正規登録・・・・出来てしまった
「受け付けはこちらで行います。ライフカードの提示を」
カウンターまでたどり着いた案内ボットは、視線の高さまでスーっと浮き上がるとその様にアナウンスしてくる。
全員が自分のライフカードを提示すると、カウンターの奥に女性の姿がホログラムで表示された。
「ようこそコントロールセンターへ。ご用件は市民登録と伺っていますが、それで間違いありませんか?」
「はい」
ホログラムにシドが代表して返答する。
「承知しました。こちらの機器の前に立ち、ライフカードを挿入してください」
ホログラムがそういうと、カウンターの一部が展開し全身スキャナーの様な機械に変形した。シドはその機器の前に立ち、目の前にあるスリットにライフカードを挿入する。
「スキャンを開始します」
装置から複数のレーザーが照射され、シドの体を隅々までスキャンしていく。数秒ほどでスキャンは終わった様でレーザーが消え、ライフカードがスリットから吐き出された。
「終了しました・・・・・・・・犯罪歴の確認・・・該当なし。軍用コーディネイトの痕跡を確認・・・・照合します・・・・・エラー。再度照合します・・・・・エラー。メインデータベースへのリンクが途切れており、所属組織の確認が取れません。申し訳ありませんが、権限レベルは軍属最低レベルのレベル5とさせて頂きます。データベースへのリンクが復旧次第、正規の権限へと更新いたします」
「あ、はい」
「カバナ州 ダルニア都市 市民No,5010002237 権限 レベル5 氏名 シド 我々は貴方の移住を歓迎します」
吐き出されたライフカードをシドが受け取ると、ライフカードは粒子の様に溶けシドの右手の中へと消えていった。
<イデア、すんなり登録できたけど・・・・どうなってんだ?>
<・・・わかりません。都市の決済機構が生きているのでしょうか?>
「登録できた?」
「出来たんだと思う・・・・」
「他の3名もご登録でよろしいですか?」
ホログラムが話しかけてくる。
「はい、次はボクをお願いします」
こうして、全員がダルニア都市への登録を行う事になった。
「4名の登録が完了いたしました。続きまして、市民の皆様に与えられる権利についてご説明させて頂きます。市民権を持つ皆様は、当都市から生命の安全保護・財産保護・公共機関の使用権利が与えられます。住居につきましては、都市外周部1から24区画に関しましては無料でご提供させていただいており、医療機関や飲食に関しましても都市が運営する施設に関しては無料となっております。
それ以外のサービスをご利用の場合は、クレジットを消費してご利用をお願いします」
「ええっと、そのクレジットってどうやって手に入れたらいいんですか?」
「クレジットは権限ランクに合わせて毎月自動で都市から一定額が給付されます。皆様のライフカードにも振り込まれていますので後ほどご確認ください。それ以外の入手方法は店舗や企業と労働契約を結び、対価として手に入れてください。なお、労働契約に対する報酬に関しては65%の税金が課せられます。これらは自動で天引きされますのでご了承ください」
「労働・・・働いて稼げってことか」
「コントロールセンターでは、市民の労働斡旋も行っております。お気軽にお尋ねください」
労働斡旋と言われても、滅んだ文明の遺跡で働き口があるとは思えない。
「一応聞いてみるか?」
「・・・情報収集として聞いてみては?」
シドはラルフに一応確認を取ってみる、ラルフもこの後の報告のタネにはなるかもと質問をしてみる事にした。
「今の所、仕事の案件はありますか?」
「検索します・・・・・・・・・・・・・・1件の応募がありました」
「あるのか・・・・・」
「中央スカイビル 管理AIからの公示です。ここ数十年、窃盗・器物破損・セキュリティサービスへの暴行案件の報告が相次いでおり、その対策として民間の戦闘能力の高い人物の雇用を要求されています。報酬は月17万クレジット。逮捕者人数によって追加報酬有り。報酬は税負担無し。装備の提供も都市から行われます。如何でしょうか?」
「・・・・・ちょっと考えます。ありがとうございました」
「承知しました。またのご利用をお待ちしております」
ホログラムは丁寧にお辞儀をし、シド達を見送る。
カウンターから少し離れた場所でシド達は顔を突き合わせる。
「さっきの話ってさ、ワーカー達の事だよな?窃盗とか器物破損って」
「そうでしょうね。管理AIはワーカーの迎撃のために人員を募集している・・・・と」
「普通、一般市民に暴力装置への就職を提示するかな?・・・・それに、住居も医療も飲食も無料って、贅沢しなかったら働かなくても生きていけるってことだよね?」
