第八十一話 山賊戦⑤
解除した触手を再び接続し直すと、スレイの身体の指揮権が戻る。筋肉の硬直を解除し、気管に侵入していた奴の触手を急いで引き抜く。
「ぷはっ……!」
ようやく吸えた新鮮な空気が、全身に染み渡る。当然脳も酸素不足だったため、特に優先的に酸素を回す。
手繰るようにして触手を引っ張りだすと、思った以上に侵入していた。
「おえ、」
何度もえづきながらどうにか引きずり出し、地面に投げ捨てる。べしゃり、と生ゴミのように落ちたそれは、酷くみすぼらしく見えた。
同族の姿に、今の自分の姿を重ねる。きっと、自分も大差ない姿をしているのだろう。
こんなに小さいものが、ゴブリンや人間、果てはドラゴンまでも操っていたのか。だが所詮は寄生虫。ひとたび身体から引きずり出してしまえば、この有り様だ。
強いのは、宿主の身体であって俺たちじゃない。俺たちはただの虫ケラで、寄生して初めてまともに生きられるような出来損ないだ。
けどだからこそ、強さに憧れ求めるのかもしれない。この魂の奥底から聞こえる「最強の生物を目指せ」という声も、その本質はただの憧憬から来ているのではなかろうか。
……っと、つい感傷的になってどうでもいい事を考えてしまった。俺は立ち上がると、大きく息を吸い込む。何度か繰り返し、足に力が戻ったのを確かめると、
俺は奴の亡骸を足で踏み潰した。
何度も足首を捻り、完全に土と同化するまで念入りに踏みつける。証拠隠滅の意味もあるが、この醜い姿をこれ以上見たくなかったからだ。
あばよ、兄弟。
今回は、俺の勝ちだ。
まだその辺をうろついていた山賊の土馬に頭領の遺体を乗せ、俺はコングたちの所に戻った。
「よう、そっちも終わったか」
俺に気づいたコングが声をかける。見れば、降伏した山賊を縛っているところだった。
残った山賊の数から、どうやら俺と頭領がサシに入ってすぐくらいに見切りをつけた奴がほとんどのようで、結果的に半数近い山賊が無駄に命を散らす事無く縛についた。こういう奴らほど、自分の命の瀬戸際を見切る能力に長けているんだよなあ……。
「ああ。けど言っとくが、事故だからな」
「?」
コングは俺の言った言葉の意味が理解できずにいたが、馬の背に乗った頭領の死体を見て「うわ」という声と同時に理解したようだ。
「ひっでえなこりゃ。何がどうなった?」
「落馬した後、自分の馬に踏み殺されたんだ」
「うわ~、そいつは悲惨だな……。しかし困ったな」
「何がだ」
「こんだけ顔がぐちゃぐちゃだと、山賊の頭領ってわからないだろ。この死体を見て誰が納得するんだ?」
「あ……」
「そういや、前もこんな感じの事あったよな。お前がボスゴブリンの頭を失くしたせいで、ギルドに依頼達成証明ができなくて結局タダ働きしたやつ」
「あ~、そいうのもあった……かな」
悪かったな。そのボスゴブリンは俺だよ。




