ラルフとフィアは・・・
ラルフ・フィア視点
「体調はどうですか?」
ショーケースの開錠を行い、疲弊したフィアに声をかけラルフ。
「・・・だいぶマシになってきたわ」
「そうですか・・・・どうでした?ライトのシーカーとしての腕は」
「・・・・・・・・凄い・・・・の一言では表せられないくらいね。あの情報量をどうやって処理しているの?」
フィアが行った解除コードの入手も、普通のシーカーなら見ただけで諦めるレベルの作業だった。
ライトが行っていたセキュリティシステムの妨害ならもっと高難易度であったはず。それをたったシーカー歴2年足らずの少年が行って見せたのである。
(並列思考が出来るとかそういうレベルではないわね)
フィアはライトが隔世遺伝者である事に半ば確信を持つ。
そして、恐らくラルフもその事を知っているだろう。
という事は、ゴンダバヤシ取締役もその事には気づいているはずだ。しかし、社内にその情報の共有は行われていない。
(・・・・隔世遺伝者の独占・・・?でもワーカーとして活動させているなら彼がその恩恵を独占する事は出来ない・・・・・だったらなぜ?)
ゴンダバヤシはスラムバレットへの過度な引き抜き行為を警戒している。
シドとライトは企業に囲われる事は嫌がるであろうし、無理やり従わせようとするとヘソを曲げるであろう。
最悪他企業の領域へと逃げ込まれる可能性もある。
友好関係を結び、適度に情報のやり取りが出来るだけでも喜多野マテリアルには有益であると判断したまでだ。
(このことも専務に報告するべきね)
一度頭を振って余計な思考を遮り顔を上げる。
「彼の腕が一流を超えてることは認めるわ」
そういいながら立ち上がる。
ラルフの顔を見ると、ラルフはニヤリと笑いながら
「まだまだこんなものではないと思いますよ?」
と、面白そうに言葉を返す。
「そう、期待させてもらうわね」
フィアも笑みを返すと、ラルフはシド達の方へと歩いていく。
「何をしているんですか?」
ラルフがシドとライトに声をかけると、2人はビクッと肩を揺らしこちらを振り向いてくる。
その手にはそれぞれライフカードが握られていた。
その様子にラルフは目を細め、再度質問する。
「・・・・何をしているのです?」
再度そう問われた2人は少し視線をさ迷わせた後、何をやっていたのかを説明を行った。
話を聞き終わったラルフとフィアは、呆然とした表情を浮かべ今聞いた話を必死に頭の中で整理しようとする。
(旧文明の都市で市民登録???起動方法も解明されていないライフカードを使って????どうしてそんなことになるのよ???)
今まで誰にも解除できなかったライフカードが入ったショーケースを開けただけでなく、遺跡内での市民権を入手したというこの2人。
フィアが持つ常識というものが全く仕事をしていない。
(コイツ等!!ケースを開けただけで満足しなさいよ!!たった数分目を離しただけでどうしてこう・・・!!!!)
また自分の様な一職員だけでは判断できない案件を作り出したシドとライト。
今の表情を見ればマズイ事をやったという自覚はあるのだろう。だが、事の重大さというモノは全く理解していないに違いない。
「そもそも普通使いますか?!1枚数十億コールの遺物ですよ?!」
ラルフは我慢できずに大声を上げる。
「そうね。非常に繊細で、無理に接続しようとすると直ぐに破損すると聞いているわ。登録できるという確証はあったの?」
ラルフもフィアも信じられないといった表情で2人を見る。
「いや、確証があったわけでは無いですけど・・・・」
「使えるかもしれないってなったら使わないか?予備もあるし・・・・」
そういいながらシドとライトはショーケースの中に残っている3枚のライフカードに目を向ける。
「いや、予備って・・・・」
「物の価値というモノをしっかりと考えてから行動していただきたい!!」
普段は冷静であろうとするラルフの額に青筋が走る。
が、
「でもさ・・・」
「また手に入りますよね?」
2人のセリフに時が止まるラルフとフィア。
「は?」「え?」
理解不能だといった表情でシド達の顔を見つめる2人。だが、シドも不思議そうな顔を返し言葉をつづけた。
「だって、補充されるんだろ?ここの遺物」
「「・・・・・・」」
そうなのだ。
ミリタリービル外周部の遺物は一定期間が過ぎればまた補充される。
このライフカードも、今まで回収された実績がないだけで補充される可能性は高い。
「ライトとフィアが居れば取り放題って事だろ?」
「それにこの大きな都市でライフカードを扱っている店舗がここだけとは限りませんよね?身分証やサイフ代わりにされてたって話ですから。この遺跡を隈なく探索したら他にも扱ってる店舗が見つかると思うんですけど」
この2人の言い分は正しい。