<おそらく質問を行ったのがシドだからでしょう。シドは軍人用コーディネイト処置を受けており、高い戦闘能力を保持していると判断されているはずです。ライトやラルフが同じ質問をすれば、0件と回答されていたかと・・・・ライトの言う通り、ただ生きていくだけにクレジットは必要ありません。しかし、人は生きるだけではなく、さらに質を向上させようとする生き物です。その為にはクレジットは必要で、給付される額では足りません。その為、就労率は高く、失業者は落伍者の烙印を押される事になったようですね>
<なるほどね、旧文明も厳しかったんだね・・・・>
<いつの時代も楽に生きていくことは難しいでしょう。誰しも、誰かから必要とされなければ存在しない者と扱われるモノです>
「・・・・・それで、クレジットってどうやって確認するのかしら?旧文明の暗号通貨のはずよ。もし使用できるなら確認だけでもやっておきたいわ」
「そうですね・・・手の中に入っていきましたよね?ライフカード」
ラルフは自分の右手を見つめる。
壊す心配がなくなったのは良いことだが、得体のしれないものが自分と一体化していることに気持ちの悪さを感じる。
「んー・・・・お、ライフカードを使いたいって考えたら出てくるみたいだぞ」
シドがそう言うと、彼の右手から粒子が立ち上り、カードを形取る。
シドがカードを手に取り、表裏を確認していると、市民情報が記載されていた場所の表示が変わっていく。
「・・・・これ、考えるだけで機能が使えるみたいだ・・・・・自分のクレジット残高が知りたいって考えたら表記が変わるみたいだぞ・・・俺は20万クレジットだって」
シドの言葉に、ライト、ラルフ、フィアもそれぞれカードを出し、クレジット残高を確認していく。
「・・・僕は12万」
「私は3万クレジットですね」
「私もラルフと同じね」
「結構違いありますね」
権限レベルのせいなのか、給付されたクレジット額に差が生じている。
「シドさんは軍属扱いだから結構高いね。僕は一般人レベルなのかな?」
「私は要するに外国人が初登録を行った程度のレベルなんでしょうかね・・・・」
「・・・・・・・・ねえ、シドが軍属扱いってどういうことなの?」
フィアがここでシドの扱いが軍属になっている事に突っ込んでくる。
「「「・・・・・・・・・」」」
シドが軍用強化ユニットを使用している事は秘密だ。いや、秘密だった。
しかし、1人だけ異様に高い権限レベル。それに、先ほどのホログラムとの会話で軍属であるという言葉も出てきていた。
「それに、ライトも私達よりレベルが高いのは何故?」
ライトも一般人用ではあるが強化ユニットを使用している。故にAIはライトを一般人レベルの権限を付与したのであろう。これもゴンダバヤシにも話してはいない内容であった(薄々気づいているが)。
「「「・・・・・・・・・」」」
どうするラルフ!!と2人はラルフに強い視線を投げかける。
2人に見つめられたラルフは目を泳がせながら言い訳を構築しようとするが、スパイであるフィアに生半可な説明が通用するわけがない。
「ええっと~・・・・・・・」
中々話し出そうとしないラルフ。
フィアはラルフの反応に彼はシド達の秘密を知っていると確信を持った。
「・・・・・まあいいわ。遺跡の中で話す内容ではないし。次の予定を決めましょうか」
「・・・・そうですね。一応、手に入れたクレジットで正規に買い物ができるか・・・の確認でしょうか?」
「店に行っても店員がいないなら買い物出来ないだろう?それならさ、さっきのカウンターみたいにAIが対応してくれる所なら可能性があると思うんだよな」
「・・・・それってどんなところ?」
シドは自分の右側をビシっと指差した。
「この都市が運営している施設。あそこってフードコートだよな?」
全員がシドの指さす先を見る。
そこには窓口が複数並んでおり、その前にはテーブルセットが置かれていた。
「・・・・飲食って・・・・遺跡の中で料理が提供されると思う?」
ライトが呆れたような表情を浮かべる。
「いや・・・ええっと・・・遺物が補給されるなら飯もって可能性があると思って・・・・」
そう言われればそうかもしれない。生きている遺跡なのだから可能性は0ではないだろう。
「でも、都市運営なら無料なんでしょ?クレジット、使えないよね?」
「・・・・・ほら・・・追加料金とかあるかも・・・」
なかなか苦しい考察である。
だが、シドはフードコートへ行きたいらしい。
「まあ、物は試しです。行ってみましょう」
こうして全員から賛成が得られ、シドはウキウキと窓口の方へと歩いていく。
その姿と見ながらラルフは話がそれてホッと息を吐き出した。しかし、
ラルフの肩にポンと手を置いたフィアは
「夜にお話ししましょうか。ラルフ」
魅力的な微笑みを称えそう言い放つ。
結局説明から逃げられなかったラルフは、ガックリと肩を落としてシド達の後に続くのであった。
そういえば、キクチは元気にしているだろうか?




