第四十八話
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「あれが【幻の占い師】と呼ばれる所以です」
『リキユ-ル』の個室にて。酒場のマスターの男飯を一緒に食べながら、先程の謎現象について聞いてみた。
ちなみに最初の頃は、メイドの私が一緒に食事をとる事は許されません、とか言っていたが、そんなに奴隷の私と一緒の食事は嫌ですか?悲しいです、と奴隷を強調してさも悲しそうに言うと、折れてくれた。
自分だけ食べながら、それを横から眺められるなんて落ち着かん。必要ならそうするが、今は必要ないからな。
「あの方は占いの前後の行動は読めません。いつの間にか現れ、いつの間にか居なくなる。だから『幻』なのです。占う対象が才ある者、というのも関係しているでしょうね」
そう言えば、声を掛けられた時も急に湧いて出たような感じだったな。その時は不思議に思わなかったし警戒もしなかったが、今思えばおかしい事だ。普通に受け入れていた。名前も聞く事が無かった。さもそれが当然の事の様に。
「むむむ……」
一体何者なんだろうか。
「……」
まあ、老婆占い師の事は今考えても仕方の無い事か。結局、『幻』なんだから。
それよりも彼女の方が先か。
占いの結果を聞いている最中から、どこか機嫌が悪そうというか戸惑っている感じだ。老婆占い師と別れる時には、最初の熱も無かったし。
俺の占いの結果に、なぜ彼女が反応を示しているのだろうか。占いの結果が関係している訳では無いのかもしれないけど。
とりあえず聞いてみない事には始まらないな。
……藪蛇だったらどうしよう。脳裏を過るのはヴィクトリアの事。
そんな不安に、若干苛まれながら聞いてみる。
「何でそんな微妙な顔を浮かべているんです?」
「微妙な顔ですか?」
そう言って首を傾げながら、自分の顔を撫でる。
自覚無かったようだ。
「ええ。戸惑っているような、失望しているような、そんな顔です」
「……ああ」
その言葉には心当たりがあったのか、納得した表情を浮かべる。
「……」
「・・・・」
しかし、それっきり黙ってしまった。どうやら話す気は無いようだ。
さて、どうするべきか。踏み込むべきか、踏み込まぬべきか。ヴィクトリアの時は下手に踏み込んで地雷を踏んだ。その時の後悔が、俺に二の足を踏ませる。
「……」
「……」
「……」
「……」
長い沈黙。どこか気まずい沈黙。
「……」
「……期待、したのでしょうね」
破ったのはクロエだった。話す気は無いのだと思っていたが。
「もしかしたら、姫様にとって重要な位置付けとなるのはグレン様なのでは、と。いえ、そうであったら良いと。そんな期待をしました」
「それは……」
これまでの彼女の態度からは考えられないな。嫌い、とも面と向かって言われているし。
「そして、グレン様の占いの結果を聞いて失望しました。ええ、そうです。勝手に期待して、勝手に失望したんです」
「なんかごめんなさい?」
「謝らないでください。馬鹿にされている気がします。……自分でもなぜ期待したのか良く分かっていないのですけど」
もしかしたら、彼女の中での俺の評価って物凄く高いんじゃないか?それを素直に認められないからこその嫌い……はっ!これがツンデレか!占いの結果で出ていた『ツンデレあり』は彼女の事なのかもしれない!
