新な監視員?
ゴンダバヤシはスラムバレットとの面会を終えると、自分達のために用意されている部屋へと戻ってくる。
そして、椅子へと座り深々と身を預け深いため息を吐き出したのであった。
「お疲れ様です」
そのゴンダバヤシにデンベが声を掛ける。
「・・・・まだ何も終わってねーよ」
バイオハザードの処理は佳境に入ったとは言え、まだ完全に収束したわけでは無い。それに、スラムバレットへの報酬も暫定的なものしか決まってはいないのだ。
シドはバイク、ライトはエネルギー兵器の提供という話はついているが、このレベルの騒動でその程度の報酬で終わらせては喜多野マテリアルの沽券に関わる。
先程の報酬に加えて金銭での報酬やランクの上昇。その他の便宜を確約しても今回の功績に正当に報いたとは言えない、さらには今後のミナギ都市の管理方法など、様々な事を考えなければならなかった。
今回の件はミナギ都市の消滅という最悪の状況は回避できたと判断していい。であれば、次の問題についても考えなければならない。
喜多野マテリアルの幹部会では、今回の件は重く受け止められている。前回の旧文明製AIとの平和的交渉と、生きた遺跡を人類の生存圏に組み入れる事への成功と合わせ社内の利益配分と責任問題で紛糾していた。
「まずはスラムバレットへの報酬を決めて本社に承認させる。その後はミナギ都市の扱いだ。バークとトウドウは良くやっている・・・・今後はアースネットとケミックスに任せる方向で行きたいが・・・・」
「あの御2人が在任中はいいでしょう。ですが、次代に移行した場合はどうなるか解りませんよ?」
「・・・・そこは2人に後継者の育成を頑張って貰うしかない。いくらなんでも全ての都市をウチで管理する訳にはいかないからな・・・・少数の監視を置いて様子をみるしかないだろう」
「あの2人への報酬はどうなさるのですか?」
「・・・・そうなんだよな~・・・・どうしたもんか・・・・・都市一つの崩壊を防いだ報酬・・・・・・・・・・アイツ等が喜びそうなもので俺達にもメリットになる・・・・何かないものかな」
「彼らが今後どういう活動を行うかによります。このまま東に向かい最前線に向かうのであれば、拠点の設置や補給の優遇などで対処できると考えますが、何分どう動くか予想が難しい2人ですので」
「だよな~・・・・アイツ等の自由に使える金が一番融通が利くか・・・・」
「物凄い金額になりそうですが」
数千億コールの市場を持つミナギ都市を救い、人類生存圏縮小の防止。
これに釣り合うだけの金額となれば莫大なものになる。たった2人のワーカーチームには多すぎると思われるのは間違いない。
「はぁ~~・・・・本社の主計に掛け合うしかないな・・・・」
「・・・・・お疲れ様です」
いくら取締役とは言え、ここまで大きな金額になるとゴンダバヤシの一存でポンと払う訳には行かない。
主計から金額を算出してもらい、会議に出して決定しなければならなかった。
彼が通信端末で連絡を取ろうとすると、別の人物から通信が入って来る。
ディスプレイに浮かんだ表示を見て、ゴンダバヤシは少しだけ表情を曇らせる。
『久しぶりだな、ゴンダバヤシ。随分と活躍しているそうだが、ミナギ都市はどうなっている?』
通信を飛ばしてきたのは、喜多野マテリアル 専務取締役であるアドルフであった。
喜多野マテリアルの財政と情報収集部門のトップに立っており、代表の右腕である。ゴンダバヤシが兵器開発部門長に付いていた時の予算編成等は彼の承認を取らなければならず、少しばかり苦手意識を持っていた。
「お久しぶりです、アドルフ専務。ミナギ都市ですが、モンスターの駆除は順調に行われており数日で完了致します。住人への被害は無く、パニックを起こす者や暴動などの犯罪に手を染める者達はごく少数に留まっています。ドルファンドの調査も順調に行われており、後2週間ほどで最低限の都市機能を復旧できるでしょう」
