブツとやらを取に行っていたエミリーがケースを抱えて戻ってくる。
「お待たせしました。ダークマッシュルームとエンジェルセージです」
どう聞いてもヤバイ効能を持っていそうなキノコと葉っぱの名前を言いながらケースをマキョウに渡すエミリー。
差し出されたケースを受け取りながら笑顔でお礼を言うマキョウ。
「ありがとうございます。我々の企業でも栽培を試しているのですが……なかなか上手くいかなくて」
「難しいですよね……日光には絶対に当てないでくださいね」
「ええ、承知しておりますよ……さて、目的の商品も受け取れましたし、私はこれでお暇させて頂きます。ミランダさん、それにスラムバレットの皆さま。本日はありがとうございました。またお会いできましたら、その時はよろしくお願いします」
そういい頭を下げて部屋を出て行くマキョウ。
先ほどまでこの部屋を覆っていた重たい空気が一気に霧散していく。
その変わりようについて行けなかった一行は何とも言えない表情を浮かべながらマキョウを見送る事しかできなかった。
「……あんた等……こんなひなびた孤児院でなんちゅう話をしてくれてんだい……?」




