第百話 三人目
数日後、俺は王都に来ていた。四人パーティだったり引っ越しの荷物があった前回とは違い、今回は身軽な一人旅だ。急いだつもりはなかったが、思ったより早く着いちまったな。
まあいい。どうせ日時指定など無いのだから、厭な事はさっさと済ませてしまうに限る。俺はそう思って王城へと向かった。
門番に書状を見せると、案外すんなり中に通してくれた。案内に先導されて城内を移動し、前回も来た謁見の間に通された。
番兵が重厚な扉を開き中に入ると、それまで石と木でできた狭苦しい空間が一気に解放される。
眩しい。大きな窓から取り込まれた光が、室内のありとあらゆる場所に置かれた調度品やシャンデリアの硝子で乱反射している。中でも一番強く光を放っていたのが、室内の最奥に据えられた玉座に嵌められた宝玉だった。あまりにもきらびやかなせいか、目だけでなく頭までちかちかしてきた。
そして二番目が、玉座の傍らに立つ騎士の鎧だ。鎧はそれ自身が光を放っているように見える。そういえば、スレイの持つ剣も魔力が付与されているせいでぼんやりと光っているから、きっとあの鎧もそうなのだろう。そんなのを装備してるとなると、どれだけ地位が高いのやら。
俺は出発前にルーンやホーリーに厭というほど反復させられた、謁見の作法を思い出しながらゆっくりと玉座に向かう。そして玉座に続く階段の手前に辿り着くと、恭しく片膝を着いて頭を垂れた。
「面を上げい」
言われた通りに顔を上げると、またもや頭がちくりとした。そこでようやく思い当たる。
これは、目が眩んだ痛みじゃない。
いる。
この近くに、
虫が。
まさか、と思って玉座に座る太った男を見る。違う。こいつじゃない。だが安心してる場合じゃない。では誰が。
「どうした。何を見ている」
愕然としている俺の顔を見て、太った男が不思議そうな声を上げる。
「ああ、そうか。お前も剣士のはしくれ。やはり気になるか」
太った男はそう言うと、隣に立つ豪奢な鎧を着た男の背中に手を添える。
「我が国が誇る大将軍、センキじゃ。そう言えば、叙勲式の時は戦でおらなんだな」
男――センキが俺を見る。油断の無い、だが決して卑屈ではない、自分が絶対強者である事を自負している男の力強い視線だった。
圧力を持った視線に見入られ、俺の頭を刺す痛みがさらに増す。
間違いない。
こいつの中に虫がいる。
大きな男だった。ただ身長が高いだけではない。肩幅、胸板、首の太さやら何から何まで常人とはまったく寸法が違う。しかもただ太く厚いだけじゃない。全身くまなく鍛え込まれ、筋肉が何重にも絡まり合っているのが鎧の上からでもわかる。近距離パワー型のコングとはまた違うタイプの巨漢だった。
センキは短く刈り込まれた頭を少しだけ傾げる。それだけで、視線の圧がさらに上がった気がした。太い眉が寄る。
「お前か」
地響きのような声だった。
そして固く引き結ばれていた口の端が、ゆっくりと持ち上がる。
笑った。
どうやら向こうも俺が虫だと確信したようだ。




