扉の向こうは?
一定の形には、不思議な力を持つモノがある。それは知られている様で知らぬ話。
「レナトゥス様…」
絶句する俺以外は、声も出ない有り様だ。
当然だろう…太古から伝わる村の『秘中の秘』だったのだから。
初めて見つかった。
但し…人ならざるモノに、ではあるが。
「さて、きちんと話すのか。それとも吾が勝手に中を探るのか決断せよ。」
人外のモノは嘘をつけぬと聞く。だがそれ以上に直球の言葉である。と言うのは本当の事だったのだな。
既に老齢に入った村長に決断を押し付けるのはと思った私が返事をした。
「分かりました。こちらを見られたからには事情をお話ししましょう。ですが、中へ入る事だけはご容赦ください。」
手汗が握りしめた拳から地面に落ちる感覚を覚え始めた頃、ようやく返事があった。
「ヤランの言うその提案を呑もう。早く内容を話せ!!」
語気を荒めるレナトゥス様に妻が身体を揺するのは仕方ない事だ。その迫力に耐えながら言葉を続けた。
「いつの頃からかは知りません。この扉が荒野に出来ていたと聞きます。
それを守る為に選ばれたのがこの村の人間なのです。」
「吾でも知らぬとは久しぶりの驚きだ。中にあるのは何だ?」
「街です。それも理路整然と並んだ見た事のない街なのです。人の居ない家並みに成長しない樹々。不思議な街の真ん中に我々の守るべきモノがあります。」
さすがのレナトゥス様でも予想外だったのだろう。無言の彼をそのままに話をして続ける。
「扉を守る真言『明』を操れる一族の末裔が我らです。」
「扉を開けて何をしているのだ?いや、そもそも何故扉を開けるのだ?」
最もだ。
実は私だとて、何度も疑問に思ってきたのだから。しかし。
「ここからは言い伝えとしか言えません。それは『その時を見誤るな』のみで」
「なるほど。其方ら人の身では見張るしかないのか。」
レナトゥス様の言葉に頷く。
「では、村を去る危機を除いた主人の出現はもしかして…」
そこまで言いかけたところで、レナトゥスがそのままの姿勢で固まった。
そしてそのまま消えた。
「子供達は大丈夫かしら?」妻の言葉に汗を拭いながら答える。
「滅多な事にはなるまい。何故なら…」
しかし。
この予測は意外な方向で思い切り破られる事になるのだが…。
「とにかく。いつもの様に儀式を済ませねばなるまい。そしてヤランは急ぎ隣町へと向かえ。」
村長の言葉に頷き中へと進んだ。
扉の向こうには、変わらぬ姿があった。