『なるほど。大判振る舞いをした成果はあった訳だな』
アドルフは幾つもの情報ルートを持っている。当然ミナギ都市の状況も正確に把握しているだろう。だが、この件の最上位責任者であるゴンダバヤシに直接状況を聞いてきた。
彼からすればこの行動は不要なはずだ。最終的に問題が片付いてからの報告を聞くだけでも問題がないはず。
それなのに向こうからコンタクトを取ってきたと言う事は・・・・・
「はい、ご協力感謝します。・・・・・・それと今回の件で追加案件がありまして」
『ワーカーチームへの報酬だろう?主計に連絡して算出した結果を私の所へ回すように。コチラで妥当かどうかを判断して払う様にする』
「ありがとうございます」
『・・・・・それで、スラムバレットの監視はどう行うつもりだ?』
やはりあの2人の件だったようだ。
「・・・・・・・私直属の部下を担当官とし置き、その者と近しいワーカー職員を随行員として同行させます。これで彼らの行動と行先を正確に把握できると考えます」
ゴンダバヤシはキクチとラルフを軸にスラムバレットの行動を把握しようとしている事をアドルフに伝えた。
しかし、彼は無表情のまま少し考える仕草をすると口を開く。
『ワーカーオフィスからの随行員だけでは少し弱いな。ミュアをそちらへと送る。彼らのチームの捻じ込め』
「・・・!!!・・・・・そこまでする必要があるでしょうか?」
『彼らの行動の結果を見れば、あると判断する。たった数ヶ月でエリアの勢力図が塗り替わる恐れがあった事件が3件も発生している。その全てに彼らが関わっているとなれば当然の判断だろう』
「彼らが自体を引き起こした訳では有りません」
『知っている。しかし、引き金にはなっているだろう?3度も続けばその次も警戒するのは当然だ』
この言葉にはゴンダバヤシも賛成するしかない。彼もそうなると予想しているのだから。
「・・・・・・・・彼女の身分はどうなさるおつもりですか?」
『ランク40のシーカーとして送る。ランク調整依頼を発行されたワーカーとしてな。詳細は後程送る。彼女が到着するまでの間、スラムバレットにはミナギ都市に滞在させるように』
「承知しました・・・・・」
『それではな・・・・・ああ、ミナギ都市の件が片付き次第本社へと戻る様に。君の代わりの人員は手配しておく』
「・・・承知しました」
ゴンダバヤシの返事を聞いたアドルフは、満足そうに首を縦に動かし通信を切った。
何も映らなくなったディスプレイを数秒眺めた後、テーブルの上に放り投げる様に端末を置く。
そして椅子に体重を預け天井を仰いだ。
「・・・・・めんどくせー事になったぞ・・・・」
「その様ですね・・・・・しかし、ミュアですか。諜報員としての腕は確かでしょうが、あのチームのシーカーとして活動できるかと言われれば疑問がありますが」
ミュアとは喜多野マテリアルの諜報部に所属する人員である。
彼女は他企業が支配する都市や企業に潜入し、喜多野マテリアルに取って有用な情報を手に入れてきた実績と実力があった。しかし、いくら情報戦に長け、喜多野マテリアルの戦闘訓練を受けているとはいえ、スパイがワーカーとして通用するかといわれれば疑問符が付く。
それもあの2人に着いていくとなればかなりの能力を要求されるだろう。ラルフの場合はワーカーオフィスからの出向となっている為、ある程度2人も気を付けるだろうが、ミュアはワーカーとしての加入となるらしい。
そうなれば、シドもライトもワーカーとして彼女を扱うだろう。あの根本から基準が狂っている2人にどこまでついて行けるだろうか。
「・・・・キクチとラルフには教えておいた方が良いか。スラムバレットの2人には教えることは出来んがな」
後で2人に話をしなければならない。
どういう反応をするか目に浮かぶようだ。




