第四十七話
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翌日から王都内の案内という名目で、城下を歩き回った。クロエと二人で。
彼女は俺の意図を察してくれたのか、普段付いている監視を外してくれたようだ。クロエが一緒にいる時に限り、監視の視線が暗部の者のみになるのはそういう事なのだろう。これで有事の際、動きやすくなる。
王都内の案内という事で、一部の親切な者達が案内を買って出てくれたのだが、丁重にお断りした。残念そうな顔をする彼女達には心苦しかったが、キャメロン・コナーの調査という本来の目的の方の話が広まっていないようで何よりである。
調査の方にほとんど進展は無かった。傍から見れば見目麗しい男が冷たい美貌のメイドを引き連れ、遊び回っているようにしか見えなかっただろう。実際、そう見える様に露店をハシゴし、ほぼ全ての店で冷やかしを楽しんだ。
午前中は王都内を遊び歩き、昼食後すぐに帰る。孤児院に帰ってからはリナ達と遊び倒し、時折乱入してくるヴィヴィとも遊び倒す。傍から見れば完全にニートのダメ男だ。
勿論、遊んでいただけでは無い。情報屋も回った。腕利きを二ヶ所。ベルハルト達の紹介だ。
ただ得られた情報はベルハルトに聞いたものとほぼ同じで、耳新しい物と言えば、一時期スラムに件の執事が出入りしていたという情報。スラムにいる魔族と交渉、若しくは連絡を取り合っていたのだろうか。
こちらも気になるが、先に娼館が先だ。スラムの方は、今はまだ置いておいて良い。ここ数日派手に遊び歩いたおかげで、『あれが例の迷い人……』という感じでそれなりに注目を浴びている。
接触した情報屋からも『あの迷い人はコナー家について探っている』なんて、そんな情報が流れている可能性がある。もしそうだった場合、既に魔族に目を付けられている可能性がある。幸い、今の所視線や気配は感じないが、用心するに越したことは無い。
だから今日から数日は娼館通いだ。俺の噂・悪評に新たな一ページが刻まれる事になるが、そんなものは後でいくらでもひっくり返せる。良い噂では無いので煩わしいものだが、気にする必要は無いだろう。
ちなみに、この状況に対して小言を言ってきそうなヴィクトリアは今居ない。詳しい事は知らないが、騎士団の騎士を十数名引き連れ王都を出て行っている。タイミング的に、姫様が俺とヴィクトリアが鉢合わせて余計な騒ぎを引き起こさない様に、配慮してくれたのかもしれない。
今のヴィクトリアの精神状態を考えるに、小言だけで済むとは思えないけど。キャメロン・コナーを処分したら、彼女のフォローもやっておかないと。
最高級娼館『天使の涙』。
娼館や賭場の並ぶ華通り―――中央通りを挟んで商業通りと対に存在―――で、一際存在感を放つ。エンジェル・ティアとは、病から疲れから、ありとあらゆるモノを癒すと言われる天使の零す涙の事らしい。
『天使の涙』はその名に恥じぬ極上の癒しを、来店する客に与えるという。そして、訪れた者達は口を揃えてこう言う。『まさに夢の様なひと時だった』、と。
最高級娼館である為利用者は限られてくるが、貴族や豪商、腕利きの冒険者等はその極上の癒しを求めて足繁く通うのだ。
「さて、どうやって情報を引き出しましょうかね……」
『天使の涙』へ向かう道すがら、気まずい空気を裂くように声を出す。どうもこの数日、王都内を遊び歩いた事で彼女からの評価が落ちていっているようで、今回もただ娼館で遊ぶだけなのでは、と疑われている。どうやったら彼女と信頼関係を結べるのだろう。
やはり物語みたいにババッと、カッコ良く解決できれば良いのだろうか。あれは物語的ご都合主義のおかげで上手くいくのであって、現実はそう簡単には行かない。
死にたくないし死なせたくない、傷付いて欲しくも無いから慎重に行動しているのだが、一から十の内七までしか彼女には伝えてない以上、仕方ないのかも。
この件が終わる頃には、協力関係を築ける位には信頼関係を結びたいものだ。
「考えていないのですか?」
「何分、娼館を利用するのは初めてなのでね」
事実、客として娼館を訪れるのは初めてだ。日本の風俗も、海外の風俗も利用した事は無い。病気怖いし。と言うかそもそも、春香が居たから利用する必要が無かった。
「……はぁ~~~」
深い溜息。とてもワザとらしいのが腹立たしい。そして、その顔がこれまた綺麗なのも腹立たしい。
