第九十九話 召還
気を取り直して作業再開。
俺はさっきの失敗を繰り返さぬよう注意して、次々と木を切った。ドラゴンを殺した剣の切れ味は人智を超えていて、どんなに太い幹であろうとまるで藁を切るように一振りで切り倒した。
それを見てコングが呆れたふうに、
「もうお前が一人で切れよ」
と言い出し、結局俺一人で木を切る事になった。
その代わり他の男たちは切った木を運ぶ役に回り、薪集めはかつてない速度で進んだ。
中でも活躍したのはやはりコングである。この力馬鹿は一人で丸太を三本も四本も運び、数人分の仕事を一人でこなした。
こうして数日かかると思われたひと冬分の薪の採取は一日で終わった。
仕事が早く片付いたので、余った日は休息にあてがわれた。降って湧いたような休日を、領民たちは家族との団欒に使った。
だが俺は――いや、俺たちは知らなかった。
こうしている間にも、危機はすぐそこまで迫っている事を。
唐突にそれはやって来た。
夕食の席で、ルーンが俺に一通の書状を見せた。やたら手触りの良さそうな皮紙で、今は剥がれているが随分と凝った意匠の赤い封蝋がある。
「何だそりゃ?」
「召還状よ」
「召還状?」
「簡単に言うと、お城に来いっていう手紙よ」
「城に? いったい何の用だ」
「どうやら領主ってのは何年に一回か王城に行って王様に報告しないといけないんだって」
「それが今年なのか」
「そう」
「で、報告って何を報告すればいいんだ?」
「さあ? 最近あった戦の結果でも話せばいいんじゃない?」
「そんな適当でいいのかよ」
「あたしだって初めて聞いた話なのに、知るわけないじゃない。どうせ質疑応答だと思うから、訊かれた事にだけ答えてればいいのよ」
俺が「ふうん」と気のない返事をすると、ルーンは「じゃ、そういう事だから明日お城に行ってね」と書状を俺に投げ渡す。
「俺だけかよ?」
「だってそれスレイ宛てだもん。あたしらの名前は書いてないんだから、行ってもしょうがないでしょ」
「マジか」
「お? スレイ王都に行くのか? じゃあ土産頼むわ。俺酒ね」
「あ、じゃあわたしは調味料を」
「おい待て。遊びに行くんじゃないんだぞ」
「いーじゃねーか。留守番してる俺たちに、何かご褒美くれたっていいだろ」
ご褒美ってツラか。あと遊びに行くんじゃないんだぞ。
「念のために言っとくけど、余計な仕事引き受けないでよ。王宮で何か言われても、絶対にぜっっっったいに安請け合いしない事。例えそれが人助けであってもね」
「冬だからって敵が攻めて来ないっていう保証もないしね。仕方ないけど我慢してね、スレイ」
「俺は子供か。それくらい自重できるから安心しろ」
するとホーリーとルーンは口を揃えて、
「安心できるわけないじゃない」
と言った。どうやら俺は完全に子供の使い以下のようだ。
「とにかく、明日からスレイは王都行きだからね。今日は長旅に備えて早く寝なよ」
「お弁当いっぱい作るから、頑張ってね」
「良かったなスレイ。かーちゃんが二人いるみたいだぞ」
良くねーよ。




