旧文明の食事
正規登録されたライフカードが使用できるかどうかを確認する為、コントロールセンター内のフードコートへ近づいていく。
窓口の1つの前に立つと、ホログラムが表示されライフカードの提示を求められた。
好奇心に取り付かれたシドが代表してカードを取り出し、ホログラムに重ね合わせる。すると、ホログラムが変化し商品の一覧とシドの残高が表示された。
シドの視界にはイデアが翻訳した現代文字に変換されており、その他のメンバーは普通に古代語を読むことが出来るだけの教養を有している為注文には問題ない。
数種類の料理や飲み物に関しては無料で提供される様で、下の方に表示されている料理や飲み物に関しては追加料金が発生するらしい。
商品の画像も表示されており、追加料金が発生する料理の方が豪華仕様となっていた。
「う~む・・・・・高級合成肉のステーキセット・・・・良いな・・・・・・・・ドリンクは・・・・・・カッサガサムってなんだ?」
「知らない」
「あまり意味不明な物を頼まない方が良いと思いますよ・・・・・」
「・・・・・」
シドは高級合成肉のステーキセットと聞いたこともない名前のドリンクを注文する。追加料金は250クレジット。
これが高いのかどうかも判別がつかない。
暫く待っていると、窓口にマシンアームが料理の乗ったプレートを運んできてシドの前に置く。
「「「「・・・・・・・・・」」」」
プレートの上には、こんがりと焼き色が付き、濃厚な香りが立つソースがかけられた長方形の物体が1つ、緑色やオレンジ色といったカラフルなスティックが筒に刺さった状態の物が1つ、乳白色のペーストが1塊。
器に入った赤色のスープ。そして虹色に発光する謎のドリンクとナイフ・フォーク・スプーンが1セット載せられていた。
「・・・・いや詐欺だろ!さっきの画像こんなのじゃなかったじゃないか!」
「まー合成食糧みたいだしね・・・・」
画像では美味しそうな肉のステーキが表示されていたのに、出てきたものは謎の物体(匂いは美味しそう)。シドが不満を口にするのも分からなくはない。
「まー、せっかく注文したんだし、取り合えず食べてみたら?」
「・・・食うけどさ・・・・・・・・みんなは注文しないのか?」
プレートを受け取ったシドは、他のメンバーが注文せずに立っている様子に怪訝な表情を浮かべる。
「ボクは様子見」
「ライトに同じく」
「そもそも遺跡から出てきた物を食べようとは思わないわね・・・・・」
付き合いの悪いメンバーに不満げな表情を浮かべながらテーブルに向かうシド。
全員が同じテーブルに付き、シドはナイフとフォークを取り上げる。その様子をラルフが情報端末で撮影していた。
「なんで撮るんだ?」
「報告資料の一環です」
「・・・・・あ、そ」
シドは再度プレートに目を落とし、一番存在感のある茶色の塊にフォークを突き刺しナイフを入れてみる。
その感触は柔らかく、抵抗少なく容易に切ることが出来た。切断面からは肉汁?が流れ落ち、ソースと混ざって非常に美味しそうな匂いを上げている。
だが、見た目が食べ物に見えない。
スラム街で生活していた時に食べていた激安レーションと比べればいくらかましかもしれないが、最近食事事情が劇的に改善したシドは、本当に食べて大丈夫なのか?という当然の疑問が今更ながらに浮かんでくる。
数秒切り取った茶色の塊を睨む付けていると、
<安心してください。有毒であった場合でも直ぐに無害に分解します>
と頼もしすぎるイデアの言葉が頭の中に響いてきた。
<ありがとさん・・・・>
シドの中に食べ物を粗末にするという概念はない。
出された物は有難く完食する(ライトのカレー以外)
(大丈夫。未確認生物の肉も食ったんだ!)