「ふっふっふっふっ」
何だ可愛い所もあるじゃないか。
「……何ですか?気持ち悪い」
そうなってくると、彼女の吐く毒も心地良い。
「いやー、クロエさんがそんなに私の事を好きだったなんて」
「……は?」
「照れなくても良いんですよ?あっはっはっはっ」
「……気持ち悪い」
「―――はっはっ……へ?」
見ると、そこには本当に気持ち悪そうにこちらを見るクロエの姿が。瞳には侮蔑も浮かび、まるで台所のGでも見ているようだ。目を凝らすと、彼女の肌には鳥肌が浮かんでいる様にも見える。
この反応は予想外だ。
「あ、あの、クロエさん?」
「話し掛けないでください。気持ち悪い」
「ぐさっ」
どうしよう。冗談のつもりだったのに、マジな反応でこれは傷つく。いつも通りの無表情で否定してくると思っていたから、その分ダメージが大きい。やばい泣きそうだ。
「以前から思っていたのですが、グレン様は自己評価が高すぎます。確かに顔は整っていますが、それだけです」
「ぐはっ」
確か姫様にも以前似た様な事は言われたな。
「私も含め騎士団の人間は、男に強さも求めます。例え貴方様が他の面で能力を発揮しようと、弱ければ男として見ることはありません」
気付いているとも、そんな事くらい。でもさっきのGを見る様な目は止めてくれ。珍しく表情が動いたと思ったらアレとか、かなり精神的に来る。
「……」
「……」
再び沈黙が場を支配する。
やはり、踏み込むべきでは無かったのだ。今回は向こうから話してくれたとは言え、切っ掛けは俺だ。それに、今回は俺がダメージを受けた。
「私はグレン様を評価しています」
仕方ないから、この空気のまま娼館に行こうと覚悟を決めていた所に、再びクロエが離し始める。フォローだろうか。
「サブリナからも『土っぽくなってきた』と、フヨウドの進展報告がありました」
へえ、驚いた。餌を改善した事で家畜の健康状態が向上したという報告は受けていたのだが、畑に関しては初めてだったはずだ。時間が掛かるものだから、本当にやっているか疑問だったのだが、現地には良い指導者でもいるのだろうか。
「姫様の目的にグレン様は大いに役立っております」
「そ、その目的の内容って聞いても良いんですか?殿下も何度か口にしていますけど、内容は一切知らなくて。口調からして野望って感じですよね」
「……私の口からは何とも言えません。いずれ姫様から直接聞く事もあるでしょう」
本当はある程度推測していたりする。俺が目を通す事が出来ない報告書も、姫様の手元にある時に、強
化した視力で盗み見ている。
クロエから少しでも聞いておいて、確証を得て置きたかったのだが、やはり口は堅そうだ。
「とにかく、そういった訳で、姫様にとっての『重要な位置付けとなる男』はグレン様であれば良いと思ったのです。姫様にとってはその目的が何よりも重要ですから」
「ああ、それで……」
それで、期待か。確かに、それならそう思うのも無理ない気がする。
でも重要な位置付けってそれだけじゃないよなぁ。
「でも、ですよ?重要な位置付けって他にもありますよね?」
「他ですか?」
ああ、姫様は当然だけど彼女にとってもその目的は重要なんだな。
「例えば、命の恩人だとか、夫となる男だとか、です」
「あっ……」
気付かなかったという風に、僅かにだが目から鱗と言った表情になる。今日のクロエの表情は良く動く。
本当に気付いていなかったようだ。目的へと臨む姿勢と、いかに恋愛事に疎いかが分かる。
「あはははは。まあ、なんにせよ大丈夫ですよ。こうして殿下に仕えている以上、占いが有ろうと無かろうと力になるつもりですから。命の恩人は弱いから無理ですし、夫なんて恐れ多い上有り得ないですしね」
「そうですね……そう思いたいです」
「取り敢えずは、目の前の事、キャメロン・コナーの件に集中しましょう。【幻の占い師】に関しても予定外の事ですし、今は忘れましょう」
俺としては【幻の占い師】には、未来視が出来るのならタイミングを考えろと言いたい。今何より優先されるのはキャメロン・コナーの排除なのだから。
また会えるみたいな事を言っていたし、その時は殴る……のは相手が老婆である事を考慮し、我慢して精々嫌味でもねちっこく言ってやろう。八つ当たり?ええそうです。八つ当たりです。
そんな決意をしながら、頭の中で娼館から情報を聞き出す算段を立てる。
いつも通りの雰囲気に戻ったクロエを連れて、『リキユ-ル』を後にした。




