ニワの恩返し?!
気軽な一人旅。そんな夢のような今も、叶わなかった夢のカケラが脳裏を掠める。
王太子として生まれてこの方、自由など無かった。全ては国の為、王となる為。
不満は無かった…と言えば少し嘘か。末の姫のカペラなどの無邪気さを羨んだ日もあった。
ところが、だ。
世の中が一変する日が来たのだ。
平和な森から溢れた黒に支配された動物達。
魔獣が人々を襲うのを、防ぐ為にこの国の凡ゆる騎士が立ち向かった。
しかし…
立ち枯れた森
砂漠化する大地
枯渇する食糧
どれをとっても、我が国のみで解決など出来ぬモノばかり。
五大大国が力を合わせて戦えども、僅かな抵抗となるのみで。
あの日。
異世界から訪れたあの者がいなければ。
黒の溢れる『空白の地』
人の入れぬと言われるその場所でおさめた勝利に驚いたのも束の間。
この世界は一つの国となる事になった。
当然、我がバンデ王国も例外ではない。かの者を王と戴くと決めた父王に否やは無い。
無いが…彼はその地位を捨てて姿を消した。
と、聞く。(今は仮の王として『デルニエール国』の王が治めていると聞いている)
自分を探す日々のはずが、突然の恐慌『呪い』の蔓延と戦う事に。やがては大切な末妹姫までもその犠牲に…そんな時。
『呪い』を解いた彼に出会った。
そして決心したのだ。彼について行きたい。
しかし願いは聖王様により却下されたのだ。
トボトボ歩く私の目の前に小さな村が見えて来た。
素朴な家々の中に良い香りをさせる店を見つけた。よくあるパン屋だ。
腹ごしらえと店屋に入ると若い娘が店番をしていた。
種類は一つ。
パンは三つ。
一つ買えば「アンタ、村の人間じゃ無いね。何処から来たんだい?」と聞かれ国境からと答えた。
娘の顔色が変わった。
不思議に思うと、躊躇うように娘は言う。
数日前から隣国から怪しい人々が来ていると言うのだ。
「どの様な者達だ?」
「見かけない人達なんだよ。でもね…」
「でも、なんだ?」
「一番異様なのは表情が無いらしい。まるで無表情なんだって!」
単に、怖がる者たちにそんな風に見えただけでは…。そんな私の考えが娘に伝わったらしい。
「アンタ!!聞いてきたのは、行商人なんだよ!!あの人達は色んなモノを見てきた人達なんだ。彼らを信じて国境の村の者達はずっと生きてきたんだ。王都なんて遠い場所の騎士団なんて役に立ちゃしないからね。」
僅かに顔が赤らむ。
怒りは非難に対するモノか…
図星を刺されたからか…。
は!!
もしかしたら、カズキ殿達に危機が迫っているのでは?
「良い情報に感謝する。娘、其方にこれを与える。」そう言い終えると私は駆け出した。
もう一度、彼らの元へ。
早駆けには自信がある。
幼い頃より騎士に混じって鍛えたのだ。
懸命に駆ける私の耳に異音が聞こえてきた。
地鳴りだろうか?
嫌な予感はいよいよ強まる。
心臓があげる悲鳴も無視して早駆けを強める。足を必死に動かす私は油断した。
気づいた時には藪から飛んできたナイフが右肩に刺さっていた。
「何者!!」
怒鳴りながらも、痛みを堪えて体制を整える。気持ちで負けては生き延びれない。
剣を構えながら、ナイフの飛んだ方へ目をやれば。
数人の真っ黒な風体の男達が現れた。
こんなシチュエーションは慣れている。
王太子として命を守る狙われるのは毎度の事だ。しかし…不味いぞ。
「ククク。流石に気づいたか。そうさ。毒の塗りこめてあるナイフのプレゼントだ。気に入ったかな?」
霞む目を堪えて、素早くナイフを抜いて奴へと投げる。頬を掠めるも外したか。しかし…。
「き、き、きさまぁーー!!俺様に毒を…」
そう言って懐に手を突っ込んだのを見届けて素早く距離を詰める。この方法しか無いと踏んだのだ。
解毒剤を必ず持っているはず。奪うには…。
周りの男たちも動けぬままに、男から薬を奪って飲む。
「お、お前…」とうめく男が泡を吹いて倒れた。
「さすがは王太子。毒に慣れしてあるのか。しかし、その解毒剤では助からぬぞ。」
クラリとする身体が膝をつく。
この男毎、フェイクか。
口に苦味を感じながら、それでも諦めぬ気持ちで奴らを見ても隙はない。
いよいよ、ヤバくなりだしたその時。
コッケーーーー!!!!!
鳥の鳴き声と沢山の羽音がした。
それが意識を保ってられる最後の記憶だった。
***
「おい、ヒーちゃん。
ニワ達がまたスピカ連れて来ちゃったじゃないか。あれ?顔色が悪い気が…ん?」
「大丈夫ですよ。このニワは特別ですから。どうやらこの男を助けたかったみたいですね。」
「あ、もしかして餌?!」
「もしかして別れ際に手渡してたのは、ニワ達の餌ですか?」
「そうそう。また新しい餌を作ってさ…それよりスピカだよ。こうなりゃ一緒に行くしかないって。ヒーはギルド本部を頼んだよ。」
「。。。」
「また、飛んできてよ、ね?」
「。。絶対ですよ?!」
「。。。ん。。」
その日、あるパン屋の娘が大金持ちになったと言う。何処かの旅人がくれた腕輪が金で出来ていたらしい…。