表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/186

第三十話

ブクマ・評価ありがとうございます。

 指輪から手頃なナイフを取り出し、姫様に迫る。


「なにをっ……!?」

「がふっ!!」


 二、三歩進んだ所でクロエに後ろから腹を刺され、床に縫い付けられる。こうなる事は分かっていたから衝撃に備えるつもりだったのだが、クロエの気配の無い行動にやや反応が遅れ顔を打った。物凄く痛い。

 どうやら彼女は、殺気も気配も完全に殺した上で動けるようだ。見立て以上。暗殺面ではヴィクトリアより優れるか。まあ、俺なら完全に気付かせないけどな!

 それにしても鈍ったか?顔くらいもう少しスマートにぶつけられたはずなんだが。幼女達に囲まれ過ぎたかね。


「殺気は無かったのでまだ殺しません。しかし、殺す気が無くとも姫様に剣を向けたのは事実。余計な動きを見せれば首を刎ねます」


 流石に首を刎ねられそうになったら躱すしかないよな。久しぶりに本気で演技(ダマ)すとしよう。


「ぐっ…ぐふっ……で、殿下…ご覧の通り……私には殿下を殺す能力はありません……。戦う事は愚か……逃げる事も儘ならぬでしょう……。ごほっごほっ…私には仕えるという事がどういう事か分からないっ……。願わくば……今はそれで納得を……っ!」


 嘘の中に真実を混ぜる。それだけで言葉に真実味が増す。


「……クロエ」

「……はっ」


 腹から剣が抜けていく。そう言えば彼女何処から剣を取り出したんだ?俺みたいな収納魔道具だろうか。


「ひとまずはそれで納得するわ。今のも不問にしてあげる。ただ覚悟なさい。トリアとの取り引き期限までに、貴方に忠誠を誓わせてみるわ」

「は……はい」


 俺にナイフを向けられた時は若干の焦りが見えたが、既にそれは無い。


「誰かグレンの治癒を」


 こうして剣で貫かれたというのに、俺を案ずる様子も無い。俺の生死などどうでも良いとかでは無く、クロエの腕を信じているからだろう。


「い、いえ……それには及びません」


 指輪から魔法薬を取り出し、飲む。強い苦味が口に広がるが、嚥下すると身体に魔法薬が染み渡るのが分かる。腹の傷が治っていく。


「「「!!!」」」

「ち、ちょっと待ちなさい!」

「へ?」


 飲み干しながら触って傷の確認をしていると、姫様の焦った声が聞こえてきた。見れば信じられないものを見たような表情の姫様。クロエは相変わらずだが、周りのメイド達も驚愕に彩られている。


「貴方それ何か分かって飲んでるの!?」

「えっと、魔法薬では?」

「そんな事私にも分かっているわよ!!私が言いたいのは!それが!最高級魔法薬(・・・・・・)だって事よ!」


 ほへ?最高級魔法薬?




 …………最高級?


 そもそも魔法薬には三つの等級がある。

 まず『魔法薬』。一般的な魔法薬で市場に一番出回っている。軽い怪我程度なら完全に治す。価格は銀貨50枚前後。ラベルは赤。

 そして『高級魔法薬』。当然普通の魔法薬より効果は高く、それなりに重い怪我も治せる。価格は金貨30枚前後と高くなり、平民には入手が難しくなる。ラベルは緑。

 最後が『最高級魔法薬』。文字通り最高級の魔法薬。カール達が麒麟との邂逅後死に掛けていた俺の治療に使ったもの。上手く使えば瀕死の状態から回復させる程で、欠損部位すらたちどころに治る。価格は金貨800枚前後で貴族ですら入手は困難。平民は言わずもがな。ラベルは青。

 俺は最高級魔法薬を使った事は無い。使って貰った事はあるが。使った事があるのは『魔法薬』のみ。商会で貫かれた時と毎朝の稽古(いじめ)後、そして今。

 そう。俺が使用しているのはごくごく普通の魔法薬のはず。最高級魔法薬を湯水のように使っていたなんて、そんな事あるはずが……。


赤のラベルは(・・・・・・)最高級魔法薬の証(・・・・・・・・)でしょう!?」

「へ?は?え?」


 赤が最高級?青じゃなくて?赤が普通で最高級で?青が赤で緑が赤で赤が青で?あれ?考えがまとまらない。ずっと思考がグルグル渦まいている。


「グレン様落ち着いてください。普通は青、高級は緑、最高級は赤でございます」

「……普通だと思っていた物が最高級だった?え?俺がそんな初歩的な間違いを?いやいやそんなまさか……はっ!?」


 ある一幕が脳裏をよぎる。

 思い出されるのは商会に来て間もなかった頃、この世界の事について学んでいた時だ。その日は珍しく【麒麟の角】のメンバーが全員来ていた。主に教えてくれるのはナンシーとカールで、ベルハルトは冷やかしだ。だがその日は違った。

