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婚家の墓守を押しつけられた私、ご先祖様は黄金竜だそうで、親族をこらしめてくださるそうです  作者: 江本マシメサ
第二章 黒い靄とご先祖様?

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わからないことと、わかったこと

 勝手に上がり込んだ義弟を笑顔で迎える。そんな私を見るなり、義弟は顔を顰めた。


「あら、おはようございます。いい朝ですね!」

「お前、二日も何も食べていないのに、どうしてピンピンしている?」

「元気だけが取り柄ですので!」


 なんて言葉を返すと、義弟は私を突き飛ばし台所へと向かった。


「どうせこそ泥のように、本邸から食べられる物を盗んだんだろうが!」


 抜き打ち調査だ、とばかりに義弟は台所へ向かった。


「身内とて、盗人は犯罪だからな! 騎士隊に突き出してやる!」


 義弟は勝ち誇ったように言いながら食品棚を開く。しかしながら中は空っぽだ。


「何も盗んでいませんって」

「嘘を言うな!!」


 義弟は台所にとどまらず、離れのありとあらゆる収納を探して回った。

 しかしながら、食材は見つからなかったようだ。

 こういった事態を想定して、食品類は地下収納にすべて入れておいたのだ。

 貴族のおじさんは床下に収納スペースがあることなど知るわけがないだろう。

 私のほうが一枚だけ上手うわてだったわけである。

 ちなみに石版は義弟の訪問を警戒し、屋根裏に隠しておいた。こちらも見つからなくってホッと胸をなで下ろす。


「あの~、もうよろしいですか?」

「盗人め!」


 盗んだ品がないのに盗人呼ばわりとは酷いものだ。

 そんなことよりも、気になったことを聞いてみる。


「私に食事を与えずに放置して、餓死させるおつもりですか?」

「言っただろうが! 一人前の働きをしない限り、食事は与えないと!」

「一人前のお仕事というのは具体的にどのようなことを言うのですか? この二日間、霊廟の掃除はしております。ご当主様のお世話もしておりますし、離れの管理もしておりますが。これ以上どう働けと?」


 私の質問に対し義弟は返す言葉が見つからなかったのか、手を振り上げる。

 頬を叩かれる! そう思った瞬間、窓がパリーン! と音を立てて割れた。

 飛び散ったガラスの破片は義弟の頬を切り裂く。


「なっ――!?」


 何か飛んできたわけでも、誰かが故意に割ったわけでもない。

 それは窓の近くにいた義弟が一番わかっていることだろう。


「ど、どうしてガラスが勝手に割れたのですか!?」

「知るか!」

「も、もしかして、ご先祖様の呪いですか!?」

「そんなはずは――!」


 義弟は盛大に舌打ちしたあと、踵を返し帰って行った。

 私はガラスが割れた部屋でただただ呆然とする。

 これがご先祖様の呪いだとしたら、私を助けてくれたように思えるのだが……。

 本当にわからないことだらけである。

 ぼんやりしている場合ではない。他に被害がなかったか確認に行かなければ。

 ヴェルノワ公爵家のご当主様の部屋のガラスは割れておらず、本人も静かに眠っていた。は~~~~、と盛大なため息を吐き、その場に膝を突く。

 義弟について、何を考えているのかまったくわからない。

 私以外の女性だったら、空腹のあまり倒れていただろう。


「ご当主様、あのお方はいったい何をお考えなのでしょうか?」


 私を極限まで追いつめて、支配下にでも置きたかったのだろうか?

 わからない。


「そもそも、ヴェルノワ公爵であるご当主様をこんなところに置いているのも、大問題なんですよ」


 ここでなければ、呪いを制御できないというのか。魔法陣なんてどこでも展開できそうなものだが。

 魔法について知識は皆無なので、おかしいことだと指摘できないのが悔しい。


「ご当主様の意識があったら、怒ってくださったでしょうか?」


 そう問いかける。返答なんてないものだと思っていたのに、思いがけない反応が返ってきた。

 ヴェルノワ公爵家のご当主様の唇が、わずかに動いて声を発したのだ。


「ググ……ガ」

「え!?」


 その声に覚えがあった。すぐさま叫んでしまう。


「昨日の!?」


 黒い靄に浮かぶ人影がギギギとかゲゲゲとか言って、私に何か伝えようとしていたのだ。


「あの黒い靄って、ご当主様なのですか!?」


 ヴェルノワ公爵家のご当主様の上半身を揺すって話しかけるも、唇は閉ざされたまま。

 一時間ほど続けて話しかけてきたものの、別の反応を引き出すことはできなかった。

 ただ、収穫はあった。


「私の夢に出てきた何か訴えようとしていたのは、ご当主様だったのですね」


 私が行動を起こせば、意思の疎通ができるようになるのかもしれない。

 けれどもいったい何をすればいいものか。

 特別なことはしていないが――と思ったが、石版について思い出す。

 もしかしたらあの石版が、何か関連がある可能性があるのだ。

 一日目は石の欠片を拾っただけだったので姿はおろか発言も謎だったが、石版の修繕が完了した二日目は姿を捉え発言も聞き取れるようになったのだ。

 もしかしたら石版を霊廟に持っていって、石碑にくっつけたら、夢の黒い靄に変化があるかもしれない。試してみる価値はあるだろう。


「ご当主様、待っていてくださいね!」


 夢の中でだけも会話ができるようになれば、今の状況を打開できるかもしれないのだ。

 ひとまず働く前に割れたガラス窓をどうにかしなければ。飛び散ったガラスの破片は何かに使えそうなので革袋に入れて取っておく。

 吹き抜けとなった窓には布を当てて釘で打っておいた。応急処置でしかないが、何もしないよりはマシなのだろう。

 次に食事だ。パンにチーズとバジル、ハムを挟んだものと薬草茶をいただき、元気いっぱいに家を出る。

 屋根裏部屋にある石版を持ち、モルタルを作成したあと霊廟を目指したのだった。

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