シドはフォークに突き刺さった物体を口の中に放り込み、咀嚼する。
「・・・モグモグ・・・・ゴックン・・・・・・美味い・・・・・」
「・・・・ほんとに?」
美味いと言いながらも複雑そうな表情を浮かべたままのシドにライトが言葉を返す。シドはもう一切れ肉?を切り取り口に放りこうだ後に感想を述べる。
「・・・・・うん、何ていうのか・・・・牛と豚と鶏の良い所を寄せ集めて、肉と脂を最高のバランスで再構成したような感じ?・・・・なんだろう・・・・物凄く均一な味って言うのか・・・・・・人工感がハンパない・・・・」
本当に美味しいのか分からない感想を述べるシド。
次は虹色に発光しているドリンクに手を伸ばす。
「!!!」
1口含むと、シドは驚いた表情を見せて口に手を当てた。
「なになに?!どうしたの?!」
「・・・・ゴックン・・・・・・・・いや、スッゲーシュワシュワした」
「炭酸飲料ですか?」
ラルフは謎ドリンクに目を移すが、特に気泡などは立ち上っていない。
「いや・・・・舌に当たった所から揮発してる感じ・・・っていうのか?スルスルと喉の奥に入っていく・・・・・」
「それ飲んで大丈夫な物なの?」
「・・・・大丈夫だと思うけど。味もフルーツみたいな感じだし」
そこからシドはプレートの上の物をドンドン食べていく。
カラフルなスティックは野菜の触感と味が再現されており、それぞれに適した味付けもされていた。ペースト状の何かは芋類を潰したような食感で柑橘系の爽やかな香りも感じる。
真っ赤なスープは濃厚な味と旨味を称えており、ステーキにも負けない重厚感があった。
その重みも謎ドリンクを飲めばスルスルと胃の中へと消えて行ってしまう。
シドはムシャムシャと食べ続け、プレート上は奇麗に何もなくなった。
「うん・・・・美味かった。美味しいんだけど・・・・コレは料理じゃなくて科学実験の産物って感じ・・・・・」
「料理は科学の一種とも言えるわよ?」
「料理を突き詰めればこういう形に行きつくという一つの答えでしょうかね?」
「え~~・・・・・なんかヤだな・・・・」
自分で料理を行うシドには、コレを料理と言って欲しくないという漠然とした嫌悪感の様な物を感じていた。
「レーションの究極版みたいな感じ?」
「そんな感じ」
これは分子ガストロミーの極致なのだろうが、シドとしては飲食店に入って皿の上にレーションが出てくる状況は耐え難かった。
「それで?皆は食べないのか?」
様子見だと言っていたライトを筆頭にシドが食べてみたら?と勧めてみる。
「いや、ボクはいいよ」
「私も遠慮するわ」
「報告用の資料は1つで十分です。クレジットも正式に使用できることも分かりましたし」
だが、全員にすげなく断られる事になった。
「・・・そうですか・・・・この後どうする?中央のビルにまで行ってみるか?」
今はまだ昼を少し回った程度。時間としてはまだ余裕がある。
このまま中央ビルにまで行ってみるか?とシドは提案してみるが、ラルフがストップをかける。
「いえ、今日はもう戻りましょう。ライフカードと市民登録でお腹いっぱいです。報告もしなければなりませんし」
「そうね。1回目のアタックとしては十分すぎる成果だと思うわ。明日以降はちゃんとプランを立てて攻略に乗り出すべきだと思う」
大人組2人に止められてしまった。
シドとしては久しぶりの遺跡探索だ。もう少し深くまで潜ってみたいという思いは強い。
だが、メンバーからの提言は無視できない。
今日の所は大人しく車へ戻る事にする。
帰り道も危険らしい危険は発生しなかった。
稀に他のワーカーがハッキングに失敗したのか、遠くの方でアラームが鳴り響き、モンスターが駆けていくのを見かけたくらいである。
ワーカーは自己責任。
自分の失敗は自分で尻ぬぐいしてくれの精神で防壁の外まで戻ってくる。
「さて、シドもライトも今日の探索で得た成果は口外しないでください」
ラルフは周辺に人がいないことを確認し、パワードスーツのバイザーを外してから2人に釘を刺す。
「ん?」「成果ですか?」
2人は不思議そうな表情を浮かべてラルフに目を向ける。
そんな2人に頭痛のする頭を振り、声を潜めて話をつづけた。
「ライフカードの件です。手に入れたという報告もワーカーオフィスには入れず、直接キクチに報告します。当然市民権を手に入れたなどと他者には絶対に言わないでください」
ラルフのいう事はもっともである。
もし外部に情報が漏れた場合、このチームが他のワーカーや企業に狙われる可能性が大きく上昇することになる。
「ん~・・・・わかった。でも他の遺物はどうする?ライフカード以外に回収した奴」
シド達はライフカード以外にも遺物を回収している。
現にラルフやフィアのバックパックにもその成果は入っているのだ。ラルフはライフカードと市民登録の衝撃が強すぎでその事を忘れてしまっていた。
「・・・・・そうでした。それは普通にワーカーオフィスに提出しても問題ありません」
「だよな。遺物の事を忘れるとか・・・しっかりしてくれよ」
「そうですよ。ボク達の飯のタネなんですから」
「・・・・・・そうですね。申し訳ありません」
そういい、頭を下げるラルフ。
「ま、いいさ。車に戻って飯にしようぜ」
「さっき食べたのにまだ食べるの?」
「あれくらいで満腹になるわけないだろ?」
「まぁ、そうだよね」
シドとライトはさっさと車の方へと歩いていく。
下げていた頭を上げたラルフだったが、その肩にフィアが手を置いた。
「貴方は悪くないわよ。私も忘れてたから。彼らが異常なだけよ」
「・・・・・ありがとうございます。ですが、慣れないといけませんね・・・・・これからも続くでしょうから・・・・」
「・・・・・・・」
これからもこういう事が続くとラルフは予想する。
その予想は間違っていない。というよりも、まだライフカードと市民登録の件は終わってすらいないのだ。
「お互い頑張りましょう」
「・・・・・・・・・そうね・・・・・」




