第四十九話
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高級娼館ともなれば、店前には必ず屈強な者が門番として立つ。彼らはギルドで依頼を受けた冒険者達だ。さらに最高級娼館ともなれば、かなり腕が立つ者達が求められる。店内外のトラブルを、場合によっては力ずくで収める為。
店内では娼婦に対して暴力等を振るう不届き者を鎮圧し、店外では冷やかしや怪しい者を追い返すのが主な仕事。
「さっさと答えろっ!てめぇみたいな子供が、最高級無料券なんてどうして持ってやがる!!」
例えばこんな風に。
「だーかーらー!貰ったんですって!知り合いの冒険者に!」
「嘘を吐くなっ!それをホイホイやるような冒険者が居るものか!大方盗んだんだろう!」
「違いますって!何度言えば分かるんですか!」
かれこれ数分はこのやり取りだぞ。
即座に暴力で訴えて来ない所は評価できるが、この頭の固さは頂けない。最初からこちらの話を聞いちゃいないのだ。何を言っても盗んだと決めつけてくる。
「騒がしい。何事だい?」
そんな声と共に店から一人の女が出てくる。
「フィロメーナ様!?」
門番の男がその女に事の次第を説明しているのを尻目に、女の方をつぶさに観察する。
妖艶、という言葉がそのまま形を成したかのような女だった。
服の上からでも分かる、抜群のプロポーション。男を誘う切れ長の目。肢体は艶めかしく、スラリと長い。右の泣きぼくろが色気を放ち、髪の隙間から覗くうなじからは男を誘うフェロモンが放たれる。そして何より、胸がデカい。
これまではフィオランツァが一番だったが、ここに来て記録更新。フィロメーナと呼ばれた女は輪を掛けて大きい。そしてここまで大きいにもかかわらず、バランスが悪いという事も無く、胸の形も綺麗なので寧ろ美しさを際立たせている。
「……不潔です」
クロエの言葉で我に返る。顔を見なくても分かる。言葉の中に有りっ丈の不快感が込められていたから。そう言えばクロエって胸小さいっけ。
「っ!?」
背後から濃密な殺気。周りの様子を見るに、俺だけに向けられたものらしい。
「……何やら不快な気配を感じました」
「あは、あははは……ど、どうしたんでしょうね?」
ここは誤魔化す・すっ呆けるの一択に限る。
それにしても、久々に俺の中の男では無く、雄を刺激された気分だ。
「無料券を見せて貰えるかい?」
事の次第を聞き終え近付いてきたフィロメーナに、言われるがまま無料券を手渡す。
あ、良い匂い。じゃなくて。
「ふむ。ベルハルトの物だねぇ。……黒髪に黒目。坊やが噂の迷い人かい?」
「あれ?私の事ご存知なんですか?」
「勿論だよ。色々と噂があるからねぇ。それに【麒麟の角】とも仲が良いらしいじゃないか」
うん、やっぱり情報通だ。娼館に来たのは間違いじゃなかった。
「おお!良く知ってますね。お姉さんみたいに綺麗な人に知ってもらえるなんて嬉しいです!」
「褒めても何も出ないよ。それに、坊やだって男にしては随分綺麗じゃないか」
「あはははは。ありがとうございます。でも、私これでも22歳なんで、坊やは止めてもらっても良いですか?」
「っ!?」
「はぁ~!?」
この情報は知らなかったようだ。目を見開くフィロメーナ。
ついでに、俺を子供呼ばわりした門番も驚いている。
「……済まなかったねぇ。それは知らなかったよ」
まあ、意図的に少し子供っぽく振る舞っているしな。
経験豊富なお姉さんにリードされる少年、の構図を疑似的に作り出し、主導権を握っているかのように錯覚させる。
「良いですよ。慣れてますから」
と言うか、この世界に来て否が応にも慣れさせられた。
「そうかい。それで、客として来たんだろう?ベルハルトにオススメの娘とか聞いているのかい?」
「なっ!?ちょっと待ってください、フィロメーナ様!」
「なんだい?バックス」
言葉は兎も角、その姿勢は話を聞こうというものでは無い。
「門番として、そいつを客とは認められません!」
「……なぜだい?」
若干イラついたような雰囲気のフィロメーナ。だが、門番バックスは気付かない。
「その無料券は、ベルハルト様から奪った可能性があるからです」
「は?」
何を言いてるんだこいつは?
ほら見ろ、フィロメーナの目も点になっているぞ。
「……バックス。お前はランクA冒険者から、何か物を奪えるのかい?」
「い、いえ」
己の失言に気付き始めたのだろう。その顔に汗が浮かび始める。
「だったら分かるだろう?これは奪ったものでは無く、譲り受けたものだと」
「うっ」
全くの正論に、最初の勢いは完全に消えた。
「それに、門番の仕事は店を守る事。客を選別する事じゃないよ」
「……すみませんでした」
「謝る相手が違うだろう?」
え?そこで俺に振るの?
「すみませんでしたっ!!」
ほら、言葉こそ謝っているものの、睨み付けるような視線で敵意しか感じないよ。
「済まないねぇ」
「いえいえ、彼も仕事に忠実なだけだったのでしょうし」
フォローしてあげているのだから、そう睨まないで欲しい。
「そう言って貰えると助かるよ。……話を戻そうか。今日はどうするんだい?」
「そーですねー。ベルハルトからは特にオススメの娘とかを聞いて来てる訳では無いので……無料券が使えるなら誰でも良いといった所なんですよね。ちなみになんですけど、フィロメーナさんでしたっけ、お姉さんはダメなんですか?」
「ん?私かい?」
「貴様っ!」
「バックス!」
怒りの形相で剣を抜いたバックスを、フィロメーナが声で止める。クロエも俺を守ろうとしたのか、前に飛び出しフォークを構えている。
……何でフォークなんだろうか。
「バックス、お前はいい加減黙ってな。次勝手な真似しようとしたら、クビにするよ」
「はい……っ」
素直に引き下がるが、その瞳は俺に対する敵意と殺意に染まっている。こういった輩のこういった表情は良く見た事がある。やらかすぞ、こいつ。
「そっちのメイドも、ここは抑えてくれるかい?」
「……次浅慮な敵対行為を取ったら容赦しません」
思った以上に過激だ。俺は何とも思っていないけど、ここまでの彼の態度は目に余るからな。流石のクロエも我慢の限界なのかもしれない。
「それと、グレン様」
「え?はい?私ですか?」
「もう少し慎重に行動なさってください。今貴方様に死なれるのは困ります」
「あ、はい」
厳しい人だ。言外に手間を掛けさせるな、という意図が読み取れる。でも、怪我させられるぐらいなら狙っても良いと思うんだよな。交渉において有利になるし。
「うふふふふふ。私はこの『天使の涙』のオーナーでね。今は客は取っていないんだ。悪いねぇ」
「そうなんですか。残念です」
オーナーか。ここの纏め役なんだとしたら、所持する情報量も他の娼婦とは段違いだよな。そう考えると、やはり彼女が良いな。
「私が噂通りの男なら……。異世界の男の味、興味ありません?」
噂では、俺は姫様の性奴隷という事になっている。不快な事に。
だから、それを利用する。姫様の事色々知ってますよ、と言外に込めながら、異世界の知識に興味は無いか、と唆すように、異世界の男は凄いぞ、と挑発するように。
彼女は賢い。気付くはずだ。
「へぇ?それは、面白そうだねぇ。いいよ、付いて来な」
「っ!?」
上手く興味は引けたようだ。
さて、ここからはどうなるか分からない。状況に臨機応変に対応しながら、後手に回らないよう上手く動くとしよう。




