やってきました唐澤重工
バハラタ都市
無数の中級企業で構成された都市であり、その業種は多種多様だ。
兵器・防具・乗り物・調理器具や日用品の生産。数多くの部品・商品を製造し他都市へと出荷していく。中には他エリアへの輸出も行っており、喜多野マテリアルの管理エリアでも非常に重要度の高い都市であった。
工業都市さながらの様相だが、そうなった理由がこの都市のすぐ北側に多種の金属が出土する鉱山地帯があるからだ。
その鉱山地帯は長い山脈になっており、その付近には遺跡も存在しない。
辺りを徘徊するモンスターの数も少なく、掘削作業にはうってつけの場所であった。その利権は喜多野マテリアルが握っているが、直近のバハラタ都市には多くの資源が舞い込んでくるのである。
その為、この都市は多くの産業が発展してきたのである。
多くの働き口がある為、この都市には経済活動から弾かれる者が少なくスラム街は形成されていない。
この大陸の中でも稀有な都市と言えよう。
「綺麗な都市だね」
「そうだな。ミナギ都市みたいに入ってすぐはスラムだと思ってた」
シドとライトは車を走らせながら都市の感想を言い合う。
「この都市は色々な業種が集まっていますからね。仕事に就けない者は少ないんですよ」
ワーカーオフィスの職員であるラルフはこの都市の事も知っていた様だ。
「まずはワーカーオフィスに行きましょう。本来ワーカーは他都市に移動した場合、その都市のワーカーオフィスに所在登録を行う事が推奨されていますからね」
これはスラムバレットがミナギ都市に着いた時、真っ先にワーカーオフィスに来なかった事への苦言でもある。
「了解しました」
ラルフの言葉にライトが返し、視界に映るマップに表示されたワーカーオフィスを目指し車を走らせるのだった。
唐澤重工本社
「ほうほう・・・・スラムバレットの御2人がこの都市にやって来たと」
商品の補充にバハラタ都市に戻ってきていたシブサワは、部下からスラムバレットがこの都市に到着したとの報告を受ける。
彼は今、ダゴラ都市でのセールに全力で当たっていたのだが、ある発表があり、事前に持ってきていた商品だけでは足りなくなってしまったのであった。
その発表とは、スラムバレットの2人が中央崇拝者のアジトの1つを壊滅させた件と、ミナギ都市での活躍である。
特に、都市防衛隊の追撃を振り切り、喜多野マテリアルまで情報を届けた事が大々的に報道され、シドが装備している銃や防護服(速攻で壊したが)の発注が殺到。他の商品の問い合わせと、極一部のワーカーであるが荒野車の改造依頼等が相次ぎ、本社との打ち合わせも兼ねて高速艇にてバハラタ都市にまで帰って来ていたのだった。
「はい、つい先ほどの様です。如何しますか?」
「こちらから伺うのもいいですが・・・・・彼等も色々と用事もあるでしょうし、来社していただくのを待つのが良いでしょう」
シブサワとしても、あの2人には直接お礼を言いたい。
スラムバレットを広告塔として商品を売りさばき、会社の利益は鰻登りだ。そして、彼の評価も天井破りで上昇している。
「・・・・・・・開発部が暴走しませんか?」
「それはいつもの事です」
「いつもの事で終わらせないでください」
「分かっていますよ。私の方から釘は刺しておきます・・・が。いつまで我慢する事やら」
ただ、開発部の暴走だけが気がかりである。
本社に送られてきた旧文明のエネルギーガン。そして、今のスラムバレットは正体不明のオートマタを連れているとの情報も入手している。
この2つでも開発部に火が付くには十分すぎるが、シドやライトの卓越した能力でしか扱えないであろう装備品がこの本社には山の様に保管されている(売れなかった為)。
それらのテストプレイヤーとして無理難題を言わないかが非常に心配であった。
(・・・・・まあ、あの変態共もウチの広告塔に失礼な真似はしないでしょう・・・・)
信じきれない願望を胸に、シブサワはスラムバレットが来社した際のおもてなし準備を始めるのであった。
