コントロールセンター 到着
周囲を包囲していたモンスター達が去り、鳴り響いていた警報が鳴りやむ。
戦闘音も聞こえなくなり辺りを静寂が包み込んだ。
「・・・・ふ~。何とかなったな」
「うん、抵抗しなければ問題ないみたいだね」
<自分たちが警報を鳴らしてしまえば問答無用で攻撃されます。それだけは注意して下さい>
<わかったよ>
シドとライトは壁際から離れ、手に持っていたライフカードをツールボックスの中へと仕舞いこむ。2人の様子に危険は去ったと判断したラルフも会話に参加してきた。
「生きた心地がしませんでしたよ。良くあの方法で戦闘を回避できると思いましたね」
しかめっ面で苦情を言ってくるラルフ。
「ああ・・・まあ、な」
言い淀むシドを見てラルフは先ほどの行動を示唆した存在を頭に浮かべた。
「ああ・・・・アレですか・・・・」
「そ」
ラルフはシドと一心同体になっているイデアが指示を出したのだと気づく。
<アレとは失礼ですね。ラルフの訓練強度を上げる必要性を感じます>
<仕方ないだろ。フィアが居る場所でイデアの話は出来ないんだから>
<そうだよ。嫌がらせは大人げないよ?>
アレと表現されはイデアはご立腹の様だ。
だが、腹が立っている人物はもう1人存在する。
「・・・説明」
「「ん?」」
「説明を要求するわ・・・・・」
未だ壁に背を預け、俯いているフィアである。
「何故あの状況で戦闘や逃走じゃなく機能するかどうかもあやふやなライフカードに頼ったの!」
顔を上げたフィアの表情は怒りと恐怖で歪んでいた。
彼女がこうなるのも当然であろう。シドとライトはイデアに対して高い信頼度を持っている。同じ時代に築かれた文明の遺物の事なのだからイデアの意見を採用するのは彼らからすれば当たり前かもしれない。
が、イデアの本体がシドの中にあるという事を知らないフィアからすれば暴挙以外の何物でもない。
「もしこのカードに有効性が無かったら包囲された状態から戦闘開始だったのよ?!」
彼女の発言は一般的なワーカーなら全うな反応だろう。
未知の技術で作られ、今しがた登録したばかりの身分証。しかも仮登録状態である。そんなものに命を預ける選択をするのは間違っている判断だ。
彼女の気持ちが理解できるラルフは、彼女を落ち着かせようと口を開こうとする。
しかし、シドがそれを遮りフィアに言う。
「俺は大丈夫だと判断した」
「だから!!その根拠はなに?!」
「俺とライトの実力と装備。それとモンスターの耐久力と攻撃力を見てだ。戦闘になっても短時間で殲滅出来るし、あの状況からでも4人共無傷で終わらせる自信があったからだ」
「~~!!・・・・方法は?」
「ライトのシールド強度と操作技術なら一斉掃射されても10秒くらいは十分耐えられると思った。それだけの時間が有ればアレくらいの装甲しかもたないモンスターが21体、十分に殲滅出来る。コイツでSH弾2発とPN弾1発で破壊出来るし、この刀なら1振りで真っ二つに出来る」
シドはホルスターから引き抜いたS200を振りながらフィアに説明する。
「・・・・・ならなぜ最初から戦闘を選ばなかったの?」
「戦った場合、この都市・・・で違法行為を行ったと通信される可能性があるだろ?そうなったらせっかく登録したライフカードの仮登録も無効化されるかもしれないと思ったからな」
「・・・・・・・」
「だから、攻撃されない限りはこちらも手を出さない方が良いと思ったんだよ」
フィアはシドの言葉に顔をしかめて考え込む。
確かにシドの言い分は筋が通っている様に思える。しかし、あのタイミングでその選択を取るワーカーが何人いるだろうか。
スラムバレットは普通では無いとは思っていた。
しかし、これは異常だ。
東方に位置するこのミリタリービルでモンスターに囲まれ、それを10数秒以内に殲滅出来ると言い切る自信。
その攻撃を余裕を持って防げると言われたライト。
チラリとライトの顔を見るが、特に否定的な表情は浮かべていない。シドが言ったことをやり遂げる自身があるのだろう。
そして、自分が攻撃を防いでいる間にシドがモンスターを破壊し尽くすという信頼も。
「・・・・・・・」
ただのランク50のワーカーにならついていく自信はあった。だが、このチームに同行するのはあまりに危険なのではないか?とフィアの理性も本能も警鐘を鳴らしている。
「まあ、何もしなければ襲われないと分かったんですし、ここからは気楽に行けますよね。先に進みましょう」
「おう、そうだな」
2人はさっさと結論を出し、先へと進もうとしている。
フィアの頭は危険と分かっていても任務は続行しなければと足を動かそうとする。しかし、体は固まっており思ったように動いてくれない。
そこに、ラルフが声をかけてくる。
「大丈夫です、なんとかなりますよ」
ラルフの顔を見ると、そこには苦笑いが張り付いていた。
「今までも最悪な結果“だけ”は回避してきましたから」
