第八十話 山賊戦④
それは、ミミズに無数の触手が生えたような姿だった。
全長はスレイの人差し指くらい。目は、それと分からないほど小さい点が不規則に並んでいる。耳は無い。音は全身で感じるか、宿主を通して聞こえる。そもそも俺たちの感覚器官はそれだけではほとんど用をなさず、五感は他者と共有しなければならない。寄生虫は、何かに寄生しなければまともに生きる事もできないのだ。
山賊の頭領に寄生していたそいつは、外の空気に触れているだけで死にそうなほど弱っていた。
周囲に寄生できそうな生物はいないので、このまま放っておいてもすぐに死ぬだろう。しかし、俺自身がそうだったように、死にかけている者の生への執着は、時として想像を絶するものがある。
例え宿主を失った寄生虫であろうと、油断は禁物だ。そう考えた俺は、奴にとどめを刺す事にした。そこには、同族への手向けの意味も少しはあったのかもしれない。
盾を背中に引っ掛け、両手で剣を逆手に持つと、原型を留めていない頭領の顔面の前でしゃがみ込む。あまり気分の良いものではないが、脳ごと虫を斬り刻む事にする。それが最も確実だ。
頭の傍で片膝を着き、剣を振りかぶったその時、
いきなり虫が俺に飛びかかった。
「なにっ!?」
突然の反撃に、俺は思わず剣を取り落とす。その間にも奴は俺の顔に触手を貼りつけ、鼻の穴や口から侵入しようと試みる。
迂闊な事に、俺は周囲に寄生できそうな生物がいるのを見落としていた。
俺だ!
奴はこの期に及んで、スレイの身体を奪おうと最後の抵抗を試みてきたのだ。俺は全力で顔から引き剥がそうとするが、文字通り死に物狂いの奴は、それ以上の力で触手を絡めてくる。
「ぐ……が、あ……」
口から侵入した奴の触手が気道を塞ぎ、息ができなくなる。何とか噛み千切ろうとするが、別の触手が邪魔をする。
拙い。鼻の穴から伸びた触手が鼻腔内を通って、俺が貼りついているスレイの脳へと向かっている。おまけに息ができないせいで、スレイの身体からどんどん力が抜けていく。
本格的にヤバい! もし奴がスレイの頭の中に入って来たら、俺と蜂合わせる事になる。だがスレイの身体を支配するために脳に触手を張り巡らせている俺には、奴の侵入を防ぐ手段が無い。
どうすれば……。考えている間にも、どんどんスレイの身体は弱っていき、奴は奥に侵入してくる。
こうなったら、一か八かの賭けだ。
俺はスレイの脳に全身の筋肉を硬直させる命令を叩き込むと、解除しても支障のない箇所に接続していた触手を何本か抜く。
命令を受けて、スレイの身体が硬直する。奴を押さえた状態で固まったため、数秒はこれで耐えられるはずだ。
急げ。俺は自由になった触手を、今まさに鼻腔から侵入しようとしている奴の本体に突き刺した。
それがとどめとなり、奴はようやく最期のあがきをやめた。それまでの壮絶な抵抗がなくなり、弛緩した身体がだらりと垂れる。
危なかった……。