ワーカーオフィスで移動報告を終らせたスラムバレット一行。
オフィスが手配したチームハウスへと移動してた。
「お~!いい家だな!」
シドはチームハウスを見上げながら感想を言う。
「そうだね、部屋が4つ、リビングにお風呂、キッチン、その他もろもろ完備されてるって言ってたし」
最初はこの都市で宿を借りる予定であったが、チーム平均ランク50に達しているスラムバレットには、オフィスからチームハウスの提供を優先的に受けることが出来た。
扱いとしては借家であり、チームのホームと言う訳では無い。
しかし、格安で借りられるため、宿を取るよりも経済的である。遠方への遠征が多いチームやクランでは積極的に使用されているシステムである。
「荷物を置いたらどうしますか?」
ラルフがそう2人に聞いて来る。
「まずは飯だな。ずっと簡易食ばっかりだったからちゃんとした飯が食いたい」
ワーカー用に開発されている簡易食は高級品である。味、栄養、消化効率。全てにおいて高ランクにまとめられている。しかし、シドは普通の料理を好んでいる為、移動中に食べる食事に不満がたまっていたらしい。
「この辺りって飯屋もあるよな?」
シドは今までちゃんとした飲食店で食事を取ったことが無い。
ダゴラ・インの食堂や、地下シェルターでの振る舞い飯は堪能してきたが、飲食店で食事を取るという事に秘かにあこがれがあった。
「あるにはあるけど、ここは東方エリアに含まれるわ。質はあまり期待できないわよ」
端末でこの辺りの情報を調べたフィアがそうシドに教える。
「ん?なんで?」
「あなた達が活動していたダゴラ都市は、南部に位置していたでしょ?あそこはまだ西方に近いから生鮮食材が安価で手に入るのよ。でも、ここは東方に分類される地域。新鮮な食材はかなり高額になるわね。この辺りの一般的な飲食店だと、合成食材かプラント生産の食材になるから、美味しいか?と問われたら微妙なものになると思うわ」
フィアの説明を聞き、輝きを称えていたシドの眼から光が消える。
「美味しい物が食べたければ西方に行け、の言葉の逆よ。東方に行けば食事はだんだんと質が下がり、高額になって行くわね」
「・・・・・・・・とりあえず食ってみて考えるか・・・」
この後、近場の飲食店へ行き、シドは自炊する事に決めた。
次の日、シドとライトは当初の目的であった唐澤重工へとやって来た。
当然アポも取ってある。
シドは唐澤重工の営業マン、シブサワに連絡を入れ、今日本社に行くことを伝える。すると、都合よく彼もバハラタ都市に帰ってきており、対応してくれるとの事でやってきたのだ。
「・・・・随分都市の端っこだよな」
「そうだね。それも防壁に敷地がくっついてるよ?他の企業とかはもう少し離れてるのに」
唐澤重工の本社は、都市の防壁ギリギリに建設されていた。
そこに建てたというより、防壁から伸びた壁に囲まれているように見えてしまう。
「唐澤重工は昔から色々問題を起こしていたのよ。特に研究中の爆発事故や兵器の暴走事故ね。社外まで被害は拡大したことは無かったのだけれど、近隣住民や他企業からクレームが続出して、都市からの命令でこの場所に移転させられたらしいわ」
唐澤重工の本社が辺鄙な場所にある理由をフィアが説明する。
「まあ、土地代は安い上に敷地面積が大きく確保できると、経営陣から研究員までが喜んだと噂がありますけどね」
「・・・おまけに、この建物。全部唐澤重工が自分達で建てたって話」
ラルフもフィアも随分詳しい。
ワーカーオフィス職員のラルフと、長年シーカーとして企業と付き合って来たフィアならば知っていても可笑しくはないのだろう。
だが、見るのは初めてだったようで、感心したような呆れたような視線を唐澤重工 本社へと向けていた。
車を止め社屋に入ると、そこにはすでにシブサワが待っていた。
「スラムバレットの皆さま。ようこそおいで下さいました」
笑顔で迎えてくれたシブサワは、シド達に深く頭を下げる。
