ネスカ村への秘密の小径の先は…?
この場所から抜け出すには、ます街を出るのか肝心だ。と、来れば『タンラ』の脇にある小径を使うのが一番だ。クザンに教えて貰った秘密の小径は子供ならではの細い道。
と、言うより抜け穴っぽい。
「こっちだよ、レナトゥス。」
と指差したら、ギョッとしてたからレナトゥスも知らなかったんだな。だとすれば、勝利は近いぞぉ。
「こんなはずは…まさか。」
小声で何か言ってるレナトゥスに構わずに、塀の穴に頭突っ込む。不思議なこの穴は、あっという間にネスカ村なんだ。すっげー便利だよな。な、レナトゥス…。アレ?れな…
***
俺のこの服は何だ?
周りに人達がこっちをチラ見している視線が痛い。こんなコスプレなんて持っていたっけ?それよりも何か大事な事を忘れている気がする。ポケットを探ると鍵が出てきた。
良かった。鞄も持ってないこの服じゃあ家に帰るしかないからな。
この辺りは船越駅周辺だな。だとすればあと20位歩けば我が家だ。しかし妙だな。
こんな中途半端な場所で駅を降りたなんて。
駅前の雑踏の視線に耐えながらも足早に歩き出してまた気づいた。
おいおい、靴もか?こんなポカポカと音の出る木靴のコスプレなんてして。会社の余興かな?
意外にも靴ヅレが出来ないうちに、辺りに畑が広がり出した。坂の多いこの街は家賃が安いのが利点で学校卒業してからずっと住み続けている。
築数十年の我が家、松本荘に帰り着いたのは既に夕暮れだった。再びポケットを探って鍵を取り出すと家の鍵穴へ差し込む。
ん?
家の鍵じゃないな、コレ…。
変な装飾のついた鍵は、単純な我が家の鍵じゃない。今日の余興の小道具だろうか。
仕方ないのでポストの近くに隠してあるスペアキーを取り出して部屋へ入る。
うっ。
臭いや。何でこんなに埃っぽいのだろうか。
これでもマメに掃除をする方なのだが。
とりあえず、着替える事にする。
いつものジャージだけどな。しかも高校の時のだ。膝がかなり薄くなって限界も近い。
やっと脱いでほっとした俺の目に異様なモノが見えた。
何…この指輪。
ごっつい指輪はまるで中世の映画に出てくる様な凝った装飾のモノ。宝石はないけれど価値があるモノだと一目で分かる。
ジワリと汗が吹き出す。
万年床に放り投げたあのコスプレ衣装が目に入る。ポケットからあの鍵も飛び出していた。
ボーンボーンボーン。
お、驚いたぁ。
古時計の音に驚くなんて。爺ちゃんの形見の古時計は唯一再婚して母から貰ったモノ。
螺子を回せばまだ使える。
半分壊れかけていた時計を捨てようとした母を押し留めて奪うように貰った来たのだ。
見ると夜中の12時になっていた。
え?
夕暮れに帰って着替えただけなのに、もう真夜中なのか?
ゾワリと背筋が寒くなる。
何か分からないけど、見慣れたはずの部屋が不気味に見えてきた。
ん?
古時計の後ろから光が漏れてる。
。。。なんで。。
壁のはずだろ?
怖い。何か怖いけどあの光が気になる。どうしても。
震える手で古時計に手を伸ばすと古時計が扉のようにギギギと開いた。
壁のはずの場所から漏れいた光は窓からのモノだ。
何のことだ、俺。
壁が窓になる?古時計の後ろに窓が発生してしかもそこから光が漏れてる?真夜中に…。
頭で理解出来なくても、窓から見える景色は確かに存在した。
光の中に見えるのは、誰かを探し回る人々で。
『そうだ。皆がお前を待っているんだ。』
今度は幻聴かよ…。
もうダメだ。明日は医者へ行くしかない。
『帰りたいと願ってくれ。それしか道は開かれない…』
段々と小さくなる幻聴を聴いているうちに頭が痛み出した。
チリチリ…。
振り返ると布団の上の鍵が音を立てている。
『居たか?こっちは工作部門全員で探したよ。そっちはどうだ?』
『ヤランさん達も総動員でネスカ村を探しているらしいがまだ…』
『カズキ…』
『ルーナス泣くなよ。カズキは必ず約束は守るよ。約束したろ?お祭りをするって。』
ルーナス。。オマツリ…。
鍵を握りしめた俺の目の前に彫刻のイケメン真っ青のムキムキが立っていた。
『カズキ…』
レナトゥス?
ここは?
あの窓は…。。
***
「レナトゥス。穴に潜ったけど、何故かネスカ村へ行けなかったよ。変だな…。あれ?俺ってば変な格好してるな。
見た事ある気がするけど…」
「預かるから着替えなよ。ほら」
レナトゥスから受け取った服に着替えて脱出する為の出口探しにかかろうとしたら。
「大丈夫だ。出口は出来たからついて来い。」
なにー?
いつの間に…。。
レナトゥスの背中を追いかけながら、何か忘れ物をした様な変な気持ちがぐるぐると頭の中を回る。
あのガチャガチャと言う音ですら、今は気にならない。
何だろう…。
そんな俺を何度も振り返っていたレナトゥスに気づくことなく俺は頭を何度も捻っていた。
ボーンボーンボーン。
遠くでかすかに聞こえる音に首を傾げながら。
首から下げた鍵が色を変えていた事に気づくのはまだ少し先の話…。