確かにこの遺跡でライフカードを発見したという報告はワーカーオフィスに複数報告されている。
ただ、ショーケースを開け、中身を持ち帰った者がいなかっただけなのだ。
だが、常識外れの処理能力を持つライトと、喜多野マテリアル諜報員であるフィアのハッキング能力があれば無尽蔵に手に入れる事も可能になる。
今までのライフカードが持ち帰られた例としては、破壊された遺跡の地下室などに奇跡的に残っていた物が拾われた程度。
中には保存ケースに入っていたとはいえ、元が繊細な遺物の為全く機能しない物もあった。
しかし、今のこの状況は、稼働中の遺跡で新たに生産され、機能する事が保証されたライフカードを安全に手に入れる方法を発見したという事だ。
これは、ライフカードの価値の暴落と共に、ライトのシーカーとしての価値が爆上がりした事を意味した。
ラルフはいったん落ち着くため、深呼吸を行い2人に再度話を聞く。
「スーーーーー・・・フーーーーーーーー・・・・・・スーーーーーーー!・・・フゥーーーーーーーー!・・・・それで?2人は市民登録が出来た・・・・と?」
「・・・・ええっと・・・どうなんだ?ライト」
「正確にはまだです。この都市にあるコントロールオフィス?にいって手続きをしないと正式な市民とは認められないみたいです。今は仮登録みたいな状態ですね」
「仮登録・・・・その確証はある?」
フィアがそう聞いてくる。
「はい、調べましたから」
ライトとシドが登録を行っている際、繋ぎっぱなしにしていたコードを介し、イデアが端末内部を調査したらしい。
正式な市民として登録されるには、この都市の中層にあるコントロールオフィスに行き、正式な手続きを踏む必要があるとの事。しかし、この遺跡には既に決裁を行えるような権限を持った人物などいない。
この都市を運営しているであろうAIも、そこまでの権限を持っている可能性は低く、形だけの身分証になるのではないか?というのがイデアの予測であった。
「なら、まだライフカードの機能は完全に生かせないってことかしら?」
「そうですね。そもそも使い方自体の説明とか何もないですし・・・・」
フィアとラルフは顔を見合わせ、この情報をどう扱うかを考える。
「どうするの?ライフカードを生きた状態・・・・って言っていいのか分からないけど、あの状態で入手したワーカーは今まで存在しない。このままワーカーオフィスに持って帰ればその辺の企業が殺到するわよ?」
「・・・・ここまで来たら最後まで確認するべきかと・・・・結果は喜多野マテリアルに投げて判断を仰ぐのが最も混乱を招かない方法では?」
ラルフはこの案件を喜多野マテリアル、いや、キクチに放り投げる事に決めた。
「それはコントロールオフィスにまで行って正規登録が出来るかどうかまで確認するという事よね?」
「はい、中途半端にするのも良くないと判断します」
フィアは少し考え、ラルフの言葉に賛同する事に決めた。
「わかった。コントロールオフィスまで行ってみましょう。2人もそれでいい?」
フィアとラルフは2人に顔を向け確認を取る。
「わかった」「はい」
シドとライトにその提案を拒否する理由は無く、コントロールオフィスへと向かう事に決まる。
「それじゃあ、行きましょうか」
ラルフがそう言い、出口へと向かおうとするとシドが待ったをかけた。
「それならラルフとフィアも登録しとけば?」
と、シドがそう提案してくる。
「「え?」」
「後3枚あるし、ライフカード」
シドが指をさす先には、まだショーケースの中に収められた新品のライフカードが残されている。
「「・・・・・・・」」
フィアとラルフは高速で思考する。
(こんな貴重な研究資料を私が個人で使用する?あり得ない・・・・・これは持ち帰って技術部に引き渡す、これが正しい選択。このライフカードとライトの情報を持ち帰ればこの任務の成功水準は確実に超えるはず・・・・)
(いやいやいや・・・一枚数十億コールの価値を持つカードを使用する?!無理無理無理です!!そんな恐ろしい事出来る訳がない!!無くしたり壊したりしたら立ち直れませんって!!・・・・・でも、この異常な2人以外にも普通な私が登録できるかどうか検証をした方が・・・・?)
頭の中でいろいろ考えている2人の前で、シドは残された3枚のライフカードを手に取る。
1枚は自分のツールボックスに放り込み、残り2枚をフィアとラルフに差し出した。
「ほい」
随分と気軽に差し出されたライフカード。
それを前にし、随分長い間考え込んでいた2人はついに決断を下す。
そして
カバナ州 ダルニア都市 No,10785660091 ・・・・・権限 レベル1 氏名 ラルフ・ローレンス
カバナ州 ダルニア都市 No,10785660092 ・・・・・権限 レベル1 氏名 フィア・ハーバー
2人が手に持つライフカードには、その様に記載されていた。