「お久しぶりです。まさかコッチに帰って来てるとは思いませんでした。ダゴラ都市での営業は大丈夫なんですか?」
「ええ、順調すぎて在庫が足りなくなったのです。ですので、増産の依頼と今後の販売計画を立てる為に一時的に戻って来たというわけですね」
彼はダゴラ都市のワーカー達にかなり装備を売りさばいているらしい。評価が両極端に分かれる唐澤重工の兵器を欠品が起きるほど売ってくるとは、彼はなかなかのやり手らしい。
「・・・・ところでシド様。DMD SV5はどうされました?」
シブサワはシドがミナギ都市で購入した防護服を着用していない事に不思議そうな表情を浮かべる。
「ああ・・・・あれ、ミナギ都市の戦闘で壊れちゃって・・・・」
「なんと・・・・あれは前作より防御力がかなり向上しているはず・・・・それほどの強敵と戦闘を?」
SV5は唐澤重工からみてもかなり高性能な防護服であり、それが短期間で破壊された事にシブサワは大きな驚きを見せる。
「ええっと・・・・敵はしつこかっただけで強かった訳じゃないんですけど・・・・・・」
自分が原因で壊したとは言い辛い。高圧電気を体内で生成できるという事もおおっぴらにいう事も戸惑われる。
「・・・・・初期不良でしょうか・・・・現物がありましたら直ぐに調査いたしますが」
「あ・・いや・・・・」
現物はもう無い。地下シェルターでセントラルに資源として提供してしまっていた。
<これ、どう言ったらいいかな?誤魔化しても納得しそうにないよな?>
<もう素直に壊したっていっちゃったら?>
<体内発電の事ばらすのか?>
<今更じゃない?>
<ゴンダバヤシやデンベには知られています。これからも全力戦闘を行う際に、度々防護服を破壊する訳には行きません。ちゃんと申告して対策を立ててもらうべきかと>
<・・・・・わかった>
「ええっとですね。俺が特殊な攻撃をしまして・・・・体内で発電した電気をフルパワーでぶつけたんです。そしたら防護服内の制御装置が焼けてしまったみたいで動かなくなりました・・・・」
シドはそう言うと、右手を上げて親指と人差し指の間に電気を発生させる。
指の間をバチバチを音を立てて走る電流を目にしたシブサワは大きく目を見開き、驚愕の表情で凝視した。
「・・・・・それは・・・・・なるほど、内部からの高圧電流が発生する事は想定していませんから・・・・」
少し考えるようなしぐさを見せるシブサワだったが、直ぐに顔を上げシドに向き直る。
「承知しました。防護服開発の担当者に連絡を入れておきましょう。それに、ここで立ち話もなんですからこちらへ・・「おお!!これはシドくんじゃないないですか!」」
シブサワが案内をしようとした時、誰かがシドの名前を呼んだ。
声がした方を見ると、ミナギ都市でオートマタに抱き着いていた研究者、ナギが立っていた。
「お久しぶりですね~、ようこそ唐澤重工へ!!」
そう笑顔で寄って来てシドの手を掴み上下に振る。相変わらず力が強い。
「ああ・・・・ナギさん、でしたっけ。お久しぶりです」
ナギのテンションの高さについて行けず、シドは引き気味に挨拶を返した。
「うむうむ!・・・・・・さて、挨拶も終わったところで本題なのですが。その後ろにいるオートマタについて聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
相変わらず興味のあること以外はどうでも良いようだ。ナギの視線はシドの後ろに浮いているイデアに釘付けだった。
ミナギ都市で正規登録を終らせたイデアは、シドと一緒であれば都市内でも活動が許可されている。この場に来る事も問題は無い。
「ああ、イデアの事ですか・・・・」
「イデアという名前なのですか。記憶しましたよ!・・・・ほら、シノミヤ君!彼らを応接室に」
「・・・・・シブサワです・・・・・はぁ・・・・・皆様、こちらにどうぞ」
未だに名前を憶えられていないシブサワは、その顔に渋い表情を浮かべながら4人を応接室へと案内するのであった。




