第九十話 教えてゼンさん②
「これだけって、それだけ?」
ゼンがやって見せたのは、槍に見立てた長い木の棒で、ただ地面を叩いただけだった。
「左様。これを順序良く、間断なくやる事が重要ですが、基本はこれだけです」
馬鹿な。槍とは、基本は突くものだ。その長さで相手との距離を保ち、優位な状態で突く。それがこの男の言う通りだと、ただの棒きれと同じではないか。
「この槍の正しい使い方は突くのではなく、こうして上から叩きつける事です」
「それだけでいいのか? 何だか嘘くせーな」
コングが疑うのも無理はない。俺だって正直眉唾だ。
だが俺たちの疑念をまったく意に介さず、ゼンはにこやかな笑顔を崩さずに言う。
「でしたら、試してみましょう」
ゼンの提案によって俺とゼン、コングが槍役と敵役に分かれて模擬戦をする事になった。
俺とゼンは槍に見立てた棒を持って並んで立ち、コングは少し離れた所に立った。周囲には領民たちが見学している。これは下手なやられ方をしたら恥ずかしいぞ。
「おい、俺は槍の経験はほとんど無いぞ」
「実戦で使うのは領民たちなのですから、それでいいんですよ。素人にもわかりやすく、なおかつ効果は抜群、というのがこの戦法の売りなのです」
言われてみればそうか。ではお手並み拝見といこうか。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
模擬戦という事で鎧は着ず、訓練用の盾と木剣を持ったコングが早くも鼻息を荒くしている。
「コング殿は、開始の合図をしたら自由にこっちを攻めてくれていいですよ。お互いの武器が身体に当たったら負け、という事でよろしいですか」
「いいぜ。いつでもいいぜ」
おい、何だよそのやる気満々の顔は。あくまで模擬戦って事を忘れるなよ。こんな事でケガしたらアホ臭いからな。
先行き不安そうなのが顔に出ていたのか、ゼンが「大丈夫ですよ」と微笑んでくる。
「拙僧の言う通りに動いてくれれば、何も問題ありません」
何だか詐欺にあってるような気分だが、ここはゼンの言う通りにするしかなさそうだ。
「それでは始めますよ」
「おう」
「よーい、始め!」
「おらあっ!!」
ゼンが開始の合図をすると、思った通りコングは持ち前の俊敏さを生かしていきなり突撃してきた。
「はい、叩いて!」
ゼンの合図で俺は立てていた棒を力いっぱい振り下ろす。だが所詮は一本の棒だ。コングはやすやすと盾で防ぎ、俺たちの所に駆け――
ない。
「く……」
見れば、コングは俺の棒を盾で防いだものの、すぐさま上から襲いかかってきたゼンの棒を防ぐために足を止められていた。
「すぐ戻して!」
「お、おう」
言われるままに、俺は棒を引き上げる。長さが尋常じゃないので打ち下ろすのはいいが上げるには結構力が要る。
「すぐ叩いて!」
ゼンの声に、俺は反射的に棒を振り上げ、再びコングへと振り下ろした。
そして俺が下ろすとすぐにゼンが後を追うようにしてコングを叩く。
「戻して!」
「叩いて!」
「戻して!」
「叩いて!」
何だこりゃ。とんでもなく忙しいぞ……。おまけに槍が異常に長いせいで持ち上げるだけでもそうとう腕力が要る。だが俺とゼンに二人がかりで間断なく棒を叩きつけられ、コングは防戦一方で動けない。
「何だこりゃ!? 攻め込めねえ!」
「どうですか? まだやりますか?」
「わかったわかった。もういい、降参だ!」
コングが降参すると、俺たちは棒を振るのをやめた。見学していた領民たちから感嘆の声と拍手が起こる。どうやらゼンの戦法の有用性が理解されたようだ。酷く疲れたが、確かにこりゃいい戦法だ。