姫様配下の者達は、皆綺麗な顔立ちをしている。とりわけクロエとヴィクトリアは群を抜く。姫様はさらに上を行くが。なぜこうも姫様の周りには綺麗な女が集まるのだろうか。
おかげで俺の美貌が、少々霞んでしまっている気がする。代々美人の家系である夜桜家に生まれ、さらに母さんに似ている身としてはこの状況はいただけない。
大体、この世界の人間の見た目は地球に比べて、高水準過ぎる。ああ、だから見た目だけの男は評価されないのか。
そう、ルフィーナを初めとする料理人からの俺に対する評価が高いのは、見た目+料理の才のおかげ。だから、騎士達の未だ多くの者に受け入れられていない、と。
ナンシーは神獣相手に戦って、怪我を負わせるぐらいには健闘する実力が俺にあるのを知っているから、ああも惚れてくれているのだろう。初めて会った時なんてほとんど素で、闘気も剥き出しだったし。
だったらシスターはどうなんだ、という疑問が残る。彼女にとって俺は、見た目が良いだけの迷い人のはずだ。付け足すなら、幼女達の良いお兄さん。
見た目が好みだと言ってくれたが、それだけか?もしかして、初日の母性が転じたのだろうか。つまりは、女と言うのは例え世界を跨ごうと、難しい生き物であるという事だ。
「何ですか?」
「いえ。溜息を吐く姿も綺麗だな、と」
「……セクハラですか」
一瞬眉をピクリと動かすが、次の瞬間には元通り。綺麗な顔だが可愛げの無い人だ。照れるなりしてくれれば良いものを。
「なんでそ「カカカカッ!おぬしら、占いに興味は無いか!?」………えー」
いきなり割って入ってきた声の方を振り向けば、そこには如何にもな占い師がいた。
その占い師は如何にもなローブを目深に被り、丸い水晶など如何にもな道具が所狭しと置かれ、これまた如何にもな雰囲気を醸し出している。
「うわー」
何、この如何にもな感じ。占いを信じるかどうか以前に、この人物を信じられそうにない。
「カカカッ、その反応は慣れておる。だが、ワシの占いは当たるぞ。どうじゃ?おぬし、占っていかぬか?」
ややしゃがれた声からして老婆のようだが、フードのせいで顔が見えない。親父の時と同じように、顔の部分が真っ黒だ。ああ、見えてる手はシワシワだな。老婆か。これまた如何にもだな。
「えっと、占いには興味ないんで。それと急いでいますので。ごめんなさい」
相手の機嫌を損なわぬよう、下手に出てやり過ごす。
「つれないのう」
「じゃあ、そう言う訳で。失礼します……クロエさん?」
クロエは占い師を見て固まっていた。その目は大きく見開かれている。
「まさか……」
「どうしました?知り合いですか?」
「またお会い出来るとは……貴方様は【幻の占い師】ですね?」
俺の事をサラッと無視する彼女はそう問う。心做しか敬意を払っている様にも見える。
「そう呼ばれる事もあるのう」
「っ!?グレン様、占ってもらうべきです」
「は?いえ、あの、俺占いとか信じない人間なんですが……」
どうしたんだろう、彼女凄く興奮しているように見える。『幻の占い師』とか、何の捻りも無いから一周回って逆に胡散臭いぞ。
「この方には昔、姫様も占って頂きました」
「そうじゃったか?」
姫様も?
「はい。10年程前の事になります」
「おお、そうじゃ!それくらいの時に、綺麗なドレスの幼子を占った事があるのう。確か傍にはもう二、三人いた筈じゃ!カカカッ!なるほど、おぬしの事じゃったか」
「はい」
「カカカッ、そうかそうか!確か、あの時の占いは『今後関わるであろう男の中に、おぬしにとって重要な位置付けとなる者が現れる。ゆめ手放すでないぞ』じゃったかのう?」
「憶えておいででしたか。その占いに従い、今も姫様は様々な手段で男を選別中です」
「カカカカカッ!」
話に付いていけない。
てか、姫様って占い信じてるのか?以外なんですけど。しかも、内容が男の選別って。意味が分からん。
「それで?おぬしはどうする?」
「へ?い、いや。ち、ちょっと待ってくれいや、ください。えっと、俺占い信じてないんですよね。だから、えっとごめんなさい?」
「グレン様、もう一度言いますが占ってもらってください」
「ひぇっ!?」
クロエの雰囲気が物々しくなっていく。
何なの、この感じ。この世界の人間って、無条件で占い信じるのかよ。怖ぇよ!
「カカカッ!メイドよ、そう熱くなるでない。しっかり説明してやるんじゃ。ワシがしても良いが、恥ずかしいでの」
「承りました。グレン様、よく聞いてください」
「は、はいぃ!」
「こちらは【幻の占い師】と呼ばれる方ですです。この方の占いは――――」




