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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
222/238

道中・・・

バハラタ都市へ向かっていく車中。

スラムバレットの2人と、その随行員であるラルフは気楽に寛いでいる。時折現れるモンスターはライトが操る車装兵器で粉砕され、数が多いときはシドが車上へと上がり攻撃に参加する事で難なく突破していく。

ラルフに至っては戦闘が発生しても端末から目を離すことは無く、情報の閲覧と整理に忙しいらしい。


ミナギ都市から東に向かえば、未攻略の遺跡が増える。

当然モンスターとの遭遇率も上がり、危険な旅路となるものだ。ランク50以上のワーカー達も単独で移動する事は少なく、商隊の護衛等を受け、複数のチームで固まって移動するのがセオリーと言える。

その様な事はラルフも当然知っているが、スラムバレットの戦闘能力は実質最前線クラスなのだ。この辺りのモンスターに苦戦するなどとは考えていない。

6大企業の準イレギュラーと上級兵の護衛付きで移動していると考えれば、この態度も納得がいくというもの。


しかし、このチームと初めて行動を共にするフィアからすれば不安で仕方がない。

情報として知っている事と、実際に体験する事では全く安心度が違っていた。


(この辺りはモンスターの出現率も多いはず・・・・強力なモンスターが出なければいいですが・・・・)

スラムバレットのワーカー歴は短い。

戦闘能力はずば抜けていても、経験が物を言う時は必ずやってくる。

大型モンスターが引き連れた大群や、昼夜問わず襲いかかられる様なことになれば、未経験の者達では対処できずに飲み込まれてしまうだろう。

巨大食用ワニとの戦闘や、BBQの匂いに釣られてやってきた大量のモンスターと鬼ごっこをした経験を持つ2人には、要らぬ心配であるのだが、その事を詳しく知らないフィアにはこの旅路は不安でいっぱいであった。


装備している情報収集機の情報だけでなく、窓から外の様子を窺うフィアにラルフが声を掛ける。

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」

端末に何やら打ち込みながらそう言うラルフ。

「あの2人に任せていれば問題なくバハラタ都市に到着しますから」

「・・・・随分信用しているのね。付き合いは短いと聞いていたのだけれど」

「短いですね。ですが、実力と人となりはしっかりと確認しています」

ミナギ都市からの逃走劇。それに地下シェルターで受けさせられた戦闘訓練。

訓練ではシド、もしくはライトを敵対ユニットとして戦った事もある。手も足も出ずにボコボコにされ、なんど治療用カプセルの中で目覚めた事か・・・・・

訓練の事を思い出し、気分が悪くなったラルフは仕事の手を止め体を伸ばす。

「・・・・・・」

そんなラルフを探るような目つきで見つめるフィア。

「・・・フィアさんは今までどの様な活動を?」

「単独や他のチームに混ざって遺跡のデータを回収していたわ。生存権外周部の遺跡の経験は無いけれどね」

「なるほど・・・喜多野マテリアルから声が掛かるほどなのですから、腕は確かなのでしょう」

「まあね。そこらのシーカーに負けるつもりは無いわよ」


彼女は基本ソロで動いていたシーカー、という設定だ。

喜多野マテリアルの諜報員として、訓練で遺跡に突入したことは何度もあるし、ギルドに潜入してシーカー活動を行っていた事もある。

彼女の言っている事は間違いではない。


だが、スラムバレットと他のワーカーギルドとは根本的に行動原理が異なる。

ギルドの場合は、遺跡に潜る際、出来る限りの安全マージンを取ろうとする。綿密に調査を行い、探索するチームのメンバー構成を振り分け、被害が出ないように細心の注意を払うのだ。