 珍しく『俺も一つ教えといてやろう。かなり重要な事だ』と言い出した。偉そうで上からなのがイラッと来たが、知らない事を教えてくれるんならと我慢して聞いた。魔法薬に関してだった。

 教えてくれた後の筋肉(バカ)のドヤ顔が物凄くウザかったので、聞いた事を頭に詰め込んだ後は無視する事にしたのだ。視界の端に見えた、何かを言いかけたナンシーとそれを抑えたベルハルトに、苦笑いのカールの姿と一緒に。どうせまた喧嘩だと思ったから。今思えば彼女は教えようとしてくれていたのだろう。嘘を吐かれていると。

 つまり、俺はベルハルトに騙されたという事。ナンシーは兎も角カールも共犯。魔法薬は商会でも扱っているのに誰も指摘しなかったのは、商会の人間がグルだったという事。エーミルは勿論、ベンやミラも。いやミラは許してあげよう。彼女は喋らないから。エーミルも許すべきか?彼は俺が騙されているのを知ってて、『最高級魔法薬』を『魔法薬』として気前良く渡してくれたんだし。

 取り敢えず主犯はベルハルトだろう。結局、その日しかベルハルトが何かを教えようとはしてこなかった。どこぞで思いつき、カールを引き込み、エーミル及び商会にも根回し。こんなとこか。


「フフフフフフフフ……フハハハハハ、ハーハッハッハッハッハッ」


 いい度胸しているじゃないか。良いだろう覚悟したまえ。俺を騙すという事がどういう事か教えてやろうじゃないか。そして本当に騙すという事がどういう事なのかも、その身に教え込んでやろう。


「クハハハハハハッ!」

「ちょっと、さっきから不気味よ」

「はっ!?申し訳ありません。少々取り乱しました。どうやら間違って憶えさせられていたようです」

「はぁ。経緯は良く分からないけど気を付けなさい。最高級魔法薬は貴方みたいに弱い者が持っているのがばれると、力ずくでも奪おうとする者が現れるわ」


 ここにはいないと思いたいが、まあ欲は人の眼を曇らせるからな。


「はい、気を付けます」


 人目のある所では使わずにいよう。まあ当分は『魔法薬』を使う事になるだろうけどな。監視の人達にも気付かれてなくて良かった。魔法薬を飲む時はラベルを覆うように握る事になる。角度によってはラベルは完全に見えないだろう。いや~、運が良かった。




 褒美云々忠誠云々、魔法薬云々の話が終わった所でデザートを持って来てもらう。濃ゆい話をし過ぎた。ここらで糖分を入れないと。

デザートはプリンだ。オーブンと冷蔵庫の魔道具もあるので簡単に作れた。


「これは……!」

「!!」

「おいしい……」

「ぐすっ」


 どうやらお気に召したようだ。多めに作ったので、余った分をクロエやメイド達にも食べた貰った。彼女達にも気に入ってもらえたで、中には感涙している者もいる。


「美味しかったわ」

「ありがとうございます」

「カレーにプリン、今日は二品目だったけどまだ他にも出来るのでしょう?」

「はい。他の者は厨房の料理人達にレシピを渡しましたので、彼女達に任せるつもりです。ぶっちゃけカレーを作ったのは私ですが、プリンを作ったのは彼女達なので問題ないでしょう」


 未知のレシピでもレシピ通りに作れるなら任せても良いだろう。本職の料理人である彼女達の方が、アレンジなども上手くできるだろうし。後は随時相談に乗ったりして俺は完全に手を引こう。一応ルフィーナが思いがけず俺の物になったので、影響力は残る。

 それに俺は、動く肉(・・・)の調理の方が得意だ。

 さあ、本格的にキャメロン・コナーの件に取り組むとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