荒事の経験も自分より遥かに下のはずのオフィス職員に励まされる現実。これほど屈辱な事はない。
フィアは一度思い切り奥歯をかみしめた後、深く息を吸い吐き出した。
「すーー・・・・ふ~~~~・・・・・・まったく、とんだ任務を与えられたものね・・・・」
「そうですね。私もそう思いますよ」
もう一度ラルフの顔を見ると、変わらず苦笑いを浮かべている。
「・・・もう大丈夫。行きましょう」
「はい」
フィアは固まっていた足を動かし、シドとライトを追いかける為に歩き出す。
「ここがそうか?」
シド達は中央に向かって歩いている途中にある大きなゲートにまでたどり着いく。それは不思議な材質で作られているゲートで、乳白色の壁の向こう側がうっすらと透けている。
「ううん、もっと奥だよ」
「もっと奥って・・・あのでっかいビルまでたどり着いちゃうんじゃないか?」
「そこまでは行かないよ。でも、このゲートを通った先だね」
このゲートは今まで多くのワーカー達を跳ね返してきたゲートだ。
この辺りは遺跡から監視されているらしく、情報収集機でハッキングしようとすると警報が鳴り、ゲートにある迎撃装置が作動。例に漏れず周りからあのモンスターがワラワラとやってくる。
そして、ゲートの奥からもさらに強力なモンスターが増援としてやってくるということらしい。
他のワーカー達が中央ビルにたどり着く場合、この遺跡にある地下通路を使用するらしいが、その情報は秘匿されており非常に高額で取引されている。
力づくでここを超えたワーカーは非常に少なく。例え超えたとしても奥からやってくる強力なモンスターに跳ね返されるか、その場で命を落としていた。
「んーー・・・・これかな?」
シドはゲートに取り付けられている端末に自分の情報を登録したライフカードを当ててみる。
すると、ピーという電子音が鳴り、通路を隔てていた壁の一部にシドが通れるサイズの隙間が開いた。
「・・・・・通ってみるぞ」
シドが底を通り抜けると、一瞬で隙間が閉じる。
「なるほど、1人1人認証を通さないとダメみたいだね・・・・・ラルフとフィアからどうぞ」
「私達からですか?」
「だって、ボク達が通れて2人がダメだったら完全に分断されちゃうでしょ?」
「私たちが通れないと思う根拠は?」
「権限レベル」
今こちら側にいる者たちの権限で一番高いレベルを有しているのはライトである。ラルフとフィアは共にレベル1。もし、ライトが通れてラルフとフィアが通れなかった場合、遺跡初体験のラルフをフィア1人で守らなければならなくなる。
ライフカードを持っている為モンスターに襲われる可能性は低いとはいえ、流石にそれは危険だとライトは判断した。
「・・・・・なるほどね。では私から行かせてもらうわ」
フィアは自分のライフカードを端末にかざす。すると、シドと同じように壁に隙間が開き通り抜ける事ができた。
「なるほど、権限レベルに関わらず市民権の仮登録さえしていれば通れる・・・と」
ラルフとライトもカードを使用し無事にゲートを潜り抜け、コントロールオフィスへと向かう4人であった。
そのまま何事もなく歩き続け、イデアがつけたポイントまでたどり着く。
「ここで良いんだよな?」
「うん、ここだね」
4人が見上げる建物は、新品の様に磨き上げられ大きな窓がついている。
他の建物よりも敷地面積は広く、重厚な趣であった。
「ワーカーオフィスに似てるか?」
「どうだろ?」
「役所として機能していたのなら、雰囲気が似ているのも分かりますね」
「・・・・それで?どうやって入るの?またライフカード?」
「どうだろ?端末らしいのは見当たらないけどな」
ライトが調べる為に閉じられた扉へと近づいていく。すると、扉上部のセンサーがライトに反応し自動で扉が開かれた。
「・・・・勝手に開いたね」
「自動扉か・・・・・」
シドとライトは警戒しながら建物の中へと入っていく。武器には手を掛けず、なるべく自然体を装いながらも神経は研ぎ澄ませ油断はしない。
4人が建物の中へと入ると扉が自動で閉まり、奥の方から丸い何かがこちらに向かって転がってくる。
<・・・イデア>
<案内ボットです。言語が異なる為私が言語データを送信しましょう・・・・通信を開始します>
その物体はコロコロとシド達の前までやってきて停止する。
イデアが通信しているのか、部分的に点滅を繰り返し、やがて点滅が止まる。
「ようこそダルニア都市 コントロールオフィスへ。本日はどの様なご用件でしょうか?」
その遺物は現代の言葉で話し始めた。
「ええ~・・・市民登録の本登録をお願いしたんだけど・・・・」
戸惑いながらも代表してシドが返答する。
「承りました。コチラへお越しください」
案内ボットとやらはそういうと、クルリと反転し、奥に見えるカウンターの方へと転がっていった。
「・・・・・・・とりあえず付いていこう」
4人は案内に従い、案内ボットについてく・・・