高ランクになればギルドからのバックアップも手厚く、装備や回復薬等の支給も行われる。


しかし、このチームは違う。

どちらかと言うと行き当たりばったりで、普通のワーカーなら全滅しても可笑しくない状況でも並外れた戦闘能力と対応力で乗り越えてしまう。

他のワーカーが常備している回復薬もシドは携帯していない。

旧文明の身体拡張の効果で、並みの回復薬など服用しなくても負傷は回復する。その代わり、栄養欠乏症にならない様、ツールボックスには大量の食糧が入れられている。

ライトも回復薬の所持は最低限だ。シドには劣るものの、回復能力は付与されており現代文明の身体拡張者より遥かに頑丈な体を持っている。

ラルフもセントラルの処置により一般人とは比べ物にならない頑丈さを手に入れている為、この中で唯一普通の人間であるフィアがもっとも耐久力が低いと言える。

「そうですか・・・・・・戦闘の自信は?」

「それなりに自信はあるわね。貴方よりは戦えるのは間違いないわよ?」

そう言い、挑発的な微笑みをラルフに見せるフィア。

ラルフもその点について反論は無い。

1ヶ月間、訓練を行ったとは言え、喜多野マテリアル諜報員にドンパチで勝てるなどと己惚れる事など無い。

「それはそうでしょう。私は唯のワーカーオフィス職員ですからね」

そう言うとラルフは再度端末に目を落とし、仕事の続きを行っていく。

そんなラルフを見やりながら、フィアはこの荒野車に存在するもう1つの存在に意識を向けた。


それは、旧文明の技術で作られたというオートマタの存在である。

情報では現代文明では制作不能な技術で作られているとあったオートマタである。今も少し離れた場所でフヨフヨと浮き、ラルフとフィアのやり取りを観察している様に見えた。

この車に乗った時にシドによって紹介されたが、フィアは情報収集の為に声を掛けることにした。

「ねえ、貴方は旧文明のオートマタなのよね?」

「はい、どの時代までを旧文明と呼ぶのか定義が曖昧ですが、私は現文明の経歴以前に作成されたと記録されています」

「ふ~ん。旧文明のオートマタって現人類に対して敵対的って話だったと思うんだけど。どうしてシド君について行こうと思ったの?」

「他のオートマタがどの様な設定に基づいて稼働しているかで挙動が変わると思われます。私はある施設にて作成され、マスターであるシドに与えられたと認識しており、彼の行動をサポートする様設定されています」

「それじゃぁ、その設定が変わってしまったら貴方はシド君の敵になるの?」

「それは有り得ません。一度定められた設定の変更は非常に困難です。現在でも意見の相違は発生するでしょうが、私はシドの利益を最優先として行動を行います」

「そう・・・わかったわ。これから一緒に活動するけど、改めてよろしくお願いするわ」

「はい、フィア。よろしくお願いします」

この短い会話で、フィアはこのオートマタが敵対する可能性が無い事を確認する。

基本的にAIは嘘をつかない。

質問をはぐらかす事は有るが、断言した事を翻すことは絶対に無いのである。

この会話の間も、T6はドコドコと荒野を走り、その存在に気付いたモンスター達が襲い掛かってきている。

その全てがシドとライトに駆逐されていき、フィアが銃を握る事は一度も無かった。

(・・・・ここまで気の抜けない安全な都市間移動は初めてね・・・・)

これまでの移動は、移動中常時戦闘態勢に移行できる体制を整えていなければならなかった。今でも指示があれば即座に動けるようにしているのだが、そのような事にはならない。

(彼らの実力は本物・・・・あの非常識な実績が誇張の無い本物とするなら・・・・気の抜けない任務になりそうだわ)

表面上はリラックスしたように見せかけながら、フィアはもう一度気を引き締め直すのだった。




イデア視点


この度スラムバレットに同行することになったフィア・ハーバーと言う女性。

ランクは32と高くも無く低くもない。ランク調整依頼を掛けられてこのチームに同行することになったと聞かされている。

T6に乗り込み、移動を開始してから今まで、ずっと観察していたのだが、イデアは彼女がワーカーであるという説明に疑問を抱いていた。

そのボディーに搭載された高性能センサーはフィアの目線や精神状態を正確に拾っており、彼女の行動がワーカーの物ではない事を見抜く。

(彼女の意識が向くのは主にシド。次に私で、ライトの次にラルフですか・・・・モンスターへの警戒も少々過剰ですね)

イデアの知るシーカーはユキとレオナのみである。

彼女達であれば、モンスターの気配を察知した場合、チームがどのように動くかを観察するだろう。

その上で、チームの行動指針を観察し、自分の立ち位置を見定めようとするはず。しかし彼女の場合、モンスターの反応を検知した場合、直ぐに迎撃態勢を整えようとする反応を示す。

それを意志の力で無理やり抑え込んでいる様なのだ。


長期間、ソロで活動していたシーカーであるならその反応は間違いではない。チームで補い合う経験が少ないと言われればそれまでなのかもしれないが、チームプレイを経験せずにランク32に上がれるほどワーカーの世界は甘くは無い。

どこかで必ず仲間の存在が必要になってくる。

シドであろうと、ライトであろうと、遺跡を探索して生きていくためには己の欠点を補ってくれる相手が必要になってくる。

その為にイデアは、シドがライトと遭遇した時に保護を進言したのである。


だが、彼女はその様な存在を持っていないと見受けられる。

常に周りを警戒し、シドやライトだけでなくラルフにも警戒している。これは彼女が女性で、周りが男性で固められているという状況に対する警戒とは違う。

常時周りが敵で埋め尽くされている状況に身を置いてきた者のバイタルであるとイデアは判断した。


(と言う事は・・・・彼女は喜多野マテリアルが送り込んだスパイという可能性が最も高いですね)

ゴンダバヤシがそのような事を行う必要は無い。

シドは彼の事を信用しているし、ラルフは彼がつけたスラムバレットへの首輪だ。シドもライトもその事を認識している。

と言う事は、他の誰かが彼女を送り込んできたという事であった。

(・・・・・・・彼女自身に脅威となる力は無いと判断していい・・・・・現時点でシドに対する害悪には成り得ない・・・・・・なら、観察で十分ですね。彼女の加入によってどの様な変化が起こるのか。非常に興味深いです)

フィアの正体は速攻でイデアにバレる。

だが、イデアはこの事をシド達に教えるつもりは無い。何かと人の機微に敏感なライトは気付きそうだが、シドは教えられなければ気付くことは無いと予想する。


今後、共に活動を行い、この4人が仲間と認識し合うのか。それとも互い互いの道を歩むことになるのか・・・・


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